【04】
1人目は、陳黄砂(チェンファンシャ)という、中国人の女性だった。
中国籍といっても、日本生まれの日本育ちで、ご両親は台湾のご出身だということだ。
長身のスレンダー美女で、色白の細身の顔に、切れ長の目と黒いロングヘアーがよく似合う、絵に描いたような中国美人だった。
彼女は大学を卒業した後、3年間カナダに留学していたそうで、日本語と中国語に加え、英語まで流暢に話せるようだ。
語学が苦手な僕などは、一緒にいるだけで、つい気後れしてしまいそうな、そんな知的美女である。
どうしてこんな人が――と、誰しもが思うだろうし、勿論僕もそう思った。
なので、最初のデートの時に、何故彼女が僕のような冴えない男を交際相手に選んでくれたのか、遠慮がちに訊いてみた。
すると彼女は、嫣然とした笑みを顔に湛えながら、真っ直ぐに僕を見つめた。
「ありきたりの答えかもしれませんけど、オキタさんの誠実さですわ。こう見えて、色々な殿方とお付き合いする機会がありましたの。でも、どの方もとてもギラギラしていて、一緒に過ごすと、正直とても疲れるのです。でも、オキタ様のお写真を拝見して、この方ならと思いましたのよ。こうしてお会いして、私の感が正しかったことが、証明されましたわ」
その答えに、僕は陶然となってしまった。
2人目は、葛野騙(くずのかたり)という日本人女性だ。
小柄で清楚な感じの、何となく小松菜沙羅陀(こまつなさらだ)ちゃんを彷彿とさせる面立ちの人だった。
それだけで半分舞い上がってしまった僕は、気を引き締めて陳さんにしたのと同じ質問を投げかけた。
すると騙さんは、恥ずかし気に俯きながら呟いた。
「優し気な方だからです」
「優し気、ですか」
「はい、そうです。私はとても気が小さいので、激しい方、強く当たられる方、明るすぎる方は、とても苦手なのです。その点、オキタさんは、とても優しそうで。直接お会いして、そのことを確信しました」
そう言って騙さんは、上目遣いに僕を見て微笑んだ。
――来たあああああ。遂に僕の時代が、来たあああ。
僕は心の中で雄叫びを上げながら、宇宙まで舞い上がる気分だった。
***
こうして陳黄砂(チェンファンシャ)さんと、葛野騙(くずのかたり)さんという、タイプの違う2人の超絶美女と交際することになった僕の元に、『グッドラック商会』から、400万円の請求書が届く。
確かにかなり高額ではあったが、今の状況に大満足していた僕は、即座に請求額を振り込んだ。
10年以上働いて、大した趣味もなかった僕は、それなりの額の貯金を持っていたのだ。
僕は毎日が楽しくて、ルンルン気分だった。
そんなある日、陳さんとの何回目かのデートの夜。
会社帰りに2人で食事を終えた後に、陳さんが思いつめたような顔で、僕に言った。
「オキタさん。今日私は覚悟を決めて参りました」
その真剣な眼差しに、僕はゴクリと生唾を飲む。
「今夜こそ私、オキタさんと結ばれたいのです。ご承知いただけますか?」
「む、結ばれるというのは、もしかして…」
「私にこれ以上言わせるのですか。あるいは、私と結ばれることがお嫌ですか」
そう言って陳さんは、俯いてしまう。
僕は慌てて言った。
「と、と、とんでもありません。ぼ、ぼ、僕なんかでよければ、是非お願いします」
何とも間抜けな返事である。
その後僕は、陳さんに引っ張られるようにして、人生で初めてラブホテルという場所に入ることになった。
ホテルの室内に入った僕の耳元で、陳さんが囁いた。
「オキタさん。先にお風呂を使って下さいな。夜は長いですから、ゆっくりと」
僕は操り人形のようになってバスルームに入ると、夢心地でバスタブに浸かる。
ついに僕も、童貞卒業かあ。しかも、あんな美人と。
想像するだけで、股間が漲ってくる。
20分ほどして、バスルームから出た僕は、室内を見て呆然としてしまった。
陳さんがいないのだ。
影も形もない。
もしかして僕を驚かそうとして、クローゼットに隠れているのかな――などと幼稚な想像をしてみたが、彼女は完全に消え失せていた。
彼女の番号に掛けてみたが、着信拒否になっていた。
僕は途方に暮れたが、そこに居続ける訳にもいかず、ホテルを出ると、とぼとぼと家路についた。
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