第49話

「ようこそ、ボードペ・ブフスの館へ。オホホホ……」


 スリフィのパンツと同じ素材の首輪を付けられて向かった先。

 そこに居たのはブフスの街を治める女領主。

 スケスケの露出の高い衣装を着た、なかなかにグラマラスなマダムでございました。


「先生を攫ってどうしようってのさ、ファニスの逆鱗に触れないうちにさっさと返した方が良いと思うけどね」

「あらやだ、口の利き方を知らないガキね。フッフッフ……調教のし甲斐がありそうだわぁ」


 そう言って舌なめずりをしながらスリフィを見やるそのマダム。


「安心して良いわぁ、シフ・ソウラン。私は男には興味がないのよぉ、だから丁重に扱わせてもらうわぁ」


 男に興味がない女性……それは、もしかして…………


「むしろ、私はそっちの子の方に興味があるのよぉ、たっぷりと、可愛がって、あ・げ・る……♪」

「ヒィッ……!?」


 マダムの流し目を受けたスリフィが、サブいぼでもできたのか両腕をかき抱く様にスリスリと撫でる。


 ふむ、どうやらこのお方、少女趣味なご様子。

 前世で言えば、幼い男の子を集めて慈しむ男爵みたいな立ち位置か?

 同性愛で幼女趣味とか、随分と良い趣味をしていらっしゃる。


 それでエルフの幼女を買い漁っていた訳か。


「せ、せんせ~、ボクは身の危険を感じるよ~」


 と言って抱き着いて来るスリフィ。


「大丈夫じゃね、だってお前、貞操帯がついているだろ。良かったな、ソレあって」

「ぜんぜん、良くないよぉ~……」


 と言いながら、さりげく尻を撫でるのは止めろ。

 ほんと、こんな時でもブレない奴だ。

 そのマダム、ボードペ・ブフスがオレを攫った理由を語る。


 なんでも、保険がほしかったそうだ。


 荒れに荒れていた帝国内部がようやくまとまって来ている。

 それに比例して、争いから遠ざかり日和見をしていた貴族に対するバッシングが強まっている。

 今現在、中立を保っている貴族と言うのは、どっちにも付かず良いとこどりをしようとしていた奴らだ。


 そりゃ誰からも信用はされまい。


 このまま帝国内部がまとまったら、真っ先に粛清対象になること必須。

 そうならないために、手元に保険を置いておきかったそうだ。

 シフ・ソウランという、前皇帝の側夫、切り札としてこれ以上ない存在だと。


「エルフからその存在を聞いて、コレだわ! って思いついたのよぉ」

「さすがファニスが無能だと言うだけあるね……今、先生を手にしたら、とんでもない目に合うと思うんだけど」

「保険どころか、火薬だわな」


 しかし、一緒に連れられてきたエルフの幼女たちはいったい何に使われるのだ?


「あの子たちは我が家のメイドになってもらうのよぉ。見た目の良く、長く楽しめるエルフがこんなにやっすく買える様になるなんて、良い世の中になったわよねぇ」


 なるほど、幼女趣味のお方には最高の環境でございますね。

 オレもエルフのお姉さんを買ってハーレムでも作ろうか。

 そんな事をしたらファニスに首を刎ねられそうだけど。


「まっ、とはいえ、あなたもタダで置いとく訳にいかないわあ、なのでコレを着て買い物にでも行ってもらおうかしらあ」


 そう言って、それこそヴィジュアル系の露出の高い男性用衣装を取り出してくる。

 まあ良いけどさ別に。

 ハアハア言ってオレに注目するエルフの幼女たちの前で生着替えをさせられる。


「あなた達、私に仕えるなら、いつでもこんな見学ができるわよぉ」

「最高ですマダム! 一生ついていきます!!」


 おいスリフィ、手のひら返しが早すぎないか?


 このマダム、どうやらオレを上手く使って、幼女たちの気を惹こうとしているご様子。

 そりゃそうだ、せっかく幼女天国を作っても、その幼女たちから嫌われていたら意味がない。

 福利厚生は大事ですよね。


 そうして地図を頼りにお買い物へ出発する。


「シフ様、ご無事でなによりです」

「………………」


 と、そこへ、エルフの少女、村でオレの護衛をしてくれていたコウとセイが姿を現す。


「コウとセイがここに居るって事は、このことはファニス達には知れているのか」

「いいえ、私たちはファニス様の命令でここの街に潜伏していたのです」

「そしたら、あなたがやって来た」


 どうやらここでボードペ・ブフスの近辺を偵察していたようだ。

 そこへ、首輪をしたオレ達が登場したので慌てて接触してきたようだ。

 しかし、エルフが堂々と街にいたら不味いのでは?


 と聞くと、首を指差すセイちゃん。


 ふむ、それはオレとスリフィもつけられている逃亡防止用の首輪だよな?

 どうして二人が付けているんだ?

 と聞くと、コウちゃんが説明してくれる。


「この街ではこの首輪をつけたエルフがそこそこいますからね。それにコレを付けているだけで自衛にもなります」


 この首輪は主人が奴隷を逃げないようにするという意味とは別に、奴隷を守る事にもつながっているそうだ。


 まず、首輪をつけたまま、主人から遠く離す事ができない。

 逃走防止用に一定距離を離れると自動で閉まる様に設定がされているそうだ。

 さらに、主人にはこの首輪がある位置を検索する事が可能だと。


 なので、首輪をつけた奴隷を攫うという事は、盗人である自分の居場所を知らすのと同じ事。


 首輪をつけている限り、攫われる心配はない。

 暴力を振るわれる恐れはあるが、なぜかこの街では幼女に暴力を振るった奴は極刑にされるという。

 それは当然、奴隷であってもだ。


 さすがマダム、自分の趣味に忠実ですね。


「ま、偽物か本物か、の判断はつきませんし、こうやって巻いておくだけでも効果があります」

「なるほどなあ」

「なお、母は志願して本物を皇女につけてもらっています」


「責任とって」


 ああ、あのお母様はもうダメだね。

 責任と言われてもなあ……人の趣味に口をだすのもどうかと思うんですが。

 ちなみに、そのお母様もどこかに居るのかな?


「母は、ココにシフ様がいらっしゃる事を知らせにファニス皇女の元へ――――――恍惚とした表情で向かいました」


 ああ、きっとファニスを逆上させるように伝えて折檻してもらうつもりだなあ。


「ほんと、責任とって」

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