第8話 猫ドラゴン物語~~~転⑤~~~


~~~勇者アレックス~~~


エリオットとアレックスは激しい交戦をしながら、祭壇の有るところまで徐々に進み、ついにたどり着いていた。


アレックスがエリオットに言う「エリオットテレポートだ、一気に祭壇までテレポートをして、復活の儀式をやれ」


エリオットは答える「けど、テレポートはダメだった。奴は次元を超えて攻撃してくる」


アレックス:「ああ見ていた、とんでもねぇ奴だ。だが俺が奴の動きを止め、奴を引き受ける」エリオット:「それは・・大丈夫か?アレックス」


アレックス:「任せろ、時間稼ぎ位ならやれる」


エリオットはアレックスの目をじっと見つめ、アレックスの言っていることは何の根拠もなく、覚悟だけがそこに有るのを瞳の奥から読み取った。


「死ぬなよ」とエリオットがアレックスに言う。


アレックスが笑い「次の奴の攻撃時が勝負だ」とエリオットに言い、二人は拳を合わせた。



守護者の攻撃は、彼の冷静さと戦闘における確固たる意志を反映しており、エリオットとアレックスはその圧倒的な力に対して、尊敬の念を抱かざるを得なかった。


守護者は自らの手を高く掲げ、天から降り注ぐ光を一点に集中させ、光の剣を形成した。その剣は純粋なエネルギーでできており、振るうたびに空間が歪み、光の軌跡が残った。


守護者はその剣を振り下ろし、エリオットとアレックスがかろうじて避けると、剣が地を斬り、大地が裂け、遺跡の床には深い溝が刻まれた。


その瞬間。「うぉぉぉぉぉりゃあぁぁぁぁぁ」アレックスは咆哮と共に巨木を出現させ全力で守護者に叩きつけた。「今だエリオット」アレックスは叫んだ。


守護者がアレックスの出現させた巨木をバターの様に切り裂いている様をしり目に、エリオットは祭壇へテレポートした。



エリオットは遺跡の暗闇に包まれた祭壇の前に立ち、猫ドラゴンの復活の儀式を行うために心を鼓舞した。アレックスの戦いの音が背後から聞こえ、その音はエリオットの胸に響いていた。


エリオットは急いで猫ドラゴンの魔力結晶を取り出し、優しく祭壇の上に置き魔力を込め始めた。魔力結晶は暖かい光を発しそれに応えた。


エリオットは図書館の古文書で覚えた呪文を詠唱し、じっくりと魔力を注ぎ込んでいく。魔力結晶は暖かさを増し発する光も増していった。


その光景は儀式は順調に進んでいるかのように見えた。しかしエリオットが呪文の最後の一節を唱えても魔力結晶にそれ以上の変化は無かった。


エリオットはその瞬間、怒りの感情が爆発し、祭壇に拳をたたきつけ絶叫した。「何故だ?なんでだよ、くそったれー」


アレックスはその叫びを聞きつけ戦闘の最中ちらりと祭壇へ目をやった。そしてエリオットへ向けて叫んだ「あきらめるなエリオット、考えろ」


その声にハッとし冷静さを取り戻したエリオットは、振り返りその声の主の方を見た。アレックスは見るからに劣勢であった。


それを見たエリオットは時間が無い事を認識し、頭をフル回転させ考えた。「何か、何か見落としている物は無いか?」


エリオットはこれまでの事を走馬灯のように思い返してみた。その記憶の旅の中で古井戸での不思議な体験を思い出していた。「これだ」


エリオットが思い出したのは、古井戸で古文書の著者であるオズワルドの幽霊に連れられて行った先に有った石に刻まれた一文


"星々が奏でる古の歌、

新月の光が照らす夜に、

真実の眠る聖なる場所にて、

唱えよ、

猫ドラゴンの魔力結晶を目覚めさせるために。"


それとオズワルドの幽霊がエリオットの目を見つめ、無念さの残る声でで囁いた。「聞け・・・古・・・言葉は鍵・・目覚めさ・・唯一の方法。歌・・・唱えるのだ。猫ドラゴンは目覚め・だろう。」と言った言葉であった。


エリオットは大きく息を吸い再び魔力結晶に魔力を込めて歌い始めた、誰でも知っているあの子守歌を。「眠れる森の深くに・・・」


するとこれまでとは比較に成らない程強い光で魔力結晶が輝きだし、すごい力でエリオットの魔力を吸い始めたのであった。


「う・お・むぅ」エリオットはその力の強さに一瞬ひるんだが歌を続けた。魔力結晶の光と熱はどんどん強くなっていきエリオットの体はガタガタと震えだした。魔力欠乏の症状だった。


「まずい、持って行かれる」そう呟いたエリオットの頭には「撤退」のに文字が浮かんだ。そう思いアレックスに声をかけようと後ろを振り返った。振り返ると目線の先にいたのは・・・


「鬼」だった。


それは左腕を失い、血しぶきをまき散らしながら鬼の形相で守護者と戦うアレックスだった。


その衣服は自らの流した血で真っ黒に染まり、顔は肌色の部分が無く、赤い盤面に獣の様に見開かれた両目と固く喰いしばられている歯だけが浮かんで見えていた。


それを見たエリオットは弱気になったことを一瞬後悔し恥じた。


祭壇に向き合い、魔力が付きかけガタガタと震える体に心の中で怒鳴りつけた、「クソがぁぁ。この程度でへばっているんじゃねー」


更に魔力結晶はどんどん輝きを増していき、エリオットが歌詞の最後の一節を唱えた。


そして命を使う覚悟を決め叫んだ。「くそったれ、全部持ってイケー」


その叫びと共に、魔力結晶がピカッと最大の光を放った後、フッと輝きを止めた。


そして沈黙・・・


「ズゴーン」数秒の沈黙の後、祭壇の地下から文字通り地を裂く轟音と共に光の柱が噴出した。


その光の柱は「一切の抵抗を許さない」と意思を持っているかのように、祭壇を吹き飛ばし、遺跡の天井を吹き飛ばし、小島の地面にぽっかりと穴をあけて天まで真っ直ぐに伸びていった。


エリオットはその場に倒れ、その光景を薄れ行く視界の中で捉え、儀式の成功を確信した。


「やった、ざまあ・み・ろ」と呟き、微笑みながらその目と命を閉じた。


次回8話「英雄エリオット」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る