第23話 


2体目の石像は始めこそ動きが速かったものの、途中で鈍くなった。

腕から攻めて、何本か斬り落とし胴体にトドメを刺す。


3体目が現れる。──4体目、5体目、6体目。


1体目の苦戦が嘘だったかのように勝てるようになった。

だんだんと倒す速さも上がっていく。


迷宮は今のところ単調な仕組みになっている。

角を曲がる度に石像がいる。


11体目を倒したと同時に幅広剣ブロードソードが悲鳴を上げて折れた。

やむなく石像が落とした長剣ロングソードを手にする。


正直、慣れていない。

普通の長剣よりも長く、130CMセルチくらいある。

片手で振り回すにはあまりにも長すぎる。


石像が持っていたせいか、切れ味が悪い。

手入れなんてしたことがないんだろう。


少し倒すのに時間はかかるようになったが、大きな問題はない。

刃こぼれが酷いので、石像と遭遇する度に長剣を新調した。


これはなんだろう?

石像を30体くらい倒したところでようやく迷宮に変化があった。


3M四方の四角い床板があり、板の端に石柱が屹立している。

通路はここで道が無くなっている。


だが、二本の鉄でできた軌道がその先へ繋がっている。

下は真っ暗でよくみえないが、たぶん恐ろしく深い。


四角い床板の真ん中には長方形の窪みがある。

この未知の仕掛けをジェイドはたっぷり時間をかけて調べた。


「俺の予想だが……」


斥候は、四角い床板は軌道の上を走る乗り物ではないかという。

どちらにせよ、この先にしか道はない。


板の上に乗り、石柱に近づくと押せそうな突起がある。

ジェイドの方へ振り返ると早く押せと顎を横に振って催促してきた。


カチッと音が鳴るまで突起を押し込んだ。

すると、足元の床板が滑らかに前へ動きだした。


軌道の上を滑るように進む。

広大で真っ暗な空間。

底は見えず、歩くぐらいの速度で前へ進んでいく。


「おいおいおい、嘘だろ?」


ジェイドが何かに気づいた。

後ろの方を見ていたので、視線を進行方向へ戻す。


ちょちょちょちょっとこれはっ!?


軌道の先の方が、ありえないくらい下へ向いている。

直角にしか見えない。

こんな真っ平らな四角い床板の上に乗っているのに、その角度は無理。


「石柱に掴まれ!」


ジェイドの声で目が覚めた。

あわてて石柱へ手を伸ばす。


ジェイドとふたり、石柱へしがみつけた。

だが、ニウは間に合わず、とっさに自分の背中へしがみつく。

直後、急激な浮遊感と同時に後方へ身体が引っ張られそうになる。


ひたすら、耐え忍んでいると勾配が徐々に緩くなってきた。

速度は依然としてすごい速さ。

前方から風が強く吹き付けるが耐えられないほどではない。


周囲の景色は目まぐるしく変わる。

隧道トンネルの景色、巨大な滝、赤熱した岩漿マグマのスレスレを通ったりしている。


「伏せろ!?」


急にジェイドが叫んだ。

言われた通り、屈むと頭のすぐ上を何かが通過していった。


「ちっ緑小鬼ゴブリンか!」


緑小鬼というのは、地上ではまずお目にかからない魔物。

とても狡猾で、魔物なのに罠を扱えることで有名だ。


いつの間にか数Mメトル離れた隣に軌道がある。

軌道の上には炭鉱などで見かける荷車が走っており、緑小鬼が3匹乗っている。

ほぼ同じ速度で並走していて、醜悪な顔が笑っているように見えた。

矢を容赦なくこちらへ射かけてくる。


「……岩精よ、力を貸して」


ニウがはっきりと聞こえる声量で岩精グラナドの力を借りた。

床板の端っこに薄い岩の壁ができる。

岩壁に矢が当たって跳ね返っている音が聞こえる。


こんなのアリ?


軌道の高さが変わり、こちらが下、緑小鬼たちの荷車が真上になった。


「ぐぅっ!」

「ジェイド!」


真っ先にやられたのはジェイド。

矢を肩に受けて、よろめいて床板から落ちていってしまった。

下は底が見えなく暗くて深い。


長剣で上から降ってくる矢を無心に払っていた。

だが、背後からニウの呻き声が聞こえて、一瞬振り向いてしまった。

そこから先の記憶がない。

おそらく矢が頭に当たってしまったのかも。






地下迷宮の転移直後、ジェイドが喚くところから再び始まる。


でも、四角い床板までは順調に進んでこれた。

丁字路の通路を簡単に突破し、30体の石像は己を鍛えるのに最適だった。


そして問題の四角い床板。

前回と違うのは石像たちから槍を回収してきた点。

その槍を床板に空いている窪みに乗せて、発進させる。


しばらくして緑小鬼たちが並走を始める。

ここで10数本くらい載せておいた槍を緑小鬼へ向かって投げ始めた。


槍は互いに高速で移動しているので、後ろへ逸れてしまう。

何度か投げているうちにコツを掴んだ。

コツを掴んだ後は、槍が尽きる前に3匹の緑小鬼を倒した。


「おいおい……お次はいったい何が起きるんだ?」


ジェイドは、苦り切った表情でそうつぶやく。


とても大きな螺旋を描いて、隧道の中を降下していく。

隧道の中には水が一緒に流れている。

四角い床板はその水面の上、ギリギリを走っている。


──水面でなにか白く光るものが見えた。


すごい速さだったのもそうだが、足場が不安定すぎた。

水面から飛び出た光が腹部へ飛び込んできた。

槍のようなものがついた細長い魚の魔物……。


お腹に刺さっている魔物を引き抜き横へ投げ捨てる。

無数の白く光る魚の魔物を目で追える。

だが、最初の一撃をもらったせいで、身体が思うように動かない。

そのまま蜂の巣にされて、四角い床板から落ちてしまった。





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