第54話

「ねえ、スリフィ、本当にファニス皇女は私の事を許してくれるのぉ?」

「まかせておきなって!」

「私、あのフォンラン皇女は受け入れられないわぁ」


 マダムの気持ちはすっかり、反グランドム侯爵に動いている。


 まあ、住んでいた屋敷は追い出されるわ。

 集めていたエルフの子供たちは虐められるわ。

 なにより「同性愛者で幼女趣味? 気持ち悪い、死ねば良いのに」と言われたのが一番こたえたようだ。


「今なら、どんな事をしてでもあの皇女を引きずり落としてやるわぁ」


 だから、ファニス皇女への顔つなぎをお願いと言ってくる。

 せっかく作った天国の様な場所を奪われて、かなり頭に来ているようだ。

 その上、死ねとまで言われて、忠誠を誓える訳がない。


 これは、グランドム侯爵の策略なのだろうか?


 ほら、わざと嫌がらせをして、自分から反抗させて一網打尽にするというアレ。

 グランドム侯爵だって、こんな事をしておいて、マダムが自分に快く従うとは思わないだろう。

 それとも、こういう事を各地でやらかしていたから、ファニスが名乗りを上げただけで人が離れて行ったのかな?


 あのフォンラン皇女だと、ファニス皇女より人心が集まりそうにないしね。


 とはいえ、ファニスからの返事も来ていないんだよな。

 エルフのスパイ、コウとセイも、母親であるキアラが帰って来ないので状況が分からないと言う。

 グランドム侯爵の軍が街を取り囲んでいるから潜入も難しいのかもしれない。


 そんなある日、オレはフォンラン皇女の寝室に御呼ばれされる。


 いよいよ、めくるめく夜がオレにも訪れるのかと期待して向かったのだが。

 そこには何人もの男性をはべらかせ、ほとんど裸同然の衣装をまとったフォンラン皇女が待っていたのだった。

 えっ、何?


 こんどはオレがサバトするの?


 いや、オレはそんな、同性を喜ばせるようなテクニックは持っていませんよ?

 ほんとカンベンしてください。

 と思っていたところ、フォンラン皇女がいかがわしいおもちゃを手にとって話しかけてくる。


「これは、あなたが買って来たんですってね。ぜひ、使い方を見せてほしいものですわ」


 そう言ってエグそうな大人のおもちゃをオレの方へ投げつけてくる。


「ほら、早く、自分の体で試してくれないかしら?」


 えっ、このバイ〇をどこに突っ込めと?

 ヒェッ、冗談じゃねえ。

 なんてことを要求してくるんだ、この性悪皇女は。


 皇女を含め、周りの男性連中もオレの方を向いてクスクス笑っている。


 これってもしかしてイジメでしょうか?

 オレがいったい、何をやらかしたってんだよ。

 なんなんだこの皇女様。


 見た目が大した事がないんだから、体で喜ばしてほしいものね。などと仰る。


「できませんの? フフッ、なんなら私が手取り足取り、教えて差し上げますわよ」

「フォンラン様、シフ様は亡き皇帝陛下の側夫候補であった方です。この様な扱いはさすがに問題となりますよ」

「つまんないわねコウセイ。せっかく、あの嫉妬深い侯爵の息子から解放されたのよ、少しぐらいハメを外させてくれても良いと思いません?」


 もう十分にハメを外していると思うんだがなあ。


 コウセイ君のおかげで、その日は事もなく脱出できた。

 彼女と夫婦になるのは、ちょっとカンベンしてほしいのだが。

 結婚式はもう数日後に迫っている。


 しかし、ファニスから虐められていたと言っていたが、あれじゃあ、ファニスとは相性が悪かろう。


 スリフィに影響される前のファニスは、後宮自体を唾棄していたぐらいだ。

 今のファニスでも、オレ以外の男性には見向きもしない。

 こんなナンパ女郎が相手だと、イラつきもする。


 しかし、そのファニスの動きが今は分からない。


「スリフィ、ファニスからの連絡はまだないのか?」

「う~ん、そろそろアクションがあっても良いと思うんだけどね~」

「母様からの連絡もなにもありません」


 エルフのコウちゃんもそう言う。


「グランドム侯爵派の軍が続々と集まって来ているから、動きを探られないためにも行動を自粛しているのかもね~」

「マダムを連れての脱出はできないのか? ほら、例の姿隠しの魔法で」

「エルフの子たちが多すぎるよ。全員は無理だし、全員じゃないとマダムが動かないね」


 マダムはエルフの幼女を大層、可愛がっているからなあ。


 ある意味、迫害されたエルフの子供たちの受け皿にもなっているのではなかろうか。

 そうじゃなきゃ、成長が遅く、労働力が見込めないエルフの子供達は処分されてもおかしくはない。

 さすがにそこまではされない、と思いたいが……


 命の価値が、かっるいからな、この時代。


「ところで先生、その手にしているおもちゃはどうするつもり?」

「ん、ああ、要るか?」

「ん~、さすがにそんなぶっといのは……ぎり、いけない事もないかもだけど」


 凄いなお前の後ろのアレ。


 幼女エルフのエムちゃんがそれを聞いてキラキラした瞳でオレの手に持っているブツを見つめている。

 いる?

 と聞くと、ベシッと分捕る様に持って行く。


 そしてそれを犬の様にスリフィの前に持って行って、


「スリフィ様、私にもこれで拡張をお願いします」


 などと言う。

 ドン引きだよエムちゃん。

 完全に性癖が歪んでいるなあ。


「え~……、エムちゃんにはまだ早いんじゃないかなあ」

「スリフィ様のためなら、どんな事でも耐えて見せます!」

「おまえ、ちゃんと責任とれよ?」


 セイちゃんのセリフじゃないが、こればっかりはスリフィが悪い。


 そんな事を言われても、ボクだって生き残るために必死だったんだよ、と言うスリフィ。

 嘘つけおまえ、嬉々としてサバトってただろう。

 翌日のすっきりした顔でカミングアウトしてたのは忘れてないぞ。


「そ、そんな事より先生も、なんでこんな危険なブツを持って帰って来たの~?」


 返品しようと思っても、あの集団に近寄りたくなかったからなあ。


 ファニス皇女は母親から過激な面を。

 フォンラン皇女は母親からナンパな面を。

 それぞれを受け継いでいるのかもしれない。


 まあ、どっちもエロ方面な部分はしっかりと受け継いでいるかな。


「女が性獣なのはしかたがないよ先生」

「おまえはちょっとは自粛しような」

「人生2週目ともなれば、性欲だって2倍になるさ」


 そうはならんやろ?


 まあ、前世は男を見るだけでも貴重な世界だったそうだし。

 自由に触れ合える時代にくれば、多少ははっちゃける気持ちも分からなくはない。

 問題は、こいつのはっちゃける方向性が少しだけおかしいという所か。


 しかして、結婚式当日、ウェディングドレスを身に纏うフォンラン皇女と、タキシードで身を飾るオレ。


 二人でゆっくりとバージンロードを歩き、牧師の前に立つ。

 この世界の結婚式は、前世の洋風と似たような感じの様だ。

 結局、逃げ出す算段も付けられずここまで来てしまった訳だが、このままだと、フォンラン皇女を皇帝に指名後、抹殺されかねない。


 ここまでなんとか生き残って来たのだが、さすがに年貢の納め時なのだろうか。

 そんな不安を抱えたオレを前に牧師が口を開く。


「シフのタキシード姿……やっぱり素敵ね――――――この時まで待って良かったわ」


 その牧師はそう言って、ニィと笑うのであった。

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