第47話

 しかし、第一から第三までの王女が斬首。

 繰り上げでアール様が王位継承権一位。

 そこはかとなく、某、村人たちの暗躍がチラつくのは気のせいだろうか?


 オレとスリフィは、イニス王女がお尻を抑えているうちにと、部屋を抜け出す。


 どうやら単独犯だったようで、外には見張りも居なかった。

 そのまま、スリフィの例の高性能な姿隠しの魔法で王城を探索する事にする。

 しかしこの魔法、ホントに性能が高いな。


 仮にも王城、それなりのセキュリティはあるはずだが、まったく引っかからない。


「スパイがこの魔法を覚えたらとんでもない事になるな」

「この魔法は、今はボクとファニスしか使えないよ、なんせ、かなり高度な魔法だからね」

「そうなんか?」


 気配遮断、認証阻害はもちろんの事、光を屈折させたり、空間の振動を止めるような、何重もの魔法の集合体が今使っている姿隠しの魔法だという。


「千年後の技術か?」

「そうだよ」

「コンピューターがないと無理だとか言ってなかったか?」


「だからこの魔法の開発はものすご~く、苦労したんだよ~。たぶん、ファニスが居なかったら完成しなかったね」


 ファニスも英才教育を受けているからな。

 それとスリフィの知識を合わせた合作か。

 そこまで苦労して、使う用途が覗きとはなあ……


「逆だよ先生、エロい事に使えるからこそ苦労して開発するんだよ。人類の発展は常にエロが原動力となっている、エロこそが人を進化させるアダムのリンゴなんだよ」


 まあ、その理屈は分からない事はない。


 オレの前世でも、ビデオやパソコンなどの普及はエロが原動力だった、と言われている。

 エロビデオを見たいおっさんたちが、高額のビデオデッキを買い漁った結果、一気にビデオテープが普及した。

 パソコンやインターネットをエロが目的で始めた人も少なくはないだろう。


 インターネットをやっている男性諸君で、エロサイトを見た事がないという人は、まずいないだろう。


 さらに言えば、高額なパソコンを買っておいて、エロサイトぐらいしか見ないと言う人もそこそこいたのではないだろうか。

 インターネットの立ち上げの時代なんか、ろくなサイトがあった訳でもないしね。

 そのおかげでパソコンが普及し価格が下がる。


 パソコンが普及したからこそ、一気に時代が発展した。


 戦争だってエロは切っても切り離せられない。

 女性を戦利品として扱っていた国も少なくはない。

 ひどい場合には、それが目的で襲撃を掛ける場合だってあった。


 そして貞操観念が逆転しているこの世界。


 戦利品として扱われるのは男性だ。

 ヴィン王国が帝国に敗れた場合、オレが戦利品として扱われる可能性だってある。

 是非ともアール様には頑張ってもらわねば。


「ところでまさか、ファニスまで来ていたりしないだろうな?」

「さすがにこんな場所に帝国皇女が居るのは不味いんじゃない」

「それにしては、向こうからファニスの声が聞こえるのだけど」


 とある部屋の前に差し掛かった所、部屋の中からファニス皇女の声が聞こえる。


「私は別にこの国を乗っ取ろうだなどと考えてはいないわよ」

「いや、しかし……」

「私の名を使いなさいと言っているの、そうすれば、誰も死ななくて済むわ」


 部屋の中には案の定、ファニスとアール様、そして壮年の女性が話し合っていた。


「そんな事よりも、本当に……本物のファニス……皇女様……?」

「ヴァルキシア帝国の王印魔法なら使えるわよ、中央は認めないかもしれないけどね」

「それだと、意味がないのでは……?」


「帝国に揺さぶりは掛けられるわ。このポンコツが王になればどのみちこの国は滅ぶわよ。だったら、起死回生の一手を打ってからでも遅くないんじゃな~い?」


 第一王女を連れて来なさい、アレなら良い使い方も考え付くわ。

 母上もアイツだけは要注意と言っていたしね。

 とファニスは言うが、今その第一王女はお尻を抑えて悶えています。


 たぶん、それどこでないかと思われますよ?


