第1話(3/3)「お姉さまとお呼びなさい。あなたはわたくしの妹――ですのよね?」

 

「クラウディウス。あなた、男でしたの?」


 高位貴族らしからぬストレートな物言いだった。教育係に聞かれていれば叱られてしまいそうな言葉遣いだったが今のこの場にはテルマとクラウディウスの二人だけ。言質を取られにくい代わりに分かりづらい貴族言葉では誤解の素になろうと敢えて、テルマははっきりと尋ねたのだった。……想像だにしていなかった事態に頭が働いていないわけではない。という事にしておいてほしい。姉の威厳を保つ為にも。


「はい?」


 とクラウディウスは小首を傾げる。可愛らしい。……そう。可愛らしいのだ。


 股間の異物をこの目で見ていなければ、とてもではないがクラウディウスを男性だなんて思えなかっただろう。股間の異物を見てしまった後の今でさえあれは見間違いだったのではないかとこの目の方を疑いたくなってしまう。


 クラウディウスは現在十二歳だったがそれは少年期特有の中性っぽさでもなくて、「彼女」は完全に女性的だった。もっと言えば可憐な少女的だった。あざとさが無いのだ。少なくともテルマには感じられない。


 根拠の無いただの印象ながら、クラウディウス本人に何らかの思惑があって女装をしていたとは考えにくかった。悪意は勿論、テルマを騙すつもりも何も無かったのではないか。


 きっと止むに止まれぬ事情があるのだろう。


「あの……」


 と重たそうに口を開いたクラウディウスの次の言葉を、


「ええ。聞かせて頂戴。何でも」


 テルマは余裕ぶった表情でゆったりと待ってやったがその心情は推して知るべし。


「……すみません。わたしまだオ****が取れてなくて……」


「……はい?」とテルマはクラウディウスの顔を見た。彼女は申し訳なさそうに俯いていた。冗談を言っているような表情ではなかった。


 テルマの聞き違いだろうか。


「え……と。クラウディウス? もう一度、言っていただけるかしら?」


「あ、はい。すみません。わたしはまだオ****が取れていないので。お姉さまに裸を見られる事は少し恥ずかしいです」


 そう言いながらもクラウディウスがその細い腕で隠しているのは真っ平らな胸の方だけで下半身は丸出しにされていた。区別は難しいながらどうも羞恥心というよりは照れのような感情を抱いているように感じられた。……オ****を見られる事が恥ずかしいというよりはオ****が「まだ」付いているという事実が知られてしまった事を恥ずかしがっているようだった。


「……『まだ』?」


 テルマは思わず呟いた。



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