第7話 猫ドラゴン物語~~~転③④~~~

~~~名前無き冒険者達~~~


夜の嵐が去り、湖は静寂の帳を下ろす。湖の水は、まるで世界が一夜で生まれ変わったかのように、鏡のように穏やかで朝日が金色に染め上げる。


朝日は湖面を照らし、二人の影が長く伸びる。泣き疲れ、いつの間にか眠りについていたエリオットとアレックスは、マイケルの静かな遺体のそばで目覚め、その存在がもはやこの世にないことを改めて実感する。


彼らの心は悲しみで重く沈み、その重さは彼らの足取りを鈍らせる。


二人は湖の方へ眼をやった。湖は、その穏やかな姿で、昨晩の嵐を乗り越えた者たちに、静かな慰めと癒しを提供した。


日に照らされた湖の中央には浮かぶ小島があった。昨晩の嵐の影響で出現したものなのか、それとも昨晩は暗くて気が付かなかった物なのか。


何れにせよそこには小島が有り、二人の視界に捉えられたのだ。


その小島は静かに彼らを見つめ、その静寂が、二人に何かを語りかけるようだった。



エリオットは、古代の地図に描かれた未踏の土地を発見した探検家のように、小島に目を奪われる。彼の内に秘めた好奇心が、悲しみのヴェールをわずかに持ち上げる。


アレックスもまた、自然の息吹を感じ取り、小島が彼らに何かを示しているかのように感じる。


「アレックス、あれを見てくれ。あそこに何かがある。」エリオットの声は震えていたが、その中には確かな決意が感じられた。


アレックスは、小島を凝視する。彼の表情は複雑で、戦う気力と悲しみが混在している。


「エリオット、マイケルがここにいたら、きっとあの島に行こうと言っていたはずだ。」アレックスの声は静かだが、その言葉には重みがあった。


エリオットは頷き、二人の間に沈黙が流れる。それは、言葉にならない共感と、前に進むための無言の誓いだった。


二人はマイケルの遺体に静かに手を合わせ、そして立ち上がる。彼らの足は重いが、それでも前に進む。


アレックスがマイケルに声をかける「マイケル少し待っていてくれ、必ず俺たちの目的を達成し戻ってくるからな。皆で帰ろう」


彼らは悲しみを背負いつつも、新たな発見へ未来へと歩を進めるのだった。




小島への移動を決意したエリオットとアレックス。エリオットは深呼吸をし、目を閉じると、彼の足元から、青白い光がゆっくりと広がり、二人を包み込む。


テレポーテーションの魔法が発動し、周囲の景色が一瞬にして歪み、次の瞬間、二人は小島の草原に立っていた。


小島は、まるで時間が止まったかのように静かで、まるで古代の秘密を守っているかの様にそこに佇んでいる。


エリオットとアレックスは、新しい世界に足を踏み入れた探検家のように、周囲を警戒しながら進む。草原の向こうには、森が密集しており、その暗がりは未知の物語を語りかけているようだった。


二人は森を抜け、やがて地面にぽっかりと開いた入り口を発見する。それは、地下遺跡へと続く口のようで、古の文明が息づいているかのような神秘的な雰囲気を放っていた。


エリオットは、この遺跡が古代魔法の知識を秘めていると直感し、入り口に近づく。


「ここには、何かがある。」エリオットが囁くと、アレックスは静かに頷き、二人は地下遺跡の暗闇に足を踏み入れる。


彼らの心には悲しみが残りつつも、新たな発見への期待が芽生えていた。地下遺跡の入り口は、過去と未来を繋ぐ門のようであり、二人の旅は、そこから新たな章へと進んでいくのだった。



地下遺跡の入り口をくぐると、エリオットとアレックスは古代の息吹に包まれる。


彼らの足音が響く石畳の道は、遠い過去への回廊のように、二人を静かに誘う。壁には複雑な象形文字が刻まれ、その一つ一つが失われた知識の断片を語りかける。


「これは・・これらの文字は、何千年もの歴史を持っている...」エリオットはその荘厳さに感嘆しつぶやく。


天井からは、時折、水滴が落ちてきて、地下の沈黙を破る。その音は、遺跡が生きている証のように、二人の心に響く。アレックスは、自然の力を感じながら、周囲の空気に耳を傾ける。


