第52話
皇帝の後継者が長子であるという決まりはない。
今までは全て、現皇帝が直接、指名するという流れになっていたそうだ。
ならば、指名せずに現皇帝が居なくなった場合はどうするか?
その場合は、前皇帝が指名する。
その前皇帝も居ない場合は、皇配――――――皇帝の正夫、男女逆なら皇妃だな。
皇配も居ない場合は、実子のうち長子となる。
その長子すら居ないとどうなるか?
皇家の中で皇帝から一番、血が近い人物となる。
だが、皇帝陛下のご家族一家は、エルフの襲撃でファニスを残して全員が没している。
誰も国を残して帝都だけが壊滅するだなどとは思っていなかった。
だからこそ、皇帝陛下に一番に血が近い人物をと、グランドム侯爵はフォンランを担ぎ上げた訳だ。
が、書類上、彼女は実子として認められていない。
なので正確には皇女ですらない。
当然、本来なら皇帝陛下の長子として皇帝位を継げる身分ではない。
ファニスがいなければ、それもしかたがない、となったのだろうが、ここに来て本物の長子であるファニスの生存が公表された。
まあそれでも、今まで何してたんだこの皇女。って話で相手にされない可能性があったのだが、どうやら、反グランドム侯爵、ようは政争に敗れた貴族連中がファニスに付いたという話。
あれかなあ、この侯爵様も、自分に味方しなかった奴、反抗勢力となった奴、などを徹底的に潰しにかかっていたのかもしれない。
ここの領主のマダムもそれを恐れてオレを攫って来た訳だ。
そこへファニスが現れたもんで、グランドム侯爵に潰されるよりはマシだと思ったのだろう。
さて、そうなると困るのがグランドム侯爵。
すぐ目の前に皇帝の椅子があったのが一気に遠ざかった。
どうあがいても、フォンランでは正統性に欠ける。
そこでオレの登場という訳だ。
皇配が亡くなった事により、本来なら後宮のいずれかの側夫が次の皇配になるはずであった。
皇配が居るのならば、皇配自身は皇帝になれずとも、皇帝への指名権がある。
それは長子であるファニスより優先される。
ただ、指名する人物は皇族でなければならない。
最近、真実は側夫候補なのだが、事実は候補が取れて側夫になってきているオレ。
皇配の妻ともなれば皇族入りと言っても良い。
皇帝の血を引いているのは事実である訳だし。
まとめると、グランドム侯爵が描いている図はこうだ。
まずは、後宮の生き残りの側夫であるオレが正式な皇配であると言い張る。
その次にフォンランをオレと婚姻を結ばせ、皇族の仲間入りをはたす。
その後、オレが正式にフォンランを皇帝へ指名する。
という流れなのだろう。
その場合、オレが拒否してファニスを指名したらどうなるのだろうな?
えっ、その時は首が絞まるから大丈夫だって?
全然、大丈夫じゃないじゃん!!
あと、その後、用済みになったから暗殺されるとかもないよね?
なんで、目を逸らすの?
まあ、そうしたら自分の息子をフォンランの正夫にして元鞘にできるのだろうけど。
はあ……結局、こうなるんですね。
ええ、分かっていましたよ?
「あああ~~……、どうしましょう!? なんでファニス皇女が激オコなおぉぉおお!!」
こっちのマダムも大変そうだなあ。
その後、オレを手放したくないマダムと、早急にフォンランとの婚姻を望むグランドム侯爵との間で妥協点をさぐられた。
その結果、この街で結婚式を挙げる事に決まった。
連れて来た騎士団はそのままにして、新たに領地からフォンランと軍隊を移動させると言ってグランドム侯爵は出て行った。
「大丈夫だよマダム、ボクとファニスはマブだからね。ほらこの手紙を出せば許してくれるって」
「本当に、スリフィ?」
「ダメ元で良いから出してみなって」
「スリフィ……! あなたは最高よ!!」
そう言ってスリフィに頬ずりするマダム。
それを嫌そうな顔で必死に押しのけようとしているが力では敵わない模様。
まあ、自業自得だわな。
それからしばらくして、この街にフォンラン皇女がやって来た。
そして彼女が、オレを見て一言。
「ナニコレ、どこが絶世の美男なのですか? 騙されましたわ」
と、組んだ腕で豊満な胸を押し上げて、そう仰る。
長女だけあって、体つきは非常によろしい。
皇帝陛下も随分とグラマラスだったし、ファニスも成長したらこうなるのだろうか?
