第53話

「うわっ、ここは天国か」


 館の中に入ったラクサスさんが、エルフの幼女が大量に働いているのを見てそうつぶやく。

 相手は帝都を襲った、同じエルフの種族なのだが、ラクサスさんは気にしていない模様。

 フォンさんはあまり良い顔をしていないがね。


「そうよここは天国なのよっ、あなたにも分かるぅ」

「分かりますよ、マダム!」


 がっしりと握手とするラクサスさんとマダム。

 あの二人は放っておこう。

 ただ、ラクサスさんはマダムもストライクゾーンのようだが、マダムは幼女しか愛せない。


 悲しいすれ違いである。


 そんなラクサスさんを尻目にフォンさんがオレの元へ近づいて来る。

 そしてオレの前で片膝をつくと頭を垂れる。

 いきなりどうしたのかなと思っていると、なにやら謝罪をされる。


「ファニス皇女の事、シフ様に全てお任せしてしまって申し訳ございません」


 そして、ヴィン王国まで無事、送り届けて頂けた様で誠にありがとうございます。と続ける。


「しかし、ヴィン王国がファニス皇女を利用するなんて思ってもみなかったわね」

「グランドム侯爵がヴィン王国に対し、かなり厳しい和平の案を出していた様だからね、使わざるを得なかったというところかしら」

「あのお体でも王印魔法ぐらいなら使えるでしょうしね」


 いや、ヴィン王国がファニスを利用しているんじゃなくて、ファニスがヴィン王国の尻に火をつけているんだが?


 そういや、お二人はファニスの体が回復した事を知らないか。

 ここで完全回復したファニスが、オレとエロい事をしたいがために新帝国を立ち上げた、と言って信じてもらえるだろうか?

 ………………どう考えても無理そう。


 まず、完全回復したって時点で信じてもらえないだろう。


 その上、ただのエロガキになりました。

 なんて言っても、あの暴君が、なんでそうなるの? という話だ。

 あとあれだ。


 皇女として正しく育てられたはずのファニスを、誰がエロガキにしたんだって責められても困る。


 うん、ここは黙っているのが吉と見た。

 見ざる聞かざる言わざるってやつですね。

 お二人が、今のファニス皇女を見たら、感謝どころか怒られそうだぜ。


「まあ、血筋はともかく、皇帝として相応しいかと言われたら微妙だもんねぇ~」

「主におまえのせいでな」

「え~、先生がエロすぎるのがいけないんだと思いま~す」


 よっ、魔性の男、とスリフィが言ってくるが、ファニスがああなったのは、絶対、スリフィの影響が大きいと思うんだよな。


 まあ、そのスリフィにファニスの事を頼んだのはオレなんだが。

 となると、やっぱオレが悪いのか。

 悪いんだろうなあ……


「コウセイ、何をしていますの? 早く荷物を運んでくれないかしら」

「はっ、ただいま」


 馬車、数台分はあろうかという荷物を館に運び込もうとされる。


「ちょっと、ちょっとぉ、何よコレ? 数日ここに居るだけよね」


 なんでこんな大量の荷物が必要なのか?

 と、聞いて見ると、なんと「この館は私が摂取いたしますわ、あなたたちはどっかそこらで野宿でもしていなさい」と言われる。

 マジかこのお嬢様。


 わがままにもほどがあるんじゃね?


「フォンラン様、それはさすがに……」

「あらなに、次期皇帝である、このワタクシに逆らおうと言うのかしら?」


 私の指先ひとつで、あなたたちの首が物理的に飛ぶのですわよ。とコウセイ君を脅している。


 う~ん、中身はかなり酷そうだな。

 アレが帝国の皇帝になるのか?

 大丈夫か帝国。


 以前のファニスもそうだが、オレが居なくても、そのうち滅んでいたのではないだろうか?


 とりあえず、オレとスリフィはコウとセイを頼って、彼女たちが泊まっていた宿屋に泊まらせてもらう事にした。

 マダムはエルフの幼女たちをフォンラン皇女から守るので、手いっぱいだ。

 ただ、その内のエルフの幼女が一人だけ付いて来た。


 その幼女はスリフィの足にしがみついて懇願する。


「スリフィ様、私を捨てないでください! なんだってします! 足だって舐めます、ペロペロ」

「うゎっ、汚いから止めてよ、もう~」

「なんなのソイツ」


 よく見ると、ここに連れらて来た馬車の中にいたエルフの一人じゃないか。

 あのアマゾネスのお姉さんから首輪で首を絞めながらも、蛮族めっ、と罵っていた子。


「はあっはあ、スリフィ~さま、お情けを、お情けを頂戴したいです」


 エルフって潜在的にマゾなのかなあ。

 禁欲生活が長すぎて、ちょっとした事で弾けちゃうんじゃなかろうか。


「分かった、分かったから離れてよ。ほんと、どうしてこうなった」

「まあ、概ねスリフィが悪い、きちんと面倒は見ろよ。え~と、確か名前は……」

「エムちゃんだよ、ほら、先生にも挨拶して」


 エルフの幼女、エムちゃんはオレの方を向く。

 ちょいちょいと、手でしゃがむようにいわれたので、目線を彼女に合わせるようにかがむ。


「ペッ」

「汚なっ!」


 なぜか唾を吐かれた。


「あんたなんか用じゃないのよっ、スリフィ様と私の間に入らないでっ。とっとと、どっか行きなさいよ」


 なるほど、これがエルフの本性か。

 そりゃ、人々から嫌われもするわ。

 この調子で、森から人を排斥していたのだろう。


「ちょっと、エムちゃん! 先生に酷い事を言ったらダメなんだからね」


 そう言われてぷくっと頬を膨らませる。

 オレはその膨らんだ頬をつつこうと手を伸ばす。

 すると、その手をパシッと払われた。


 ふむ……


 オレは逆の手をそっと伸ばす、またしても払われる。

 ならば、と次々と手を差し出しては払われを繰り返す。

 スリフィがそのオレ達の攻防を呆れた表情で見てくる。


「フンッ!」

「げぼあぁあ!?」


 魔法で壁まで吹き飛ばされるオレ。


「ちょっ、ちょっと! さすがに先生にケガさせたら、ファニスを止められないよ!!」

「すみません、ウザかったので、つい」


 つい、で、魔法を人に向けちゃいけません。

 まあ、いらぬちょっかいを掛けようとしたオレも悪いんだけどさ。

 しかしエルフって、見た目に反してほんとに凶暴なんだな。


 今なら、あのアマゾネスのお姉さんが言っていた事も分かる気がするぜ。

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