そして「この場所は、まるで生きているようだ。」とアレックスも感嘆する。



彼らが進むにつれ、遺跡は徐々にその秘密を明かしていく。通路の両側には、壊れた石像が並び、かつての栄光を物語る。それらは、時間の流れに耐え、今もなお、見守り続けているかのようだ。


「ここには、古代の魔法使いたちがいたんだろうな。」エリオットが想像を膨らませる。


エリオット達が更に奥へ進んでいると、おそらく冒険者のパーティであろう白骨化した死体が目に入った。


「こんな所で・・」エリオットは呟いた。アレックスは死体を調べながら続いて言った「何かに襲われている。おそらくこの奥で襲われて逃げ出す途中のこの場所で力尽きたのだろう」


エリオットの表情が引き締まり言った「襲ってくる何かがいると言う事だな。警戒しながら進もう」アレックスが「ああ」と相槌をうつ。


「ん?ちょっと待ってくれ」アレックスはそう言うと、調べていた白骨死体が装備していた袋の中から一枚の羊皮紙を取り出した。


アレックスがエリオットにその羊皮紙を見せながら言った「手書きの地図だ」


エリオットはその地図を見ながら言う「これは・・この遺跡の地図だね。入り口からここまでの道のりが一致している」


地図には複雑な通路や部屋が描かれており、特定の場所には赤い印がつけられ文字が書いてあった。


「と言う事はこの印の箇所、文字がかすんで良く見えないな・・ね・こ・ドラ・ン・・眠りの祭壇」アレックスが読み上げる。


と同時に驚いた様子で二人は辺りをグルグルと見まわした。「ここが・・この場所に猫ドラゴンが・・」二人は顔を見合し声に成らない声で歓喜の声を上げた


「良し。よーっし、はは、やったよマイケル。見つけたよ」アレックスは涙を浮かべ言った。


そして「アレックス、泣くのは後に取っておこう、近くに魔力結晶も有るはずだ。それを見つけ猫ドラゴンを復活させ、マイケルに報告しようじゃないか」そう言ったエリオットの目にも涙がにじんでいた。


二人は白骨化した冒険者たちをきれいに並べて、しばらく手を合わせ黙祷した後、遺跡の奥へと歩を進めていった。


しばらく歩いていると遺跡の静寂を破る小さな鳴き声が、エリオットとアレックスの注意を引いた。彼らはその音の源を探し、やがて小さな動物を見つける。


それは、遺跡の石の隙間に挟まって身動きが取れなくなっていた。「大丈夫かい?」エリオットが優しく声をかけると、小動物は怯えた目を彼に向けた。


アレックスがそっと手を伸ばし、動物を解放する。「怖がらないで。ここから出してあげるよ。」


解放された小動物は、二人に感謝の意を示すかのように、小さな頭をこすりつける。そして、その生き物は、彼らが手に持つ古びた地図に興味を示し、鋭い目で地図を見つめていました。


「この子、何か知ってるかもしれないね。」エリオットがアレックスに耳打ちします。


アレックスは頷き、小動物に地図をさらに近づけて見せます。「君、何か知っているのかい?」


小動物は地図上の特定の場所に鼻先を押し付け、それから二人を見上げて鳴きました。


そして何かを伝えたいかのように、遺跡の奥へと小走りに進み始める。


「あれ、どこに行くんだ?」アレックスが疑問を投げかける。


「分からないけど、追いかけてみよう。」エリオットが提案し、二人は小動物の後を追う。


小動物は巧みに遺跡の通路を進み、最終的には一見何の変哲もない石の間に導いた。そしてそこの片隅に輝く物の前で「キー」っと一言発した。


「これは...!」アレックスが驚きの声を上げる。それは猫ドラゴンの魔力結晶であった。


「信じられない、こんなところに!」エリオットが結晶を手に取り、その温もりを感じた。


小動物は、彼らが結晶を見つけたことを確認すると、満足げに遺跡の影に消えていった。


エリオットとアレックスは、小動物の案内と偶然の出会いに感謝しながら、目的の魔力結晶を手に入れたのであった。


エリオット達はその小動物が白骨化した冒険者たちの仲間であったことを、知らない。



