第1話(2/3)「お姉さまとお呼びなさい。あなたはわたくしの妹――ですのよね?」

 

 これまでは常にそばに居た専属メイド等の手前もあって互いに遠慮や萎縮があったと思うが今のこの場では他に誰の目も耳も無い二人きりだった。


 文字通りの裸の付き合いで心の方も開いてもらい、テルマは彼女と解り合いたい。もっとちゃんと仲良くなりたいと考えていた。


 テルマは自身の理想である頼れる姉然とした余裕のある笑みをこしらえて、少女を迎える。


「堂々となさいな。クラウディウス。あなたはわたくしの妹――」


 ――だと思っていたのに。


「え……?」


 テルマのすぐ目の前にまで来られて、はじめて分かった。湯けむり越しでは確認が出来なかったその股間には公爵令嬢として生まれたテルマがまだまだたったの十五年ながらもその人生でただの一度も見た事がなかった異物が小さいながらも確かにぶら下がっていた。


 見た事はない。見た事はないが知識として知ってはいた。


「……あなた。それ、おち――」


 ぽろっとその名称を口に出しかけてしまったところでようやく、はっと気が付いたテルマの顔が真っ赤に染まる。一瞬の内だった。


「あ、はい」と口を開いたクラウディウスが、


「わたしまだ」


 発した言葉を掻き消すように、


「きゃーッ!」


 公爵令嬢の絹を引き裂くような大絶叫が広い風呂場内にこだました。


「お姉さま?」と状況を全く理解していない顔でクラウディウスが立ち止まる。


「ど、どうされました? あの、わたし何か」


 怯えるようにテルマの顔色を伺ってくる。その表情は明らかに弱々しくて、当然のように悪意の欠片も感じ取れなかった。


 いつものクラウディウスだ。テルマの妹だ。


「な、何でもありません」


 妹を前にした姉は精一杯の虚勢で応えた。がその顔はまだ真っ赤なままだった。


「ですが」と心配を続ける妹に姉は、


「わたくしの事よりも」


 と強めの口調で話を進めようとする。


「クラウディウス。あなた、男でしたの?」



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