これは将来が期待できるな。
左目は眼帯で隠しているが右目はファニスと同じ綺麗な赤色をしている。
ただ、髪の色は赤みがかかった金色だ。
顔付きもあまり陛下に似ていない。
ファニスや陛下はもっとキレがあるというか、なんというか……ええ、決して悪人面だなどとは言いませんよ?
しかし、どこの誰に美男と吹き込まれたのかは知らないが、初対面の相手にその言い方はないんじゃね?
拗ねちゃうぞ。
まあ、良いけどさ。
どうせ美男とは遠い存在ですよ。
「これならグランドム侯爵の息子の様がはるかにマシでしたわ」
はるかにマシって……相思相愛だったんじゃないの?
隣からこっそりと「あの女、良い男と見ると誰彼構わず口説きまる、最低女郎でしたよ」と囁かれる。
「コウセイ君じゃないか! 無事だったんだね!!」
「はい、おかげさまで。今はフォンラン皇女の付き人をさせていただいています」
こっそりと囁いてくれたのは、グランドム侯爵の領地で離ればなれになっていた、帝都後宮の小間使いであったコウセイ君だった。
コウセイ君の話では、フォンラン皇女はとてもナンパ女郎で、そこら中の男性に手を出して、グランドム侯爵の息子を毎日、泣かせていたそうだ。
なんと、コウセイ君にまでコネをかけてきたそうだし。
まあ、後宮に呼ばれるだけあって、コウセイ君も整った顔立ちをしているからな。
「それにしても、あれだけの爆発の中、シフ様もスリフィも良くご無事で」
「ああ、あれなあ……」
実際は逃げ去った後に、フォンさんかラクサスさんのどちらかが、目くらましにおこしたのだろうし。
「ただ、ファニス皇女も無事だったのは……あれから大変でしたでしょうに」
確かに大変だったよ。
まあ、コウセイ君が思っている大変とは、だいぶ意味が違うかもしれないが。
今のファニスを見たらどう思うだろうか?
毎日のように、覗きやセクハラするファニスを。
角が取れたなあ、と思ってくれれば良いのだが。
たぶん引かれそうな気がする
「そういえばリューリンも村で元気にしているぞ」
「えっ、本当ですが!? リューリン様の名前は全く出てこないので、てっきり……」
そう思って涙を流すコウセイ君。
短い間だったけれど、二人とも仲良くしてたからな。
もっと早くに伝えてあげられれば良かったのだけど。
しかし、今のリューリンちゃんを見たらどう思うだろうか?
毎日のように、ファニスに雷を落としているリューリンちゃんを。
強くなったなあ、と思ってくれれば良いのだが。
たぶん引かれそうな気がする。
「フォンさんとラクサスさんは元気なのかな」
オレがそう聞くと、コウセイ君がオレの後ろを指差す。
そこには、スリフィに頬ずりしているラクサスさんと、それを呆れた瞳で見ているフォンさんが居た。
よくよく女性にはモテるなスリフィ。
やはり嫌そうに押しのけようとしているが、ビクともしていない。
そう言えばラクサスさんも、同性愛者で幼女趣味なんだったか。
ここのマダムと気があいそうだなあ。
まあラクサスさんは、同性なら上から下まで幅広くイけるそうだけど。
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