第3話 前世の記憶って謎

”さーて今日は自由だー!”

 

 昨日はヴィクトリアとか言う婚約者襲来事件で大変だったからなぁ。おかげで僕は自分がしている研究を放っておかなきゃいけなくなったからね。


 あ、そういえば皆、僕の研究内容知らないよね。まぁざっくり言うと人外になるための研究だよ。人から人以外の何かへ。例えばこの世界で人類の大敵、魔物だったり、吸血鬼とか人間よりも凶暴で圧倒的な力を持つ魔族とか………ね。

 そんな僕の研究なんだけど、表立ってしたら普通に禁忌扱い。処刑されるのがオチなんよ。

 だから今は長い時間研究に当てるためっていうのと僕の本来の研究の囮的な役割を兼ねて魔法・魔術による不老を研究している。

 そんでこの研究の副産物的なので色々魔法・魔術を開発したんだけど、それの功績が知らんうちに認められてて、そのおかげで父上に研究費を貰えてるんだよね。ホント謎。

 やってる事なんて魔法陣の解析とどうしたら人の細胞が老化しなくなるかっていうのを思いつきで実験してるだけ。魔法とか魔術だったらっていうか、そのエネルギー源の魔力パワーで何とか出来ないかなーって思ってるけど意外と難しいのよ。

 魔法陣の解析は前世で言うところのプログラミングに近い。ちゃんとルールがあるからそれを紐解いていくって感じかな。それがしっかり判明出来たら自由に魔法やら魔術やらを組み立てられる…………はず。まぁ解析の進捗はこれからに期待ってところか。

 でもそのおかげで魔法・魔術はだいぶ得意である。解析する時に実際に使用したりして観察するからな。当然である。えっへん。

 ちなみに今日は火炎魔法の解析だ。火炎魔法は魔力を火に変換して操る魔法。魔力の変換効率が良いから初心者向けの魔法だな。一昨日、ようやく風嵐魔法の解析が終わったから今日から火炎魔法に移れる…………ホントは昨日から取り掛かりたかったんだけど。そんなわけでさっそく研究………れっつ・ごー。


 研究の合間なう!…………はぁ………僕ホントに12歳?

 やってること前世の社畜とおんなじだぞ?まだ子供なのに変に目標のために突っ走ったばかりに…………赤ちゃんに戻りたいばぶぅ。

 そういえば、赤ちゃんの時の記憶ってないんだよね。よく転生モノの話だと生まれた時から記憶があるやつとか突然記憶が芽生える的なやつとかあるじゃん?でも僕はどっちでもなくて、成長に合わせて徐々に記憶が増えていった?解放されていった?まぁそんな感じ。だから人格はアレスそのもので、前世の人格は残ってないんだけど、前世の記憶が今の人格に影響を与えてるんだよね。

 ちな前世の名前とかはさっぱり覚えてないぜ。最後の記憶なんて成人式に出てゲロ吐きそうになってたシーンだしな。酷すぎる。何ていうか知識とかは全然あるけど個人の記憶はそこまでって感じ。何故か引きこもりとか忘れたいことはしっかり残ってるんだけどな。

 そっから気づけば転生しててイケメンの父と美人の母、イケメンの兄とフツメンの僕、あと妾やら何やらがいるらしい伯爵家とかいう立派な貴族様になってたよー。あぁまじゲロ。

 何だよ伯爵って。普通に平民で良いやん。陰キャに社交性求められる貴族はまじでゲロ吐くの!ホント止めてほしいわ。しかも家族で僕だけフツメンって…………妾さんも妾の子供たちも顔良いもん。僕だけ血繋がって無い説、濃厚だよ。もしかして…………忌み子……?捨て子だった……?………ハッ!もしや母上の不倫相手との子供!?


”あり得る………”


 ………………不敬罪で斬られちまえ。

 っと、だいぶ話が逸れたな。そんなしょうもないことを話したいわけじゃあない。

 そう、転生してからのことを話したいんだ。

 転生してからの僕は、人外に至るという目標のために様々な文献を読み漁った。幸いにもここは伯爵家。そこそこ大きい書庫もあったし、文字を覚えてからはずっと本の虫になっていた。

 そんなフェーズを3歳ぐらいの頃から5、6年続けていた。だからだろうか、周囲からは天才やら神童やら言われていた。まぁ今はよくわからん研究をしているせいで”変人”という立派な呼び名が付いたがな。

 人とは必要最低限すらも怪しいレベルの関わり、貴族として必要な教養は早々に終わらせて自室に引きこもっている伯爵家次男。そりゃあ変人だよなぁ。

 でも風の噂じゃあ、僕と同世代に天才と呼ばれる子供が何人かいるらしい。大して興味ないから知らんけど。

 そんな引きこもり変人野郎の僕だけど、自他ともに認める不得手なことがある。それは剣術、政治、商売、芸術だ。ぶっちゃけた話、前世の記憶でも僕はそこら辺は苦手だった。前世ではどちらかと言えば理数系だったし、運動は普通だったけど、そんないきなり剣を握っても………って話。それは商売や芸術も同様だね。

 でも研究とかは割と性格にもあってるし、理系だったから得意。人間を辞めるためには?っていう目標をあれこれ考えるのは意外と楽しいし。

 その成果として人外に至るための方法への足がかりは掴めてきた。

 その1つが吸血鬼だ。吸血鬼という種族は有名な魔族の1種である。夜に強く、陽に弱い。心臓が潰されなければ再生出来るという高い生命力。そして、生物の血を吸い、血を魔力に変換できるという強力な化け物だ。

 そんな吸血鬼の特徴の1つにどうゆう理論かは分からないが、血を吸った対象を眷属に出来るというものがある。

 僕はそこに目を付けた。その理論を解き明かせば、吸血鬼に噛まれて眷属にならずとも人為的に吸血鬼になることが出来るのでは?と。

 それを考えていく中で1つの仮説が出た。その仮説は、吸血鬼が血を吸う際に対象の魔力を変質させているのではないか?というものだ。変質した魔力が肉体に影響を与え、吸血鬼化するのではないのか、そう考えたのだ。

 そのために僕は魔力を変質させる手段を探している。

 だが、魔力とは何か。まだ僕は知らない。変質させるものも知らないのに魔力を変質させるなど出来るはずもない。だから僕は魔力を別のものに変換、変質させる術、魔法・魔術を研究している。


 僕の人外への道はまだ遠い。じっくりと煮詰めていこう。

 今日も僕は研究している。いつの日か人間を辞める日を夢見て。

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