第11話 表彰と副賞
翌日、からりと晴れた空の下で私たちは列を成して上を見上げていた。
壇上では今回の討伐隊の総指揮を執り、ウロボリア王立騎士団の団長でもあるゴア・ネミウムが立っている。日に焼けたゴアの身体は、屈強な筋肉の鎧に守られていて、銃弾が飛んできても貫通までは出来なさそうだ。
「今回の討伐はフィリップリーダー率いる第三班の活躍で成功を収めた。皆、あたたかい拍手を送ってくれ」
パチパチと各々が手を叩いた。
私たちは一人一人名前を呼ばれて、ゴア直々に表彰状と花輪を承った。私たちが酒を囲んでアルコールの奴隷と化していた間も、せっせと表彰式の準備をしていた人たちが居るのかと思うと申し訳ない。
けれど、これでやっとあの田舎町を出られる。
プラムを初等部に送り出すことが出来る。
そう思うと心の底から喜びが込み上げて来た。
「ローズくん。君の活躍も報告を受けているよ。なんでもその身を犠牲にして魔物を浄化したとか?」
「えっと……そのようで……」
「フランくんも彼女のサポートをしたらしいね。もう少し詳しく話したいから、戻りの船で僕の元へ来てくれ」
「………はい」
騎士団長の命令とあれば仕方ない。
フランと二人ということで気は進まないけれど、魔物討伐に関する詳細な情報を説明することは仕事でもあるので、私は憂鬱な気持ちを飲み込んで頭を下げた。
◇◇◇
無事に表彰を終えて船は帰路に着く。
穏やかな波の動きを眺めつつ荷物をまとめると、クレアに一言伝えてゴアの待つ彼の部屋へ出向いた。もしかするとフランはもうすでに訪問を済ませているかもしれない。
「……失礼します」
二度のノックのあとで返事があったので、恐る恐るドアノブを回すと、部屋の中には三人の男女が居た。部屋の主人であるゴア隊長、最初の招集の日に私を三班に組み分けたエリサ副隊長、そしてフランだ。
若干の違和感を覚えながら挨拶を述べる。
私とクレアの部屋よりは少し広さのあるその空間には人数分の椅子が設置されており、ゴアは私に座るよう勧めた。
「いきなり呼び出して悪かったね」
「いえ……」
「君たちの活躍、立派だったよ。本当に感謝している」
「すみません…実際はほとんどフランのお陰です。私は自分のミスで息が持たずに、死ぬところでした」
「ああ、それも聞いている。だけど自分の命が危険に晒されている間も浄化の手を止めなかったのは褒めるべき点だ」
「………ありがとうございます」
いったいこの先にどんな話が待っているのだろう。
若干の恐怖を抱きつつ、隣に座るフランを見る。
彼は昨日のことなどまったく忘れたように通常通りの様子でそこに座っていた。もしかして寝たらすべて忘れてしまうタイプなのだろうか?
「そこで、提案があるんだが……」
「?」
強面のゴアの顔がニヤッと笑った。
「ローズくん、ウロボリア王立騎士団に入らないか?」
「えっ……!?」
「なにも今すぐ決める必要はないが、今はフリーで活動していると志願書に書いてあった。騎士団は認定聖女を必要としている。君さえよければ大歓迎だ」
「そんな…もったいないお話です」
ウロボリア国王直属の騎士団である王立騎士団は、認定聖女になってもすぐには配属されることが稀で、ある程度の経験を経て初めてお呼びの声が掛かると聞く。私のような大きな功績のない聖女が呼ばれるのは稀有な話。
「入隊したいです、ゴア隊長…ありがとうございます!」
「うんうん。君ならそう言ってくれると思っていたよ。さて、そこでだね、しばらくの間はここに居るフランを君の家に送り込もうと思うんだが……」
「………はい?」
「ゴア隊長、そういった話でしたら俺は降ります」
私が何かを意思表示する前にフランが立ち上がった。
慌てたようにゴアが両手をバタバタさせる。
彼のそばに座るエリスが顔を背けて大きな溜め息を吐くのを見て、騎士団長によるこうした突拍子もない提案が初めてのことではないのだと察した。
「待って!待ってくれ、フランくん!君が北部の魔物を一掃してウロボリア騎士団に入団を認められた優等生だからこそ、僕はローズくんの育成をお願いしているんだよ」
「育成のために一緒に住む意味が分からない」
「だってね、ほらあの、一緒に住んだ方が色々と便利だろう?仕事の出来は私生活からって言うじゃないか!」
「じゃあ隊長が一緒に住めば良いのでは?」
「僕は既婚者だよ!」
フランの黄色い目がスッと細められる。
仮にも上司の前で薄い唇は長い溜め息を吐いた。
「彼女にも失礼です。上官命令でセクハラまがいのことを命じては、貴方の昇進にも──」
「あれあれ?僕は昨日ローズくんの部屋から夜遅くに出て来る君の姿を見たんだけどなぁ…?上官命令なんて言われると心外だ。てっきり君たちが恋人同士だと思ってお節介で提案したわけだが、もしかして実は不純異性交遊だったというわけかな?」
「………違います」
「だけどアレだよね、君ってば今までの討伐でもしょちゅう女の子を泣かせてたらしいじゃないか。実のところ君宛の被害届が僕の元にもわんさか…」
フランの顔色を確認しながら言葉を続けるゴアを見て、私は咄嗟に口を開いた。
「良いです。仕事ならば受け入れます」
「やったね、フランくん!彼女はオーケーだそうだ」
「隊長、俺は───」
「そうとなれば王都へ引っ越しだな。今住んでるのはマルイーズだろう?新しく家を用意するから、来週の頭には越して来れそうか?」
「えっと…はい……」
「いいねぇ!新しい季節にふさわしい新生活だ」
繰り広げられる怒涛の展開にポカンとしたままで部屋を出て行く際、背中を押したエリスが「あの人ああいうところあるから注意してね」と言い添えた。
私が何か言葉を掛ける前にフランは自室の方に歩き出していて、結局お礼を言えないままに私は家に帰ることになった。
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