戦雲急告

第13話 


「私はポメラ、こっちは妹のセレ」

「ニウさん、よろしくお願いします」


ポメラとセレが、ニウへ挨拶をしている。

ジェイドはつまらなさそうな顔のまま、声をかける。


「んなことより、とっととズラかるぞ!」


ジェイドが危惧するのも無理もない。

ここはいわば敵地の奥深く。危険以外の何ものでもない。


ここからジューヴォ共和国へ帰還するためには……。

ゲイドル火山の西側にいるので、東に向かう必要がある。

もう一度、ゲイドル火山を登るのは危険すぎる。

なので、北回りか南回りかのどちらかを選ばなければならない。。


比較的、安全そうなのは南回り。

南に向かえば海岸線が見えてくるはずなので、迷うことはない。

ただ、ひとつ問題があるとすれば、ビラルクと海岸付近にいる帝国兵。

彼らが、あのまま海岸から数百メトルの範囲にいる可能性が高い。


一方、北回りは、内陸部が森に覆われていて地形がわからない。

ジューヴォ共和国でもらった地図にも詳しい地形は描かれていない。

それに帝国の帝都がある方向。

もしかしたら、帝国兵がありこちにいる可能性だってある。


やはり南回りを選ぶ。

はっきりしない北側よりは地形や方角が確実な南回りの方がいい。

ゲイドル山を大きく迂回する形になった。

そのため、海岸線が見える頃には日が沈んでいた。


「サオン、ニウさんを連れて帰れば任務は達成なの?」

「どういうこと?」

「別に任務って、ひとつとは限らないじゃない」


ポメラの質問に対して意味がわからず聞き返してしまった。

言い方を変えてもらって、ようやく質問の趣旨が理解できた。


たしかに。

彼女を抹殺するのが本来の任務だが、連れ帰ると嘘をついた状態。

他に自分が任務を受けている可能性は十分にある、と思ったらしい。


でも、なんで今更そんなことを気にするんだろう?


「彼女を使って、なにか儀式でもするの?」

「いや……うん、やっぱり何も答えられない」


ポメラは、ここに来るまでにニウを質問攻めにあわせていた。

彼女の返事の中には例の祈祷を行っていたことも含まれている。


下手に答えたら自分が嘘をついていることがバレるかもしれない。

余計なことは言わない方がいい。

嘘に嘘を重ねるとどこかで必ず綻びができてしまう。


この時、不意に視線を感じて振り向くとジェイドが目を逸らした。

気のせい、かな? いや……今たしかにコチラを見ていた!?


夕食は火が使えないため、燻製と乾物で済ませる。

ニウは勢いよく食べ始めた。

だが、急に取り込んだ食べ物を胃が受け付けず、吐き戻していた。


朝まで交替で不寝番ねずばんをしたが、無事、朝を迎えた。


「それにしても王女様は、とても面倒な任務を寄こしやがったな」

「まったくですわ」


え……。


「カロ、カリ……じゃなくて、王女様の名前なんだっけ?」

「カルテア様ですわ」

「そうそうカルテア様! ところでなんでお前がそれを知っている?」

「──ッ!?」


朝食を食べ終わって、海岸線を歩いてしばらく経った頃だった。

ジェイドの愚痴にポメラも同調した。

すると、ジェイドの口調が急に変わった。


たしかに……。

なぜポメラは、王女カルテアの存在を知っている?


ジューヴォ共和国の避難場所の天幕では、名前しか聞かなかったはず。

自分は話してないし、王女の存在は一部の者しか知らされていない。


「なっ、なにを言ってるのよ、そんなの見たらわかるじゃない!」

「どこを見て、そう思った?」

「高貴そうな服と見た目をしてたじゃない」

「それはおかしいな」


カルテア王女は、会議の際、避難民に紛れるため変装をしていた。

下女の服を身に着け、顔には煤をつけ「偽装・・」していた。


ところで、なぜそこまでジェイドが知っているのか?

そちらも気になったが、先に行動を移したのは、ポメラだった。


「根源よ、柔らかい紫焔の渦となりて……」


いきなり詠唱を始めた。

ジェイドが短剣をポメラに投げつける。

だが、妹のセレが身体を張って短剣を止め、口から血を吹いて倒れた。


「【紫哭火槍エイトロン】」


3本の炎でできた槍。

その内の1本は短剣を拾おうと近づいたジェイドに額に刺さる。

そして残りの2本はニウの盾となった自分を貫いた。


284回目は、朝起きて朝食をとっているところからだった。


先ほどの件でハッキリした。

ジェイドの方は理由は不明だが、こちらの事情を知っている。

その上で、協力的な姿勢をみせた。


一方、リードマン姉妹は、敵対勢力だと見た方がいい。

ジェイドが気がつかなかったら、全員、殺られていたかも。

ただこの時点ではジェイドは不審に思っていても確証を得ていない。

かと言って、確証を得た後にやりあったら、先ほどと同じ結果になる。


それと、ふたりを倒すのはどうも後味が悪い。

戦わずにふたりを遠ざけられたらそれでいい。


「君たちふたりは、ここで待機していて欲しい」


 理由は極秘で教えられない。だが重要な役割だと伝える。


「待機するのは私だけで十分です」

「いや、ダメだ。君たちふたりが一緒じゃないと成功しない」


嘘の中の真実ホント

真面目な顔して、嘘を吐く。


ふたりが一緒じゃないと、逃げられない。

だからある意味、本当のことを話している。


夕方までに戻るという説明した。

その上で北側……ゲイドル山の方へ向かって歩き出した。


北に進路を変えたのは、リードマン姉妹を混乱させるため。

本当はまっすぐ東へ進みたい。

これで、追ってこなければよいのだが……。



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