第58話
「と、言う事であんた、金と人はいくらでも用意するから、ここに都市を作り出しなさい」
「また、とんだ無茶ぶりだねぇ……」
ヴァルキシア帝国とヴィン王国が一つになったとはいえ、一つの街を両方の首都にするにはいろいろと問題がある。
なにせ政策が違うのだ、同じ町で二つの政策を混在させるには無理があろう。
一歩、線をまたいだだけで、方や帝国、方や王国。
犯罪の取り締まりだって管轄が違う、オレの前世のパトカーが県をまたいで追跡ができない、どころの話ではない。
「旧帝都の跡地はどうすんのサ」
「穴ぼこだらけで、そのまま使える建物はほぼ存在しないわ。さらにモンスターが住み着いてダンジョン化している」
モンスターを追い出し、建物を取り壊し、整地も必要。
それならまだ、木を切り倒して土地を耕した方が数倍マシだというのは分かる気がする。
「例の侯爵様の領地とかじゃダメなん?」
「それもねえ……」
そうなると、かなりの配慮が必要になる。
なにせ土地を取り上げる形になるわけだ。
住んでる住民たちとて、ほとんどが侯爵サイドの人間だ。
下手すれば皇帝より侯爵の方が力を持ちかねない。
その上、他の貴族からの不満も噴出する事が必須。
「だから何もない所に、一から作り出した方が良いのよ。それにちょうど良い場所がココって事ね」
ヴィン王国の王都よりさほど離れていない。
訳の分からないほどの軍事力も持っている。
開拓に適した広い平地もある。
「でもさ、森の方にはすでに避難してきたエルフが住み始めているよ」
「森の方へ足を広げる必要はないわ、ヴィン王国の王都へ向かって他の村々を吸収しながら広げなさいよ」
「うわぁ……さらに無茶ぶりが増えた」
むしろ森の方にエルフが居る事もメリットになるとファニスは言う。
森からのモンスターに対しエルフに守ってもらえば良いと。
さすがに保護したエルフが襲ってくることはないだろう。
そうすると、後方を気にせず前面だけに集中する事ができる。
「防御面、立地、開拓のし易さ、と三拍子そろっているのよねえ……後さ、あいつらを見張っている事にも役に立つ」
いい、1000人の狂信者しかいない村と、10万人のうち1000人の狂信者が居る街、どっちが危険だと思う?
と、ファニスが問いかけてくる。
そりゃあ、後者じゃないかね?
問題が起きたら10万人に影響がある訳だし。
「あいつらが問題を起こせば、どっちしろ10万人なんて小さな数字よ」
だから問題を起こさせない様な状況を作り出さなければならない。
人が少なければ、裏で何かやっていても気づけない。
だが、人が多くなれば、誰かがそれを目撃する。
そして目撃した誰かはそれを口に出す。
人の目、耳、口と言うのは思った以上に情報を拡散させるのに役に立つ。
目は監視カメラ、耳は盗聴器、口はボイスレコーダー、と言ったところか。
正確性は欠けるだろうが、何もないよりははるかにマシだろう。
後は集まった情報を分析する機関をきちんと作っておけばよい。
「なるほど……町民自体をを監視役にして扱う訳だね~」
「その上、あの第四王女の性格上、同じ街に住んでいる人々は守るべき対象にもなるでしょ」
「さらに足かせにもなるって事か……」
いろいろ考えてるなファニスのやつ。
「他人事ならほっといても良かったんだけね~、誰かさんのせいで、そうも言ってられなくなった訳だし」
そう言ってため息をつく。
とはいえ、本当にスリフィのしたい様にやらせて大丈夫か?
エロい施設ばかり作ってモラルが崩壊しやしないか?
なにせ、あのスリフィさんだぞ。
「エロい施設…………まあ、興味が無い訳じゃないけど、そうはしないでしょ?」
「どっからそんな信頼がでるのさ?」
「エロい施設も何も、まずは男性を呼び込めないとね。なんでもそっちの腹案ならあるって言ってたじゃない、それを都市の規模に広げれば良いのよ」
「簡単に言ってくれるよね~」
まあ、スリフィは千年後の未来の記憶を持っている。
その知識を生かして街づくりをすれば、どのような物が出来るか少し楽しみではある。
魔法が発達した世界だと言っていたし、オレの前世とも違う、新世界を見せてくれるかもしれない。
その世界が良いか悪いかは別としても……
「本当に好きにやって良いの?」
「うっ……ええ、良いわ。全部の責任は私が持つ!」
ファニスさん男前やねえ……いや、この世界では女前になるのか?
それにしても、とんだ博打に出たもんだ。
オレは一切の責任は負えないぞ。
「先生だったらさ、一から街を作るとしたらどうする?」
スリフィがオレにそう聞いて来る。
「オレか? そうだなあ……」
まずは道かなあ……
あとは上下水道。
コンピューターゲームの様に後からポンポン追加や削除ができるわけでもないから、最初の区画整地が重要だと思う。
そのためには街の血管ともなる道の配置を良く考えるべきだろう。
「ふ~ん…………スリフィの事はさあ、本人から聞いて知っているんだけど……」
まあコイツ、あんま隠す気なさそうだしな。
「そのスリフィに先生って言われているシフにも何か秘密がありそうよね」
「そう言えば、ボクもその事を先生に聞こうかと思っていたんだった」
いよいよ、オレの秘密を打ち明ける時が来たか?
と、思っていた所、バァン! と扉を開けて一人のエルフの女性が駆け込んでくる。
「ファニス様、大変です! グランドム侯爵の領地が、亜竜によってほぼ壊滅状態との事です!」
「…………ねぇ、なんであなたはそんなに嬉しそうな顔なの? コイツさあ、私が不機嫌になりそうな話を持ってくるときに、凄い良い笑顔なんだけど……いい加減、殴っても良いと思わない」
いや、それは逆効果になりそうだから止めた方が宜しいかと。
その駆け込んできた女性は、オレを護衛してくれているエルフの少女のコウとセイのお母さんで『痛いのが大好き』とか言う性癖を持つ、キアラさんであった。
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