第61話

「クッソ、オラァアアア! 男の癖に、女を舐めてんじゃね~ぞぉおおお!!」

「ちょっ、ヤメッ……」


 先ほどまでの間延びした雰囲気はどこへやら、汚い口調でオレにしがみつきながら、パンツを脱がそうとしてくる元剣王のロウ・フーリンさん。


 剣術を正式に習った事はないが、生まれた村で居たころはチャンバラごっこに付き合わされた事はある。

 しかも相手は子供とはいえ、身体強化つきの女性陣。

 それに子供であるが故に、手加減だってありゃしない。


 ただの木の枝でも、当たれば骨が折れるだけじゃ済まない。


 身体強化した者同士であれば、それも問題がないのだが、こっちゃ普通の只人でござい。

 回復魔法があるとはいえ、痛い物は痛い。

 それこそ死に物狂いで避ける訓練になったさ。


 まあ、最終的にはそれでもどうにもならなくて「身体強化を使わずに戦ったほうが上達が早い」などと言って誤魔化して、なんとか強化魔法無しにしてもらったのだが。


 そんな訳で、例え元剣王といえども、身体強化なしの攻撃なら避ける事は容易かった。

 しかもだ、このお方、どうやら自身が持つ豊富な魔力を主軸とした、力押しの戦法がメインだった模様。

 魔力で強化した脚力で誰もよりも素早く動き、魔力で強化した腕力をもって相手を力でねじ伏せる。


 ごくシンプルな、早い・重いを突き詰めた様な戦い方。


 特定の技術に特化した人は、特定の場面であれば強いかもしれない。

 一時的であれば頂点に立つことも可能だろう。

 しかし、特定の技術が研究され、対策をとられる様になればとたん弱くなる。


 それに引き換え、誰でも使えるシンプルな攻撃に特化した人は、それこそシンプルに強い。


 その早さ・重さを物理的に超えなければ、勝ち目がない。

 さすがは元剣王と言えるだろう。

 だが、物理的にその早さ・重さを超える事が出来ればそれも覆る。


 そう、身体強化がなくなれば、脚力も腕力も普通の――――それこそ、オレの前世の世界の女性と変わらない。


 曲がりながらも体を鍛えているオレの相手ではなかったのである。

 ただ突進して斬りかかって来るだけ。

 そのスピードも見えるし、受け止めるのに腕力も必要ない。


 で、なめプして片手で受け止めたりしていたら…………キれられました。


「そのパンツひん剥いて、男に生まれたことを後悔させてやらぁあああ!!」


 大変、興奮してございます。

 身体強化を阻害している封魔のパンツをずり降ろそうと、しがみ付いて来て脱がしにかかって来た。

 おい、そこの二人、黙って見ていないで助けてくれよ。


 これ、どう見ても反則技じゃね?


「うんまあ……亜竜討伐に有効そうなのは分かったわね…………」

「しゃ~ない、それじゃファニス、一緒に助太刀するかね」

「そうねえ」


 ちょっと待て、おまえら、どっちに助太刀する気だ?

 おい、その手はなんだ?