「アール……帝国への内通どころか、皇女まで匿っていたとは、何がしたいのおまえ」


 壮年の女性――――――たぶんヴィン王国の国王様が呆れた表情でアールエル王女を見やる。


「内通の件はともかく、匿っていたと言うのは語弊があります。こいつは、ただ単に村にやって来て勝手に住んでいただけです」

「いやだからそれをなんで報告しないの? そういうのを匿っていると言うのよ? どうして分からないの? ほんとポンコツ」


 そう言って嘆いている。


 皇女の言う通り、このポンコツが王になったらこの国は終わる。

 だったら、一か八かファニス皇女にかける方がまだマシかも、とつぶやかれている。

 そう、ファニスの提案とは、帝国皇女の名を使い、分捕った帝国の土地を合わせて新帝国を作る事。


 ファニスが居るのであれば、帝国から奪った土地も返還せずに済むし、帝国と和睦を結ぶ必要もない。

 血筋を重視する帝国貴族はこの国に手を出せなくなるうえに、利用して反抗勢力を叩く一因にもできる。

 本物の帝国皇女が打ち立てる国だ、元の帝国だとて無視できまい。


 ファニスの提案、そう、それは、この国を新たな帝国として新生させる事だ。


 その国の名も新生ヴィン・ヴァルキシア帝国。

 ファニスの名前でどれだけの帝国貴族が従うかは分からないが、決してゼロではあるまい。

 問題は、本物の皇女だと証明する手立てだが、それはファニスに秘策があるという。


「というかさあ、なんであんた、こんな場所に出てくるのよ」

「お、おい、相手は帝国皇女よ、もう少し、言い方をだね……」

「こんな奴に敬語なんて要らないわ、人の事をさんざんポンコツ呼ばわりして。あんただってエロダメ皇女じゃない」


「ちょっ、ちょっとアール、そんな事を言って怒らせたら……」


 帝国皇女であるファニスに、メンチをきっている娘に慌てる王様らしき女性。

 まあ、帝国皇女は残虐非道で怒らしたら手に負えない、という批評だったそうだし。

 実際、テンスール村に来るまではその通りでもあった訳だが。


 というより、今だって敵対する奴には容赦がないがな。


 それでも、一旦、懐に入れた人たちについては暴力は振るわなくなった。

 リューリンちゃんにいくら雷を落とされても反撃はしないし、スリフィから何を言われようとも怒る事はない。

 当然、アール様とも口喧嘩はするものの、手を出したことは一度もない。


「そもそもあなた、私が王になりそうだから、慌てて出て来たでしょ」

「ギクッ」

「王になった私がシフを夫にしたら、あなたは手が出せなくなるものね」


「ギク、ギクッ」


 ええ、そうよ! どうこう言っても身分が違えばどうしようもなくなる。と開き直ったファニスは言う。


 ただの村の警備隊長ならともなく、王様ともなれば、さすがに平民の身では勝ち目がない。

 そして自分が貴族になるには、この身を明かすしかない。

 帝国皇帝なら身分で負ける事はないから、どんな相手であろうとシフを奪われることはない。


 などと仰る。


「だから元々があなたのものじゃないでしょ!」

「何を言っているの、今、シフの一番身近にいるのはこの私よ!」

「だからと言ってあなたのものじゃないわ。むしろ心なら一番近いのは私よ」


「戯言をっ、心でも一番近いのは私だっ!」


 唯一人、状況についていけてない壮年の女性。

 帝国皇女と真っ向から言い合っている我が子を唖然とした表情で見ている。

 こんな子じゃなかったのに、とつぶやいているのは聞かなかった事にしよう。


(どうするアレ?)

(ほっといたら良いんじゃね? いつもの事じゃな~い)


 その、いつもの事を王城でしているのが問題だと思うのだが。


「しかし、アールと帝国皇女がとりあうほどの男性とはどれほどの美男だというのかしらね」


 全然、美男じゃありませんよ。

 勘違いは良くありませんからね。

 変な噂が流れたら困る。


 とは言っても、姿を現して訂正する訳にもいかない。


(なんか話が長くなりそうだから、城門の外に出て待っている?)

(そうだな、それが良いかもしれない)


 城門の外にアール様の部下の方が居たので、伝言だけ頼んで街を見学してみる事にした。


「姿隠しの魔法は掛けとかなくても良いか」

「そうだね、それだと買い物もできないし」


 だがそれが、今回で一番の判断ミスであった。

 オレはすっかり忘れてた、オレもまた、帝国貴族から狙われてる人物なんだと。

 ええ、その結果が今であります。


 街を歩いていたら、突然、意識がなくなって。


 目が覚めたら大きな馬車の中。

 隣にはスヤスヤと寝こけているスリフィ。

 さらには、そのスリフィと一緒に、木の檻の中に入れられていましたとさ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る