第22話


壁に突き刺さったジェイド。

自分も前回まで、こうなっていたかと思うと背筋が寒くなってきた。

壁が回転してジェイドが壁の向こうへ消えた。

丁字路の奥へ向かって床が動き、飛び散った血痕も無くなった。


ニウは驚いている様子だったが、声をあげなかった。

なかなか芯が強いのかもしれない。


それよりどうする?

ジェイドがやられた以上、再演するべきだが……。

でもニウにお願いして先に進んでもらうことにした。

少しでも他の人がどうするのかを知らないと攻略の糸口が見つからない。


彼女が罠にかかってしまったら、自分が再演すればいい。

まあ罠にかからないことに越したことはないのだが……。


結果はなんなく丁字路の通路を超えた。

特に何もしていない……ように見えた。

本当にただ普通に通っただけ。


もしかして一人目だけが確実に餌食になる罠なのかもしれない。

そう考えて、ニウのように敢えて身構えずに渡ろうとした。


なんで?


もうその言葉しか頭に浮かんでこない。

しっかり罠が作動し、壁にへばりついて命を落とした。




「くそっ、嘘だろ? 迷宮の中だろ、ここ!」


ジェイドの声が地下迷宮の中で響き渡る。

順番ではなかった。


最初にニウに通ってもらったら、すんなりと通れた。

次にジェイドは罠にかかった。

3番目で挑戦したがやはり罠にかかってしまった。

これで、ようやく順番ではないと確信を得た。


同時にある可能性が頭のなかに思い浮かんだ。

さっそく、ダメ元で試してみる。


「おい! 正気か?」


剣を振りかぶると、ジェイドがしらけた目で見る。

別にかまわない。

ダメならもう一度試せばいい。

思いきり剣を丁字路の先へ投げつけた。

少し遅れて、槍が横切って壁に突き刺さる。


やっぱり。


罠が作動する条件は金属。

自分のブロードソードとジェイドの短剣に反応している。

同じようにジェイドに短剣を放り込んでもらったら同じ結果になった。


もう大丈夫。


これまで散々、身体じゅうを穴だらけにされた槍が飛んでこない。

ジェイドは用心深くゆっくりと、ニウは何食わぬ顔で三つ又を渡ってきた。


ほっとしたのも束の間。

今度は通路が左に折れた場所に差しかかった。

また、ジェイドが曲がり角の先に罠が無いことを確認する。

今度は通路が右に折れている。


「魔物……いや、番人ってところか」


曲がった先、10Mメトルくらい先に石像が立ち塞がっているそう。


罠がないのなら、ようやく出番だ。

ふたりにここで待機するよう伝えて、石像の前に出る。

すると、ひび割れるような音を鳴らしながら石像がゆっくり動きだした。


体長は2Mメトルぐらい。

手が4本あって、それぞれの手で武器を持っている。

右側に剣と槍、左側の2本の手で盾と斧を持っている。


対するこちらは幅広剣ブロードソードが1本のみ。

勝てるかどうかは石像がどれくらいの速さで動けるかによる。


間合いをはかっていたら、何の躊躇もなく距離を詰めてきた。

まず槍が頭上を通過して、長剣が下から跳ね上がってきた。

手に持つ幅広剣で受け止めている間に槍を引き戻した。

そして、もう一度、突きがくる。


どうやら槍と剣だけで相手をするようだ。

間合いの長い槍を突き出し、潜り込んできたら剣で仕留める。

距離を取ったら相手が圧倒的に有利。

だが、潜り込むのは、断頭台に自ら首を差し出すようなもの。


手詰まりに思えてしまう。

だけど、言葉通り死ぬ経験を数百回も繰り返してきたからわかる。

それならもっと深く・・懐に潜り込めばいい、と。


槍をかわす距離はギリギリ。

髪の毛が何本か持っていかれたはずだが気にしない。

次に跳ね上がってきた長剣は幅広剣を立てて、うまく逸らした。


いける!?


時計回りに鋭く身体を回転させて、右側の大腿部を狙う。

右側は槍も剣も引き戻すのに時間が掛かる。

その一瞬の隙を衝いた、つもりだった。


ガギィ、という鈍い音とともに幅広剣が折れた。

折ったのは左側の上の手で持つ巨大な斧。


直後に盾で殴られ、後ろに吹き飛ばされた際に剣を落としてしまう。

石像に背を向け、逃げようとしたが、槍で背中から串刺しにされた。


再演ループすると、丁字路は難なく同じ攻略法で通過した。

そして、石像との長い戦いが始まった。


長いと言っても、だいたい数回斬り結んだだけでやられてしまう。

要は、何回も何十回も再演するので長く戦っているように感じる。

途中で、ジェイドやニウに頼ることも考えたが……やめた。


この石像にも勝てないようじゃ、あの化け物カぺルマンには到底敵わない。



もっと速く。

もっと重く。

もっと鮮烈に他者を圧倒する剣。


単純に腕が4本もあるので手数は相手が有利。

身体の速さもそこまで変わらない。


先へ、もっと先へ。

剣を届かなかったその先へ送り込む。


動け! ──遅い、もっと速く動けっ!?

相手が動く前・・・・・・に動け。

それが当たり前にできるよう相手の動きを身体に徹底的に叩き込む。


何度も刺され、斬られ、殴られる。

それでも、相手を打倒しようと心を奮い立たせる。

心臓があらんかぎりの速さで早鐘を打ち、身体中の血が熱く滾る。


急に石像の動きが鈍くなった。

簡単に腕を次々に斬り落とし、最後に首をはねた。


今のはいったい……。


石像を見下ろしていると、後ろからジェイドが驚きの声をあげた。


「最後らへんで急に動きが速くなったが、どうやったんだ?」


え? 石像が鈍くなったんじゃなく、自分が速くなった?

今の感触を忘れたくない。

他にも魔物が出てきてくれないだろうか。


こちらの要望に応えたかのように先の通路から同じ石像が現れた。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る