第9話 猫ドラゴン物語~~~転⑥~~~

~~~英雄エリオット~~~


守護者の攻撃は壮絶で、 彼の剣は鋭く光り、アレックスに襲いかかるたび魔法防御の付与されたローブを切り裂き、その肉体に傷をつけました。


しかし、アレックスはその傷を気にも留めず、再び守護者に挑んだ。「時間を、時間を稼がなくては」アレックスが心の中でそう呟く。


その時背後からエリオットの絶望を乗せた絶叫が響いた「何故だ?なんでだよ、くそったれー」


アレックスは一瞬エリオットへ目をやると、上手くいかない事で目を血走らせ憤怒の表情で祭壇に拳をたたきつけるエリオットの姿が有った。


(エリオット、失敗して冷静さを欠いているな。儀式は冷静さを欠くと上手くいかない。)そう思ったアレックスは守護者に向きなおし、背中越しにエリオットに叫んだ「あきらめるなエリオット、考えろ」


再び一瞬背後のエリオットへ目をやると、エリオットが考える様子を見せていた。


それを見たアレックスは「まだ、時間が必要だな」そう再認識をし、再び守護者へ向き直った。


守護者の攻撃は時折光の矢の様な物を投擲するが、それは巨木の盾で防げる。問題は光の剣だった。


光の剣は巨木の盾をバターでも切るように容易に切り裂き、その一刀は空気を揺るがし、地面に当たれば地を割るほどの、すさまじい攻撃力を発揮していた。


アレックスはギリギリの所で直撃は避けていたが、それでも魔法防御の付与されたローブを切り裂き、少しずつその体を削いで行っていた。


「お前、ただのパワー馬鹿じゃないな」アレックスは守護者に問いかけた。


いや問いかけと言うより投げつけていた。


守護者は無言で立ち尽くし剣を構えた。


それは言葉を発することの出来ない代わりに、アレックスの投げかけに答えているように見えた。


アレックスは、その構えに見覚えがあった「蜻蛉(トンボ)の構え・・だと」それは古い文献で見かけた物だった。


かつての古の時代、猫ドラゴンが誕生した時代よりも遙か昔、突如現れ当時の国の、亡国の危機を救った英雄が使ったとされる構え。「確か・・JIGENRYU」


その事を思い出した瞬間アレックスの心がざわついた。「ただのエネルギー体じゃ無いのかよ。魂が有るのか・・しかもその魂が・・これはかなりマズイな」


守護者の魂がその英雄なのか、それともその剣技を受け継いだ騎士なのだろうかは解らない。しかし剣技を備えている相手なのは間違いなさそうで、かなり分が悪い。


分が悪い要因には守護者の剣技だけじゃ無く強固な防御力にもあった。


アレックスが巨木を出現させそのまま圧倒的質量で守護者に叩きつけても、鋭く鋭利な槍の様に変形させた巨木で貫こうとしても、物理的な攻撃が通らないのだ。


しかもアレックスは自然のエネルギーを使う事に長けている魔法使い。室内だと上手く自然エネルギーに触れられないのだ。


よって力を使うのは遺跡内に生えている植物を使う事に限定されてしまっていた。「せめて外なら、手札が有るのだが」アレックスは思わずつぶやいた。


その瞬間「チィィィエェリャァァァァァ!」アレックスの頭の中に直接この世の物とは思えない叫び、いや叫びと言うより轟音が鳴り響く。


同時に守護者の蜻蛉の構えからの一撃がアレックスへ振り落とされた。その一撃は今まで見たどの斬撃よりも早く鋭くアレックスへ目掛け振り下ろされて行った。


「グウゥゥゥ」アレックスはそう呻くと超反応しバックステップで躱そうとする。守護者のその一振りはわずかにアレックスの額を裂き地面に叩きつけられたのであった。


アレックスの額はパックリと割れ、鮮血がほとばしる。同時に後方へもんどりうって倒れこんだ。守護者の一撃は遺跡の地面を裂き、その斬撃は地中深くまで及んでいるようだった。


アレックスは[クソ」とつぶやくと血で視界が奪われないように、手持ちのナイフでローブを引き裂いて傷口を塞ぐように頭に巻いた。


その時守護者の一撃が切り裂いた地面からわずかに水が染み出している事にアレックスは気が付いた。


「あれは・・有るのか?」アレックスは倒れこんだ地面に手を当て意識を地中深くへと集中した。そして目を見開いた。「有った」アレックスが見つけたのは水脈だった。