 良い笑顔でこっちに、にじり寄って来るスリフィとファニス。


 その時だった! 二人の頭上に天罰と言う雷が降り注ぐ。


「ちょっと二人とも! またなんか変な事を始めたって聞いて急いで来てみたら……やっぱり、そんな事をして!!」


 そこには息を切らせて走り寄って来た――――ファニスの異母妹、リューリンちゃんが居たのであった。


「ち、違うのよ、こ、コレはね…………実験、そう実験なのよ!」

「そ、そうだよ? コレはね、魔法を封じるとどうなるかという」

「魔法を封じるのと、パンツを脱がそうとするのに、何の関係があるって言うのですか!?」


 いや、そうだよね、そう思うよね。

 普通はそう思うよね。

 いや、本当に関係があったりするのだが。


 走りながらの天罰だった所為か、まだまだ余裕がありそうなスリフィとファニス。

 こいつらは普段から天罰くらってるから、雷耐性が付いて来たんだよな。

 で、その二人にバチバチと放電しながら、ゆっくりと近づいていくリューリンちゃん。


「ま、まあ、落ち着きなよ、これには深い訳があってね」

「べ、別に、コレはチャンスだと思って一緒に脱がそうとした訳じゃないわよ?」

「あっ、バカ、ファニス……」


「問答無用!!」


 ひと際、強い光の柱が二人を包み込む。

 そのあと残ったのはプスプスと煙を上げながら焼けこげた物体が二つ。

 あいつら、あれでも生きてんのかなあ?


 まあ、後でアール様に回復してもらえば済む話か。


「さてと、そっちのお人は、どなたでしょうかね?」


 ギロッとオレのパンツを握っている女性を見やるリューリンちゃん。

 その女性、ロウ・フーリンさんは唖然とした表情で先ほどの天罰劇を見ていた。

 ゆっくりとにじり寄って来るリューリンちゃんに、フルフルと首を振って拒絶するロウ・フーリンさん。


 さっさとオレのパンツから手を離した方が良いっすよ?


「わ、私は剣の聖地の元剣王、ロウ・フーリンよぉ」

「剣の聖地……? 聞いた事がありませんね」


 剣の聖地と呼ばれるのはもう少し後の時代だったんじゃね?


「えっ、でも、そこの白いのが…………今は真っ黒になっているけど……」

「ふ~ん、スリフィがね……それもスリフィに言われてやっているのですか?」


 リューリンちゃんは、オレのパンツに手を掛けているロウ・フーリンさんの手元を指差す。

 それを見て、パッと手を離し飛びのくロウさん。


「そ、そうなのよ……そうね、ここまで離れれば……」


 足元の地面をつま先でトントンと叩き何かを確かめるロウさん。

 その後、何を思ったのか竹刀を構え目にもとまらぬ速さでリューリンちゃんへ突進する。

 その竹刀が届こうとした瞬間、荒れ狂う光のドームがリューリンちゃんを包み、焼けこげた物体が一つ増えたのだった。



◇◆◇◆◇◆◇◆


「あれ、あんたの妹、なんなん? アレが居たら亜竜もなんとかなるんじゃな~い?」


 あのあと、アール様に癒してもらって再度4人で集まる。


「いやさすがにリューリン一人では……どうにもならないわよ? ならないわよね?」

「どうかなあ、リューリンはボクの知る歴史では知らないし…………だけど、あれだけの威力の魔法を連発できるのは歴史上でも少ないと思う」

「まあリューリンちゃんの事はともかくとしてさ、魔法を封じられたら、亜竜が弱体しても、そっちの剣の聖地(予定)の人でもどうにもならないんじゃね?」


 何せ、オレでも勝てるぐらいだ。

 むしろ、オレがやった方が良いまでありそう。

 スリフィの言う歴史に鑑みて、亜竜とオレが絡むとろくな事にならなさそうでやる気はないが。


「今はね、でも、もうすぐ、史上最年少となる新たな剣王が剣術の歴史を塗り替えるはず、というか、この人がすでに元、となっている事は……その、新たな剣王はすでに誕生している?」

「は? 史上最年少の剣王? 何を言っているのやら……最年少どころか、今は史上最年長の人物が剣王となってるわよ、なんせ今の剣王は――――エルフだから」

「えっ、エルフが剣王? あの、偏屈種族が人族の王様……? いや、そんなの聞いた事がないんだけど」


 もしかしてエルフ迫害となにか関わりがあるのか?

 ほら、エルフ迫害のない国を作ろうとか?


「その名もルーリア・緑。今の剣の聖地――――大宝国の頂点に立っているのはエルフよ」


 は? ルーリア、さん……!?

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ハードモード貞操逆転世界で傾国の美男になる(らしいですよ) ぬこぬっくぬこ @nukonukkunuko

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