第2話(1/3)「傾国の狐。歌う烏。クラウディウス・アムレート」

 

 アムレート公爵家の風呂場にて。テルマェイチ・アムレートは、今から半年前ほどにアムレート家の養子となった義妹のクラウディウス・アムレートと互いに裸で向き合っていた。


 テルマは胸まで湯船に浸かっていたが、クラウディウスの方は浴槽の手前で立っていた。距離的にも高さ的にもちょうどテルマのすぐ目の前――「妹」であるはずのクラウディウスの股間には小さな男性器が存在していた。


「わたしはまだオ****が取れていないので。お姉さまに裸を見られる事は少し恥ずかしいです」


「……『まだ』?」


 広い浴室内には白くて厚い湯けむりが立ち込めていた。


「そうなんです」


 気恥ずかしげにクラウディウスが言った。


「わたしは成長が遅くて。オ****が取れるのは他のヒトよりも遅くなるかもしれないけれどオトナになる前には必ず取れるから心配しなくても良いって神父さまが」


「ちょ、ちょっと待ってくださる……?」


 この子は一体何を言っているのか。理解が追い付かずにテルマは額に手を置いた。


 クラウディウスの言った「神父さま」とは、アムレート家の養子となった去年まで彼女が暮らしていた孤児院の責任者の事だろう。その孤児院は街の教会に併設されており、運営も教会が担っていた。


 彼女は赤ん坊の時分に捨てられ――もとい。教会に預けられたとテルマは聞いていた。という事はその「神父さま」はクラウディウスの育ての親もしくは親達のうちの一人という事になると思うのだが……。


 ……オ****が取れる……? ……嘘よね? そんな事……。


 生まれた時にオ****があれば男で。男として生まれたら一生、男のままよね?


 途中でオ****が取れて女に変わるなんて事……無いわよね?


 教会の神父――聖職者と言われるような方がどうしてそのような嘘を……? ……嘘なのよね? でも。聖職者が嘘なんて付くのかしら……? ……え? あら……?


「あの……お姉さまは何歳ぐらいに取れたんですか? オ****」


 あまりにも無邪気に、そして堂々とそんな質問をされてしまうと、


「え……? あの……わた、わたくしは、はじめから……。……え? え……?」


 自分の常識の方が疑わしくなってきてしまう。


 良いのよね……? わたくしは生まれた瞬間から女というか女として生まれて……あら? あら……? 覚えていないだけでわたくしの股間にもオ****はあったのかしら……? 小さい頃には。取れたのかしら……?


 テルマは混乱してきてしまった。あら? あら? あら……? 頭に続いて目までもおかしくなってきてしまったのか目の前に立っているクラウディウスのその奥に、もうひとつの人影が見える。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る