アレックスは見つけた水脈からエネルギーを吸い出すと、雷雲を生成し、同時に出現させた巨木に魔力を被せ強固にした。


「くらえ」アレックスがそう言った瞬間バリバリと言う轟音と目が眩むほどの閃光と共に雷が守護者に襲い掛かった。


しかし雷は守護者の表面をなぞり地面へ抜けていった。


「くそ、駄目か。ならこれでどうだ」アレックスはそう言うと、出現させたエネルギーを被せ強固にした巨木を、ドリルの様に変形させ、回転させる。


「まだよ、まだまだ」そう言いながらドンドン回転を速めていくその回転が最高潮に成ったころ「カッ」っと言う発生と共に高速で守護者へ向けて射出した。


守護者は射出されたドリルを光の剣で受け、ドリルは弾かれた。しかしアレックスは次々とドリルを錬成し射出する。


そのうちの何発かは守護者の体に当たって体がブレる事はあったが、ダメージを負っている様子はなかった。


「くそ、これでも駄目か。」アレックスはエネルギーを被せた巨木と蔦で守護者の進行を抑えようと、必死にもがきながら考えを巡らせる。


巨木と蔦はエネルギーを被せた分強固に成り、守護者の進行を多少鈍らせる事は出来たが、留めるまでには至らなかった。


「万策尽きたか、時間切れだな」アレックスは呟くと撤退を進言しようとエリオットの方へ振り向いた。振り返ると目線の先には・・・


「屍鬼」がいた。


目や耳、鼻と口、顔の穴と言う穴から血を滴らせ体中をガクガクと震わせ屍のような形相で魔力結晶へ手をかざすエリオットだった。


それは明らかに魔力欠乏の症状であることをアレックスは知っていた。そしてエリオットの身に何が起こっているのかを理解し呟いた。


「エリオット、お前・・」


その姿にエリオットの覚悟を感じたアレックスは、自分の考えが甘かったと感じ、それを恥じた。


アレックスは今だそこに悠然と君臨する守護者をにらみつける、そして、うなる様に言葉を絞り出す。


「魔力を直接ぶち込んでやる」


アレックスは水脈から吸い取ったエネルギーを体全体に被せた。すると体が薄っすらと青白く発光し始めた、そしてそのエネルギーを強固に練り上げ両手に込めて拳を固めた、


エリオットは守護者の間合いに近づいて行った。その間合いは守護者に取って絶対領域であり、アレックスにとっては死地であった。


ジリ、ジリっとあと三歩、ジリジリっと後一歩・・・半歩・・・間合いに振れたその刹那、守護者がトンボの構えから光の剣を振り下ろす。


しかしアレックスは振り下ろされる前に出現させた巨木で殴りつける。グラつく守護者。


「今だ」アレックスはその隙を突き守護者の懐に入ろうとする。


しかしグラつきながらも守護者は光の剣をアレックスの胴めがけて横凪に払う。


「うおぉぉ!」アレックスは超反応でバックステップで躱そうと後ろへ飛ぶ。しかしその一閃はアレックス捉え複部を切り裂いた。


「グフウゥ」アレックスはガクッとその場に跪き傷口から中身が出ない様に両手で傷口を抑え込む。


(やばいこれは深い)そして意識が遠のきその場に倒れこんだ。


倒れこむアレックスを尻目に守護者はアレックスの脇を通りエリオットの元へ歩を進めた。


しかし守護者の歩みが途中でピタリと止まる。


守護者の足には蔦が絡まり、その歩行を妨げていた。


守護者が振り返ると意識を取り戻したアレックスが、切り裂いたローブを傷口から中身が出ないようサラシの様に胴に巻きつけ、水脈から得たエネルギーを纏い青白く発光し、仁王立ちで守護者をにらみつけていた。


「どこに行くんだ大将」そう呟いたと同時に巨木が守護者目掛け出現し、元の位置まで押し戻していった。


「行かせねえよ」アレックスが吠え巨木で殴りつける。


戦闘は一見振出しに戻ったかのように見えた。


しかしアレックスは感じていた(最初ほどの恐怖は無い、それどころか守護者の太刀筋が解るようになってきた。それ故に解る。本当に隙が無い。)と。


アレックスの体はボロボロで体中切り刻まれ血まみれであった。にも拘わらず、それに反して動きは洗礼されて行った。


