第3話(1/4)「聖女様って男性でもなれるのかしら?」

 

「でも。街の孤児院に居たクラウディウスは聖女の最有力候補として我がアムレート公爵家の養子となったのよね」


「はい。クラウディウス様は浄化や治療に必要な聖属性の魔力が長じておりまして、お噂を耳にした旦那様が実際にその目で確認をされた後、養子に迎えられました」


「確かに。クラウディウスの魔力治療は凄いわよね。擦り傷や切り傷程度なら一瞬で治してしまうし。断続的にでも魔力を浴びせ続ければ大抵の病魔は退けられるとか」


 言いながらテルマの声は段々と小さくなっていっていた。


「…………」と少しだけ黙り込む。


 テルマの母親はクラウディウスが養子となる一年前に病死していた。もしもクラウディウスがあと一年早くアムレート家にやってきていれば、テルマの母親は今もまだ健在であったかもしれない。……今更の話だ。テルマもわかってはいる。


「お嬢様……」とロウセンが呟いていた。テルマは半ば無理矢理に明るい声を出す。


「魔力の高さだけじゃないわ。優しい性格もそう。自己犠牲の精神というのかしら、我が家にやってきたばかりの頃は自分の食事を半分も摂らずに残しておいて、夜中にこっそり孤児院に持っていっていたりもしたわね」


「あの当時は幾ら栄養のあるお食事をお出ししても痩せ細ったままのクラウディウス様を見て『聖属性魔法は生命力を消費するのか』『聖女を消耗品にしてはならない』『彼女も幸せになるべき一人の人間だ』と公爵家中大騒ぎでクラウディウス様を太らせようとあれやこれやを致しましたね」


「そうだったわね」


 テルマは「懐かしいわ」と微笑んだ。


「結局、クラウディウス様が最初の痩せぎすな状態のままちっとも太っていかなかった理由は出されていた食事をほんの少しだけずつしか食べてはいなかったという単純なものでしたが」


 その訳を知ったテルマとテルマに聞かされた公爵家から、孤児院には十分な寄付が継続的にされる事となった。おかげでクラウディウスは自分の食事を孤児院に持っていこうとする事は止めて自身で摂るようになり現在は順調に健康的な身体を取り戻しつつあった。……いや。その生まれ育ちを考えれば「取り戻し」ではなく「はじめて手に入れる」のかもしれない。


「将来はクラウディウスが聖女様になられるのだと――いいえ。彼女が聖女様なのだとわたくしもずっと思っていたわ。……でも」


 そう。またしても「でも」である。


「――聖女様って男性でもなれるのかしら?」


 当然の疑問であった。


「言葉で見れば『聖女』は女性です」


 ロウセンが私見を述べる。


「ただ聖女様のお役目に関して言えば性別は関係ございません」



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