【03】
五右衛門太郎神酒乃介(ごえもんたろうみきのすけ)に連れられたのは、何と僕の自宅マンションから徒歩7、8分のビルの3階にある、小さな会社だった。
入口の扉のガラスには、『グッドラック・マッチング・コンサルティング株式会社』と書かれている。
五右衛門太郎に導かれて中に入ると、事務机が4台置かれた小さなオフィスだった。
その1つで仕事をしていた大柄な女性が、僕たちに気づいて近づいて来る。
近くで見るとその女性は、身長が180cm以上はあり、ボディビルダーのような、がっしりとした体格をしていた。
「オキタ様。社長の五右衛門太郎菊(ごえもんたろうきく)でございます」
何故だか僕の名前を知っているその女性は、名刺を差し出しながら挨拶すると、僕たちを近くの応接セットに誘った。
「五右衛門太郎さんということは、ご兄妹ですか?」
「いえ、神酒乃介とは、従姉弟でございます」
僕の問いに、菊さんは満面の笑みで応えてくれたが、その体格の立派さから、物凄い圧力を感じてしまう。
「従姉さん、早速商談に入りましょう」
菊さんの隣に掛けた神酒乃介が言うと、菊さんは即座に窘める。
「これ神酒乃介。そのように急いては、オキタ様に失礼ですよ」
そして僕に迫力のある笑顔を向け、野太い声で説明を始めた。
「オキタ様。私共『グッドラック・マッチング・コンサルティング株式会社』は、善男善女の皆様の間を、良縁でお繋ぎすることをモットーとしておりまして…」
そこからの説明は結構長かったが、結局は料金を取って、異性間の出会いをプロデュースすることを生業としている業者のようだ。
確かに神酒乃介の言うように、風俗的ないかがわしさはないようだし、料金も『グッドラック商会』同様、後払いというか、交際が成立してからの成功報酬のようだ。
しかも1か月間のクーリングオフ期間まであるらしい。
「私共のご紹介制度と、神酒乃介の会社の<美女と確実に交際を始めることが出来る幸運>という商品を組み合わせましたら、交際成立は100%確実でございます。現にご利用いただいた沢山のお客様から、このように感謝のお言葉を頂戴しております」
菊さんは、厳つい指で器用にパンフレットを捲りながら、丁寧に説明してくれた。
僕は菊さんの圧に押されながらも、訊くべきことは訊いておこうと思った。
「そ、それで、先程神酒乃介さんからお聞きした、『1口、200万円』というのは…」
「ああ、そのことでございますね。もちろん私共のご推薦する女性との交際成立は、神酒乃介の会社の<美女と確実に交際を始めることが出来る幸運>と併せてご利用いただく場合に限り、100%保証させていただきます。しかし交際が成立した場合でも、ご結婚まで至るかどうかは、さすがに保障し兼ねます」
「け、結婚ですか」
「オキタ様は、結婚はお望みではありませんか?」
「いや勿論、結婚したいとは思ってますが」
「やはりそうですか。私共では、ご結婚に至らない場合を想定して、お1人様に最大、3名までのお相手を、同時にご紹介することが出来ます。この制度をご活用いただきますと、勿論オキタ様の恋愛テクによりますが、ご結婚の確立がぐっと上昇するかと」
そう言いながら菊さんは、テーブル越しに顔を近づけてくる。
益々圧が強まった。
「しかしそれは、所謂三又を掛けるということですよね。ちょっと相手方の女性に失礼ではないかと…」
「まあ、オキタ様はなんと清廉潔白な方でしょう。でもご心配には及びません。相手方の女性に、そのことをきちんとお伝えした上で、ご納得いただいた場合のみ、オキタ様にご紹介することになりますので」
「つまりそれは、どういうことでしょうか?」
僕はかなり混乱して訊いた。
「相手方の女性は、他の女性と競合になることをご承知の上で、それでもなお、オキタ様との交際を望まれる。そういう方のみを、オキタ様にご紹介するということです」
「つまり僕が三又掛けることを納得の上で、付き合っていただけると」
僕の問いに菊さんは、満面の笑みで応えた。
その笑顔は、圧が強いことこの上ない。
――話が上手過ぎないだろうか?
以前の僕なら、そう思ったかも知れない。
しかしその時僕は、小松菜沙羅陀(こまつなさらだ)ちゃんとの成功体験と、五右衛門太郎菊(ごえもんたろうきく)の圧に酔って、完全に冷静さを失くしていのだ。
結局僕は、菊さんが提示してくれた10数人のプロフィール――と言っても、顔写真と年齢、職業だけだったが――を見て、会社勤めの2人の女性を選択した。
そして自分の顔写真と個人情報を登録すると、五右衛門太郎神酒乃介(ごえもんたろうみきのすけ)と共に、『グッドラック・マッチング・コンサルティング株式会社』を後にした。
結果については、後日菊さんから連絡があるらしい。
そして相手方に断られた場合は、再度違う相手を選択することになった。
3日後、僕の携帯電話に、菊さんから連絡が入った。
「オキタ様。お喜び下さい。お二方とも、オキタ様との交際をご希望されています。つきましては、お二方と直接会っていただいて、交際されるかどうかを決めていただきたいのです。そこで、オキタ様のご連絡先を、お二方にお伝えしても構いませんでしょうか?」
――2人共オーケーだって?!
舞い上がった僕は、二つ返事で菊さんに了承を与える。
すると、その日のうちに2人から連絡が入り、各々とデートの約束を取り付けることが出来た。
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