第2話 やっぱゲロ

 父上の書斎を出た僕とヴィクトリアはクレイモア伯爵邸をウロウロとしていた。

 うん、気まずいなぁ…………引きこもってゲロ吐きてぇ。

 取り敢えず父上に勝手に婚約者作られたのはまぁいいとして、引きこもりの陰キャ野郎に女の子の相手させんじゃねぇって話だ。

 え?前世の知識で何とかしろ?

 できるわけねぇだろボケ。前世でも生粋の引きこもりコミュ障陰キャだった僕だぞ?ネットならまだしもリアルじゃ顔も見れねぇチキンだったからな。

 まぁ僕の心境やら過去やらはどうでもいいとして、僕はヴィクトリアに屋敷の中をぐるっと一周して軽く説明するぐらいしかしていない。ぶっちゃけ屋敷の中だと案内できるものが少ないというのもあるが…………唯一僕が饒舌になったのは書庫ぐらいだろう。

 そんな適当すぎる案内に対してヴィクトリアは優しく微笑んで会話を広げてくれたよ。おじさん涙出ちゃう。感動だわ。


「ヴィクトリア嬢、次は庭園のほうに行きましょうか。」


「まぁ、庭園ですか?楽しみです……!」


 次に我が家のメインディッシュとも言うべき庭園を紹介しようと思う。庭園は我が家の敷地の半分は占めてるぐらいに広い。当然管理は大変だが、優秀な庭師を何人も雇っているから常に見栄えはいいはず…………だよね?


「えぇ、我が家の自慢の庭園です。きっと気に入りますよ。」


「本当ですか?フフッ………私、実は植物が大好きでして……フレイシア家には庭園がないので、今日こちらに来るのをずっと楽しみにしていたのですよ。」


 無駄に長い廊下を歩いてテラスへと向かいながら、ヴィクトリアとそんな会話をしていた。

 そうか………フレイシア家は庭園ないのかぁ。たしかフレイシア家って武門の家系だったよね。庭園より訓練場とかがありそう。


「こちらです。どうです?立派なものでしょう?」


「わぁ……!」


 年頃の表情をようやく見せてヴィクトリアは感動していた。

 うんうん、そうだろう。母上が花とか好きで、年々拡張されていってるからね。外国からも色んな種類の植物を取り寄せたりしてるらしいし。詳しいことは知らんけど。


「母上の趣味が園芸でして…………中には遠い異国から取り寄せたものもあるんですよ。」


「まぁ……!よろしければ、どんな花があるのか紹介していただけませんか?」


「…………いいですよ。では、まずこちらから。」


 なんてこと言うんだこの女は。

 研究で使う薬草やら毒草ぐらいしか植物に関する知識はないぞ!?

 一応母上からどんなやつがあるかぐらいは聞いているけど…………うーむ、思い出せるかな?

 それにコミュ障は”お願い”されると断れない。嫌なことでも”いいえ”と言えないのだ。

 はぁ…………ゲロ吐きたい。


 そんなこんなで僕は無い知恵を絞って、ヴィクトリアに庭園の植物を一から紹介していった。

 ちなみにめっちゃ面倒かった。なにせ母上が掻き集めた植物は全部で数百種類にも及んでいる。ざっと説明するだけでも1時間近くかかった。

 なのにこの女は一々事細かに聞いてきやがるから、庭師にも手伝ってもらって説明したからな。

 はぁ………こうゆう時ハッキリと物事言えるコミュ強陽キャ共が羨ましいぜ。禿げろや。

 さすがに精神的に疲れた僕は、15時になりそうなのを口実にヴィクトリアをティータイムに誘うことにした。


「………ヴィクトリア嬢、そろそろお茶でもいかがでしょう?」


「……よろしいのですか?」


「えぇ。メイドには既に準備させていますので…………」


 若干庭園に心残りと言った表情にイラッとしたが、グッと抑え込んでにっこり笑顔で喋る。

 そのままテラスまでエスコートし、メイドに用意させた紅茶とお茶菓子を楽しむことにしよう。うんうん、頼むからこれ以上僕の精神を削らないでほしい。頼んだぞヴィクトリア嬢。


”だからそんな、そこら辺に生えてる花を興味津々に見つめないで……!”


 何とか庭園からヴィクトリアを引き剥がしてテラスに移動することに成功した。

 はぁ………めちゃくちゃ面倒くさい。ゲロ吐きそ。

 テラスに移動してからもヴィクトリアの口からは植物のことばかり。まさか婚約者が植物オタクだとは思わなかったぜ………!

 今の僕は屈強な兵士の面構えをしていることだろう。うんうん、ゲロ吐きそうになった甲斐があるってもんよ。

 あ、そうそう、内心は文句ばっか言って面倒くさがってるけど、ちゃんと話は合わせてるし作り笑いだけどニコニコしてるよ。流石に初対面のやつに素で話すのはハードル高すぎ。まじでゲロ吐くわ。

 まぁヴィクトリアがどう思ってるのかは知らんけど、わりと好印象なのではないでしょうかね。知らんけど。


 それから父上が僕たちを呼びに来るまでテラスでのお茶会は続いた。話の半分くらいは庭園にある植物の話だったのはまじでゲロ。

 ”クソが!”って思ったのは内緒だぞ☆


”オエッ………!”


 ちなヴィクトリアが帰った後、僕は人知れず吐きまくった。後処理が面倒くさくてサボったら、使用人たちの間で、屋敷の裏で誰かが吐いたって噂が出回っていたのは悲しい思い出だよ。

 …………いずれは婚約破棄でもしたいものだなぁ。顔は良いんだけどね。ぶっちゃけ女ってだけでめんどッ……ンンッ!じゃなかった。まぁ、取り敢えずだるいし僕の目標っていうか夢?的に自然消滅するだろうから今のとこは放置一択!

 よし!何がよしかは知らんけど。

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