第26話
いったいこの操霊術とは何なのだろう?
部屋の中では、特に変わった様子は見受けられない。
ニウが操霊術を開始して、約30秒が経過した。
魔物たちが目覚めて、もがき苦しみ始めたが、叫び声が聞こえない。
「もう限界……」
ニウがよろめき、壁によりかかる。
部屋の中は、凄い形相のまま息絶えている魔物がほとんど。
「よっしゃ、命中!?」
「Brug’ol zog’mat!」
かなり距離があった。
だが、ジェイドは静止している標的なら遠くからでも正確に当てられる。
右眼から矢を引き抜きながら、こちらに向かって吠える。
ニウの操霊術を受けて生き延びたのは黒王鬼のみ。
だが、いかに飛びぬけた怪物でも窒息の魔法は苦しかったらしい。
意識が朦朧としているところを、ジェイドが右眼を射抜いた。
だけど……。
黒王鬼は近くにある長方形の宝箱に手を伸ばす。
「
「わかった」
壁に手をつきながらもニウが燥霊術をもう一度唱える。
その間に部屋の中へ一気に突入する。
何かを取り出そうとしている黒王鬼へ肉薄して、剣を振るう。
ジュゥ、と肉を鉄板で焼いたような音がした。
石像から頂戴した長剣を振り下ろし、黒王鬼を捉えたようとした。
だが、黒王鬼が宝箱から取り出した剣で易々と受け止められた。
でも別に構わない。
それよりも、その剣はいったい?
金属の液体が剣の形になったような武器。
剣の腹の部分をみると、淡い虹色の波紋が広がっている。
振り下ろした長剣の触れた部分がみるみるうちに溶けていく。
デタラメすぎる。
こんなのどうやっても太刀打ちしようがない。
黒王鬼が横に薙いだ剣を後方に避けて魔物たちが落とした武器を拾う。
右眼が見えない程度では、力の差は埋まらない。
武器がダメになっては落ちている武器を拾って、戦う。
だが、正面から押し切られた。
そもそもステータスの差があまりにも大きすぎた。
その上、あんな反則級な武器を持たれたら手も足も出なかった。
再演したらすぐにジェイドを呼び止めて、3人で相談をした。
対
作戦が決まったので、例の寝床の部屋へ向かった。
ニウが今回使うのは
ニウが燥霊術が完成した。
すると黒王鬼の側にある長い宝箱にムカデのような足が生える。
見た目は気持ち悪い。だが、ニウが行使している術なので見守る。
そのまま音を立てずに滑らかに部屋の外まで宝箱が自らやってきた。
あとは先ほどと同じく
あいにく、ジェイドの矢は黒王鬼の目に刺さらなかった。
同じ条件でも成功したり失敗したりする。
これは、なぜそうなるのかはよくわからない。
やはり黒王鬼だけ生き残った。
今回はあちらの得物がこちらの手にある。
黒王鬼は代わりに
自分の愛用の武器というだけあって、特性をよく理解しているようだ。
この金属の液体のような武器に触れた武器はすべて溶ける。
だから、接近戦にならないよう間合いの外から一気に決めるつもりらしい。
あえて誘いに乗ることにした。
長槍で一撃で相手を仕留めるのであれば、刺突しかありえない。
刺突が外れたら、身軽な者であれば、一気に懐へ潜り込める。
想像していた通りに……ならない。
槍を繰り出す動作に入った。
どの高さ、角度から槍が来ても反応できるようこちらも身構える。
だが、長槍は床に転がっていた
その意図をこちらが読み取る前に先に仕掛けられた。
赤中鬼の血肉を槍で抉って、跳ね上げる。
それが目つぶしとなり、血が目の中に入ってしまった。
視界が真っ赤になり、前が見えないまま意識を刈り取られてしまった……。
想像していたより黒王鬼はずっと手強かった。
得物を奪い、ジェイドが矢で片目を奪っても競り合って負ける。
これでもかなり腕が上げたつもりだが、どうしても勝てない。
粘り強さは誰よりも、あるつもり。
ただ、黒王鬼が才能の塊というだけの話。
洗練されておらず、泥臭いという訳でもない。
火花が散る一瞬の輝き。
刹那の時間を引き伸ばす知覚は互いに持っている。
その一瞬の間にこちらの予想を超えた動きをしてくる。
どう動いても、「先」を行かれる。
まるで、芝居のための稽古をしているよう。
何百、何千回と一緒に練習したように動きが噛み合い同調している。
同調?
そうか、同調……。
何かしらの特殊な能力を持っているのかも?
そう考えたら納得がいく。
動きを同調され、身体能力差で上を行く。
いや、自分の動きに向こうが合わせているのではない。
逆にいつの間にか動きを
これでは、どうやっても勝ち目がない。
なにか手を打たないと。
数十回ほど
どんなに再演できたとしても勝ち目がない。
攻略法も見出せず、戦っている最中に意識が朦朧としてきた。
「~~~ッ!?」
あれ? 今、意識が一瞬、飛んでしまった?
でも、五体満足で、どこも怪我をしていない。
というより、むしろ、黒王鬼の腕を初めて斬り落とせた。
自分でも何が起きたのか意識が無かったので分からない。
意識が無かった……。
──もしかして。
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