第48話
馬車の中には複数の木の檻が所狭しと並べられている。
オレとスリフィは一つの木の檻に入れられているが、その他は一人ずつ詰められている。
そして中に入っているのはエルフの幼女ばかり。
なんなのこの集まり?
「エルフの子供はやっすいからねえ、今が買い時らしいわよ」
唯一人、檻の中に入っていない、アマゾネス風の女性がそう言う。
この世界の女性にしては珍しく筋肉質な体をしている。
服装も露出の高い、胸を申し訳程度に隠した布と、ホットパンツのようなもの。
スリフィが「偶にいるんだよね、ああいうヴィジュアル系の女性」とかつぶやいている。
この世界、基本的に薄着の女性は多いが、ここまで露出しているのは珍しい。
ええ、目の保養でございます。
スリフィが隣で、ボクだって脱いだら凄いんだよ、などと言っているが、お前は脱いでもツルペタだろ。
うわっ、おい止めろ、真実を言われたぐらいで怒るなよ、というか変な所を撫でるな。
「おっ、やっとその気になったか? わざわざ一緒の檻に入れてやったのに、動きがないからほんとに穴が付いてんのか心配になっていたところだぜ」
どうやらこの女性、オレが襲われるところを見たくて、スリフィと同じ檻に入れていたらしい。
「そりゃ、ヤりたいのはやまやまなんだけどさ、絶対に脱げない呪いのパンツを履かされてるんだよね」
そう言ってスリフィはスカートをめくってパンツを見せる。
「なんだいそりゃ……アッハッハッハ、まさか、そんな場所に付けるなんてね、イカレた考えをしてる奴も居るもんだ」
「これが何か知っているの?」
「知っているも何も、ほら、お前らの首にもついているだろ」
「えっ……?」
首のあたりに触れてみる。
確かに何かが巻かれている。
感触はほとんどしなかったんだが。
「こいつはね、ほら、そこらに居る危険動物が悪さをしないようにする道具やね」
そう言うと女性は何かをつぶやく。
するとだ、エルフの少女が一人、首を抑えて暴れ出す。
どうやら魔法の首輪の様で、呪文によって伸び縮みさせられるようだ。
「奴隷用の拘束具?」
「みたいなもんやね」
「えっ、これそれなら、ボクのパンツも呪文を唱えれば伸びて脱げたりするの!?」
「呪文が分かればねえ」
がっくりと落ち込むスリフィ。
呪文を知っている人は、あの災害でみんな居なくなっただろうしな。
と、言う事は、もう一生、それ脱げないんじゃね?
「そんなあ……」
それにしても、ここに居るエルフの幼女たちはいいとばっちりだな。
同じエルフがやった事とはいえ、彼女たちにはなにも関係がない。
しかもやったエルフは今やうちの仲間である。
「ああ、このエルフどもを憐れんでんのか? まあ、エルフの本性を知らねえ奴はそうかもしれんなあ」
こんな奴ら、憐れむ価値もねえってのによ、と言いながらエルフが入っている檻を蹴り飛ばす。
見た目が良いから、近くに居ない奴はみんな騙されるが、エルフという存在は害獣でしかないと言う。
資源が豊かな森を占拠して、無断で侵入したという理由でどれだけの人が殺されたか。
しかも奴らは、男、子供であろうとも容赦しない。
掟かなんだか知らないが、勝手に森の中に線を引いて、少しでも足を踏み入れれば矢が飛んでくる。
しかも、その線は人間には分からない。
どこからがエルフの領域か判断できないうえに、知らなかったじゃ済まさない。
そうなるともう、エルフが住む森には入らないという手段しか持ちえない。
「先に警告はしているわ」
「な~にが、警告だ。警告ってえのは同じ人間にしなきゃ意味がねえんだよ」
たとえば村民Aさんが警告を受ける。
その次に村民Bさんが森に入る。
するとエルフは警告したのに入ってきやがってと、村民Bさんを殺害する。
