第60話
「で、なんでオレが決闘なんてしなきゃならなくなったんだ?」
オレの目の前には小柄な女性が立っている。
紫がかった長い髪をポニーテールにした、少しばかり軽装な服装をしている。
上半身は胸にさらしを巻いただけで、下も袴のようなズボン。
靴は履かず裸足のまま。
どっかの武士かな?
手に持っているのは刀じゃなく、長いロングソードだが。
それを片手でブンブンと振り回している。
あの小柄な体にどこにそんな力が……まあ、身体強化の魔法なんだろうけど。
「体が小柄なのは魔力の多い人の特徴なんだよ。エルフの成長が遅いのも、その豊富な魔力の所為だって話だからね」
スリフィがそう説明してくれる。
という事は、聖女クラスの魔力があるアール様もあれ以上は成長しないって事か……
本人は涙ぐましい努力をされているようなんだけどな。
教えてあげた方が良いのだろうか?
「先生、知らない方が幸せって事もあるんだよ?」
しかしまあ、そのアール様と同じぐらいチンチクリンな目の前の女性。
歳は30歳近いという話だが、見た目は中学生程度。
それだけ豊富な魔力をたたえているという事だろう。
なにせ彼女はスリフィの言う『剣の聖地』その頂点に立っていた事もある女性だからな。
「剣の聖地って言うから、どこかと思えば、あの頭がおかしい国の事だったとはねえ」
「陛下~、人の国をあたまのおかしい国だなどと言わないでもらえませんかね~」
少し間延びした話し方で、ファニスに答えるその小柄な女性――――ロウ・フーリン。
剣の聖地、と呼ばれるのは後世の話で、現在は大宝国と呼ばれている。
大陸の果てにある、断崖絶壁に囲まれた島、と言うには大きすぎる大地がある。
まるで何らかの力により、そこだけ押し上げられたかの様に隆起している場所。
その険しい断崖絶壁は人の侵入を防ぎ、生半可な手段ではそこに行くことも難しい。
当然、そこから出る事も。
その性質上、かつてそこは、罪人の流刑地として扱われていたりもしたそうだ。
そんな罪人たちが集まって作られた国。
そしてこのロウ・フーリンと言う小柄な女性は、その国で剣王と呼ばれる国のトップにいたお方だ。
つい最近、国を追われ、我が国、新生ヴィン・ヴァルキシア帝国に亡命して来ていたそうだ。
「でも、剣の聖地って言うのは良いわねぇ。国名なんて取っ払ってそう呼ぶ様にしてもらおうかしら。元々、国の態をしていない場所だし~」
で、なぜこのお方が亡命して来たかと言うと、決闘に負けたからだそうだ。
まあ多くの罪人が集まっている国だ。
法律や規則や言っても聞きゃしない。
だとしたらどうなるか?
そう力だ、力こそ正義となる。
そのお国では全ての物事を武力で解決する。
衝突したら一対一で決闘を行い、勝ったほうが正しいとなる。
で、強い奴がトップに立つので、まともな政治なんて期待できる訳がない。
欲しい物があれば殺して奪い取る。
強い物は弱い物を虐げても良い。
それが許されている修羅の国。
「それは誤解よ~」
むしろ他の国よりも規律が厳しいとおっしゃる。
確かに国法というものは存在しない。
悪事を働いても裁判にかけられることはない。
だからこそ『自主的』に規律を重んじる。
裁判はない、裁判がないが上に――――裁く者の責任も重い。
「毎日が決闘の日々とか言うけどね~、実はそんな事は滅多にないのよ~」
誰だって命は惜しい。
そんなに頻繁に決闘してりゃ、どんな強者であろうともいつかは命を落とす。
それを回避するためには、決闘を申し込まれないような状況を作り出す必要がある。
人の恨みを買わず、人から惜しまれるような人物にならなければならない。
下手な裁き方をしていれば、決闘最前線になって命を落とす確率もグンと上がる。
「必然『高潔』な人物が上に立つ訳よ~」
「高潔ねえ……」
ファニスが何かを言いたそうな顔でロウさんを半眼で見つめる。
「ま、まあ、規律はほんとに他の国より厳しいのは確かよぉ。治安だけで言えば、ココよりずっと良いかもね~」
状況次第では小さな悪事でも首を刎ねられるから、みんなビクビクよぉ。などと小声で付け足す。
結局、恐怖政治やん。
そりゃ、何やったら裁かれるか分からなけりゃ、小さな悪事も働けまい。
まあ、江戸より前の日本も似たようなものだっけかなあ。
「それじゃあ、雑談はそれぐらいにして、ちゃちゃっと始めようか」
「だからなんで、オレがこの人と決闘せにゃならんのだ?」
「なぜ魔法を封じたら亜竜を倒せるか、良いデモンストレーションになると思ってさ」
「ふむ…………?」
「まず、先生にはコレを履いてもらいます」
「なんだこりゃ?」
「周囲の魔法を解除する、封魔のパンツです!」
なぜにパンツ?
「一番、壊れにくいからサ!」
アクセサリーは壊される可能性がある。
シャツやズボンだって戦闘中に破れる可能性は大きい。
だが、なぜかどの物語でも、そうなぜか、どんなにボロボロになってもパンツだけは無事な場面が多い。
「いやコレ、漫画や小説じゃないから……」
「現実的に考えても、そこを狙う人も少ないし、守る方も重点的に守るでしょ?」
「いやまあそうだが」
「ここがエロゲーの世界だと、真っ先に破れたりするけどね~」
エロゲーじゃないから大丈夫か?
いや本当に大丈夫か?
なんだか大丈夫じゃない気がしてきたぞ。
「ささっ、ほら早く履いてよ」
ここで着替えろと?
さすがのオレでもこんな場所でストリップショーはしたくない。
少々、不細工だがズボンの上から履くか。
「それは反則だよ先生~、せめて頭から被るとかさ」
「どこの変態だよソレは」
「普通に控室で着替えてきたら?」
ファニスの言う事はもっともだね。
という事で控室にてパンツを履き替えて戻って来る。
「武器はこっちの竹刀を使って」
「あら、軽いわね~、こんなので大丈夫?」
「軽い方が良いと思いますよ、そっちのロングソードだと……」
持てなくなるんじゃないかなあ、とつぶやくスリフィ。
まあそうだよね、身体強化の魔法も使えなくなる訳だし。
そしてそんな事に思い当たりもしないのかロウさんは言って来る。
「心配しなくても大丈夫よ~、男相手に本気なんて出さないから~」
それはフラグですよ奥さん。
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