最初は躱すごとに刻まれ、もんどりうっていたが、今では紙一重でよけることが出来ていた。


しかし、一歩足りない。練り上げたエネルギーを守護者に直接叩きこむには、今のままではどうしても一歩届かないのだ。


「何が足りないんだ?」アレックスは歯がゆさにイラつきながら思考を巡らせた。


そんな時アレックスは背後で猫ドラゴンの魔力結晶が一層強く発光していくのを感じ、先ほど見た屍のようなエリオットの姿が脳裏に浮かんだ。そして(そうか、覚悟か)そう思い呟いた。


「やってやる」


そして、巨木の打撃を守護者に浴びせながら、全力で踏み込んだ。


そこに守護者は、巨木の打撃により若干グラつきながらも、アレックスの首めがけその剣をふるい、その切っ先がアレックスの踏み込みよりも早くアレックスの首を捕えようとした。


しかしその剣は止まった。


守護者の振るった一太刀は、アレックスの首と剣の間に差し込まれた左腕に深々と切り込み、骨を断ち、皮一枚の所でその動きが止まったのだ。


そして「それがどうした、行かせねえって言ってんだよ。」そう言いながらニヤリとアレックスの口角が上がる。


太刀筋が見えるように成ってきていたアレックスは、あらかじめ左腕にたっぷりとエネルギーを纏わせ、強化し、賭けに出たのであった。


そして、守護者の動きが一瞬止まった瞬間をアレックスは見逃さなかった。


「フンっ」そう覇気を放つとアレックスは守護者の腹部目掛け、練り上げたエネルギーを叩きつけ「ボンッ」と言う爆破音と共に爆裂させた。


それは発勁の様に浸透し、守護者の内部で爆ぜた。


「いよっしゃぁあ」アレックスは叫んだ。皮一枚でつながる左腕の事などお構いなしに。


守護者は腹部の半分が吹き飛ばされていて、その動きは明らかに鈍くなっていた。


「やったか?」アレックスが呟く。


しかし破損した守護者の腹部は徐々に修復されて行っていた。


それを見てニヤリとアレックスの口角が上がる。


「そうだよな、ここからだよなぁ。大将!」ちぎれかけた腕を引きちぎりローブを切り裂き腕を縛り上げ止血する。


アレックスは命を燃やす。


鬼神のような力が彼を包み込んでいた。自然の魔法を使いこなし、彼の周囲には生命の力が溢れていた。


巨木を叩きつけ、動きの鈍くなった守護者に何度もエネルギーのこもった拳をたたきつけた。


アレックスの目は炎のように燃え、決意と怒りがその瞳に宿っていた。


しかし、やがて勝敗の天秤は守護者へと傾き、この戦いの終わりがやってくる。


血を流しすぎ、体力も尽きかけ、徐々に動きの悪くなるアレックスの体を、とうとう守護者の光の剣が捉えたのだ。


「グフゥ」アレックスは激しく吐血し崩れ落ちた。


「エリオット・・すまん・・頑張ったんだけど・な・・ここまでか・・マイケル今そっちへ行くよ」そう心で呟き、目を閉じようとした。


その時。


「ズゴーン」アレックスの背後で地を裂く轟音が響いた。アレックスは処々に薄れていく意識の中で振り返りその轟音へと視線を移す。


それは、祭壇を吹き飛ばし、遺跡の天井を吹き飛ばし小島の地面にぽっかりと穴をあけて、天まで真っ直ぐに伸びている巨大な目が眩むほどの光の柱だった。


やがて光の柱は、徐々にゆっくりと収束していき、代わりにぽっかりと開いた遺跡の天井から、日の光が優しく差し込んできた。


光の柱の収束と共に、祭壇の有った場所に一つの光の造形が浮かび上がる。


その姿は大きな猫のように見え龍の翼を備えているように見えた。


そしてその光の造形の足元にはエリオットが笑みを浮かべ眠る様に倒れている姿があった。


「はは、や、やった。やりやがった。エリオットめ、やりやがった。ゴフ・・はは・俺たちの、か、勝ちだ・・ざまあ・・み・ろ」そう言ってアレックスは命を燃やし尽くし、眠りについた。


次回 「猫ドラゴン」


作中に出て来る子守歌の歌詞で歌作ってみました。「龍の尾の軌跡」紹介文欄にアドレス有りますので、よろしければ読書後の締めに聴いてみて下さい。

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