~~~守護者~~~


遺跡の曲がりくねった通路を慎重に進むエリオットとアレックスは、祭壇へと続く地図を手にしていた。


「この辺りに近づいてきたな...」エリオットが低く呟く。


アレックスが周囲を警戒しながら応じた。「何か、気配を感じるような...」


すると、壁の影から光が溢れ出し、二人の前に光の精霊戦士が現れた。それはガレスが残した古代の亡霊。


その姿は、まるで夜空に輝く星座が形を成したかのように美しく、しかし同時に脅威を放っていた。


二人の背中に冷たい汗が流れる。エリオットが言う「アレックス・・」アレックスが答える「ああ、これは・・やばいな」


存在だけで周りの空気をビリビリと震わせ、絶望のオーラを纏うこの姿は、圧倒的強者であり、万に一つも勝てる相手ではないことを二人は悟った。


しかし二人に恐怖は無かった。その理由は勝てる算段が有るとか、余裕や希望の類の物などでは決してなく、昨晩の魔力嵐の地獄のような凄惨さを体験した今、恐怖の感覚に耐性が付いていたからであった。


いや、恐怖の感情が一部壊れてしまっていた。という方が近かった。


二人の心は自分でも驚くほど穏やかで、勝てる勝てないの思考は無く、そこに有るのは「絶対に祭壇にたどり着き猫ドラゴンを復活させる。」と言う確固たる意志だけであった。


そして間違いない、こいつがあの冒険者たちを倒したのだろう。二人はその事を直感した。


エリオットとアレックスは、遺跡の奥深くへと進む道中で、光の精霊戦士(守護者)による 容赦ない攻撃にさらされていた。


エリオットの指先が躍ると、空間が歪み、次元の扉が開く。彼の心は冷静さを保ちつつも、戦いの興奮で鼓動が速まる。「これで躱せる」と彼は思うが、その希望はすぐに打ち砕かれる。


守護者の光の矢は、次元の隙間をも通り抜け、エリオットの腰に鋭い痛みを与える。「こんな...!」と彼は声を上げる。痛みは彼の意識を一瞬にして現実に引き戻し、彼はその衝撃で膝をつく。


「テレポートで躱すのは無理か・・」エリオットは呟く。


守護者の攻撃は、彼の名前が示す通り、光の精霊の力を具現化したものでした。彼の動きは優雅でありながら、その攻撃は破壊的な力を秘めていた。


エリオット達も必死に応戦するが、守護者との実力差は明白で、徐々に押され始めていた。


しかしエリオットとアレックスの心中には、やはり恐怖は無く戦闘の高揚感と興奮が満たしていく。


エリオットは空間を操る魔法で戦場を支配しようと試みる。彼は手を振り、次元の扉を開き、守護者を別の空間へと引きずり込もうとした。


守護者はエリオットが開いた次元の扉に気づき、その存在を消し去るべく、手から輝く光の矢を放った。その矢は空間を裂き、次元の扉を閉ざすと同時に、遺跡の壁に深い傷を残した。


光の粒子が散りばめられたような矢は、まるで星々が夜空を駆けるかのようだった。「美しい」思わず見とれてしまったエリオット。


「エリオットぼーっとするな」アレックスがそう叫び、蔦(つた)を使って守護者を縛り付けると、守護者はその束縛を振り解くために、自身を中心に強烈な光の波動を発生させた。


その波動は蔦を焼き切り、周囲の空気を震わせるほどの衝撃波となり、危険を察知し瞬時に発生させたエリオットの次元盾を容易く突破し、二人は壁に叩きつけられた。


その攻撃は強烈に二人の内臓にダメージを与え、二人は吐血した。守護者の力は、まるで太陽が地上に降り注ぐような圧倒的なものであった。


「これは、きっついな」とアレックス。「ああ、まるで勝ち筋が見えない・・だが」とエリオット。


そして二人の口角はニヤリと上がっていた。


「祭壇だ。」


守護者の背後に祭壇が見えた。


7話へ続く

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