当然、村民Bさんはどこからがエルフの領域なのかさっぱり分かっていない。
しかも、この村民Aが旅人などにも変わる。
そうなると、村の人たちはなにも知らずにエルフに殺されていくわけだ。
また、エルフが森の恵みを独占し、どんなに飢えても村人はそれに手を出せない。
それなのに、仲良く暮らせる訳がない。
「うちの弟はなあ、こいつらエルフが森を占拠したせいで、薬草が採取できず、病気で死んじまった」
さらに、薬草を採りに向かった母親も、無断で森に入ったと言ってエルフに殺害されたそうだ。
「な~にが、森の守り神だ、自分たちは森の恵みを独占して置いて、その上、人間たちにはたかろうとする」
エルフはアレを出せ、コレを出せと、森の恵みを盾にいろいろ要求してくる。
はっきりいって、エルフを快く思っていた奴など存在しない。
特に、すぐそばに住んでいる住人たちは。
「そこは、もともとエルフも住んでいない、ただの森だったんだ」
それが突然エルフがやって来たかと思うと、豊かな森を占拠して、今日からここへ入って来た者は殺すと通達される。
野蛮な人間から森の資源を守るためだ、などと言ってとり合おうとしない。
森でしか収穫できない貴重な薬草だってある。
それが、自分たちが今日から管理するから、必要なら対価を出せと言ってくる。
「その結果が今のエルフ狩りな訳だ、帝都崩壊はだたのきっかけにしかすぎないわな」
そもそもが、ここまで人間に近しい見た目であると言うのに、こんなに迫害されるような事はまずありえない。
普通の隣人として付き合っていたなら、庇う奴だって出てくるだろう。
なぜ、そんな人が出てこないか。
そりゃ当然、エルフが人から嫌われていたからだ。
エルフはもともと、高慢な種族である。
人など野蛮人だと言って憚らない。
「そうだろおめえさん、ほら、言ってみろよ、いつものようにさ」
「がっ、ゲホッ……くっ、野蛮人がぁっ、ああ……ググググ……」
憎々し気に睨むエルフの少女がそう言ったとたん、またしても呪文を唱えて首を絞めるアマゾネス。
「ハハッ、学習をしないやつだねえ、どっちが野蛮人なんだが」
しかし、エルフの大人ならいざ知らず、子供たちはあまり役に立たない。
成長も遅く、育てて使う、などと言う事も無理。
なので二束三文で安く売られ続ける。
「あたしゃ、自業自得だとおもうわな」
普段からもっと人と仲良くしていれば、ここまで迫害されることもなかっただろう。
その証拠に、比較的、人と仲良く暮らしていた国のエルフは迫害の対象になっていない。
もちろん欲にくらんだ人間もいただろうが、ここまで酷い事にはならない。
「迫害の歴史を持つのはエルフだけではない、なのにエルフだけがこの惨状だよ」
中々、根の深い問題の様だ。
エルフの言い分もまあ、分からない事もない。
人間たちの好きにさせていれば、森が荒れ、災害が増えるだろう。
エルフはエルフなりの見極めを持って介入しているのかもしれない。
だけど、それが正しいからといってパワハラはいけない。
力ずくで押さえつけてしまうと、その力がなくなった時に、一気に反発が発生する。
苦しい時に助けてくれるのは、結局のところ、親しい友人でしかない。
その友人を作る努力を怠り、力で押さえつけすぎた結果が、今のエルフ狩りに繋がっている。
「エルフはねえ……選民思想というかなんというか、千年後の世界でも原始的な暮らしをしておいて、人間たちを見下してたぐらいだからね~」
「そいつぁ筋金入りだなぁ。まあ、うまく付き合っていくしかないと思うけどな」
「それが出来てたら苦労はしないんだけどね~。千年経っても仲良くはまあ……住み分けするのが精いっぱい?」
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