気炎万丈

第25話 


相手は、赤い魔物……ステータス画面では「赤中鬼ホブゴブリン」と表示されている。


数値化ニューメリカルで強さを見てみると緑小鬼ゴブリン以外では次に弱い。

それで能力値が同じくらいというのは恐ろしい。

剣を引き抜き、低い姿勢で構える。


赤中鬼の得物は両手斧。

180CMセルチくらいの体長で射程としてはあちらが有利。


無造作に近づいてくる。

油断しているのか?

それとも誘っている?

ある程度近づいた時点で、いきなり両手斧を振り上げた。


嘘でしょ……。

隙だらけ過ぎる・・・・・・・


まだ振り上げたままの赤中鬼の横をすり抜けた。

すれ違いざまに2回も斬ることができた。

赤中鬼は崩れるように倒れて痙攣を繰り返していたが、次第に動かなくなった。

息つく間もなく次の相手が進み出る。


次の相手は青大鬼オーガ

赤中鬼より、さらに体長が高く190CMセルチくらいはある。


手には長すぎず短くもない、ほどよい長さの槍を持っている。

槍はとても厄介。

石像との戦いで、もっとも注意を払っていたのが槍だった。

どんなに相手に技輛で勝っていても、得物の長さがそれを埋めてくる。


ステータスは、自分よりかなり高い。

それでも先ほどの赤中鬼の腕前をみたら勝てそうな気がする。


戦いが始まると、油断していたのはこちらの方だったと気づく。

単純に突いてきたら、躱して懐に潜りこむ。

それで終わらせようと思っていたが、できなかった。


槍を突くだけの道具として扱っていない。

両手で振り回し、刺突、払い、打撃を織り交ぜてくる。


この使い方だと、一瞬で距離をゼロに埋めることはできない。

それも腕力は向こうが上。

まともに正面から受けてしまうと身体ごと吹き飛ばされかねない。

そのため、受け流す動作を繰り返して、隙が生まれるのを待つ。


魔物の限界なのだろうか。

人間の技倆わざには遠く及ばない。

ここまで拮抗しているのは、ステータス差と間合いの違いのせい。


だけど、いつまでも付き合っていられない。

青大鬼オーガの背後には、さらに強い魔物が控えている。


人間の技術にも二通り存在する。

ひとつは、ダンヴィルが繰り出す洗練された騎士の剣。

もうひとつは、傭兵隊長ハイレゾのような泥臭い剣。


ダンヴィルの下で習った剣術を自分なりに改良して普段使っている。


だけど、本当の戦い方は泥臭い剣術の方が得意。

実戦では、自分の生死を賭札にして本能で覚えた技。

それは実戦の場では粘り強く、自身を「」から遠ざけてくれる。


それなりの大きさの石ころが落ちているのを見つけた。


その石をつま先で蹴り上げ、青大鬼の顎に当てた。

体が大きすぎて、下から飛んできた石が完全に見えてなかった。

別にそこまで痛いという訳ではないだろう。

だけど、不意を衝かれて、生じた痛みは体の神経を一瞬麻痺させた。


懐が深すぎるので体は狙わない。

狙ったのは、利き手の小指と薬指。

運よく中指まで、剣の餌食にできた。

指が3本も無いと握れたとしても、槍を細かく操るのはもうできないだろう。


浅い傷を一撃与えるより遥かに収穫があった。

これは何百回と身命を賭して得られた知恵であり、己で培った武器。


そこから数回、剣と槍を交えたところで、青大鬼の首をはねた。

あとは、あの黒王鬼オーバーロードを倒すだけ。

向こうから一対一を挑んできた。

なら、青大鬼が倒れた今、黒王鬼が出てくるはず。


くそっ、そう来たか……。

今までのは所詮、余興でしかなかったようだ。


黒王鬼が右手を挙げて人差し指を立てる。

それをこちらに目がけてゆっくりと手を降ろしながら指差した。

同時に残りの中赤鬼ホブゴブリン青大鬼オーガ、計4体が一斉に襲い掛かってきた。

中赤鬼は2体仕留めたが、青大鬼に刺されてしまった。





「様子を見てくる。ここで少し待っていてくれ!」

「ちょっと待った!」


再演した先はジェイドが緑小鬼の巣を偵察に行く寸前。

ギリギリ間に合った。


「どうした?」

「なんかイヤな予感がしたから」

「勘か、お前の勘はよく当たるからな、それで?」


素直に話を聞いてくれた。

今の内にジェイドに色々と質問する。


黒王鬼オーバーロード? そんなのお伽話でしか聞いたことがないな」


アルヴニカ大陸が戦争を始める前にかつて存在したそうだ。

当時の名立たる英傑が何人も勝負に挑み、敗れさったと伝えられている。

その黒大鬼は、名もない少女の手によって敗れ去ったという。

だが、どうやって倒されたのかも伝えられておらず、真偽も定かではない。


でも、もし黒王鬼が本当にいるのなら、とジェイドは付け加えた。


「よく訓練された軍の1個小隊でも、おそらく敵わないだろうな」


そんなに強いのか……。


ジェイドをひとりで行かせては人質にされてしまう。

一緒に行くと伝えるとイヤな顔をされたが、了承してくれた。


ジェイドとニウ、3人で慎重に進んでいく。

途中で、巡回中の緑小鬼ゴブリンを隠れてやり過ごした。

行きついたのは前回の麦畑ではなく、寝床になっている巣。


木と板を組み合わせただけの簡易な建物がひとつあるだけ。

壁はなく、中央のひとつ高いところに例の黒王鬼の巨体が横たわっている。

その周りを赤中鬼ホブゴブリン青大鬼オーガがぐるりと固めて同じく寝ている。

ほとんどの緑小鬼ゴブリンたちも寝入っていて、こちらに気づいていない。


「待って」


ニウが珍しく小さな声を出した。


「この先に入ると影鬼シャドウに気付かれる」


影鬼……別名、影喰とも呼ばれている魔物。

影の中に生息していて、実体がなく光魔法や神聖魔法以外は無効。

それであんなに大胆に寝ていられるのか。


ニウは精霊などの実体の無いものが視えるという。

だからジェイドひとりで偵察で侵入した時に捕まってしまったのか。


「で、どうすりゃいい?」

「中には入らない。ここから仕掛ける・・・・


ジェイドとニウが順に発言し、作戦が決まった。


「……冥精よ、力を貸して」


ニウがつぶやくように小さな声で冥精プルトーの力を借り受ける。


「【窒息ラーヴェ】」





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る