第46話
「えっ、シフが一緒に来てくれるの!? ど、どうしよう……まだ心の準備が……」
何の準備が必要なんですか?
「ほら、あれでしょ? 父様に紹介とか必要でしょ? ああ、そうだ結婚式の準備とか、そういう話がでたらどうしよう」
「なに言ってるのよ、このポンコツ王女。シフとあんたはそういう関係じゃないでしょうが!」
「ふっ、負け犬が何か吠えているわ」
「なぁんですってぇ~……!」
まあ、そんなに興奮するなよファニス。
付いて行くといってもそんなんじゃないから安心しろ。
ただのお世話係の様なものだ。
アール様は、ほっとくと何をしでかすか分からない。
せっかく部下が無能ムーブを広めているのに、目の前で特級の回復魔法を使いかねない。
やるならやるでも、こっそりとしなくちゃな。
その辺りの調整をオレに任された訳だ。
本人も自分の価値を、今一、理解していないように思える。
「フンッ、そういうのを無能だって言うんだけどね」
まあ、そう言ってやるな。
それが彼女の良いところでもある。
「先生! ボクもお世話係希望です!! お世話する方でも良いですよ、特にシモの方ならお任せください!」
「またスリフィはそんな事を言って!」
「ヒェッ」
スリフィの奴はリューリンちゃんのお説教部屋に連行だ。
「ファニス君」
「なによぉ」
「わが王城に後宮はないが、完全防音の部屋はいくつかある、この意味があなたに分かるかしら?」
「シフに手をだしたら殺すわ」
二人して睨みあっている。
「あ~ら、あなたはココから出られないのに、どうやって王城にいる私を殺せるのかしらね」
「だからあんたは無能だって言うのよ、直接、殴るだけが手段じゃないわ」
「あらそう、まあ、私は無能だから分からないけど、それって事がすんだ後よね?」
「ムギギギ……」
まあ、口ではそう言っているが、アール様がそのような事をするはずがないだろう。
アール様はな。
だが、彼女以外がそうしないとは限らなかった。
王城に着いた後、王女は謁見があるからと、オレだけ別の部屋に案内される。
なにやら頑丈そうな扉を開いて、部屋の中へ入るとそこには先客が居た。
ガチャンと音を立てて閉まる背後の扉。
慌てて扉を開こうとするもビクともしない。
そっと背後を伺って、そこに居た人を見やる。
「お久しぶりね、シフ・ソウラン。帝国への最初の進軍以来かしら」
そこに居た人は、スケスケのネグリジェを着た、この国の第一王女――――――イニス・ヴィンであった。
「えっと……アールエル王女のお姉さん?」
「そうよ、第一王女イニス、そうね……私の事をイニスと呼ぶのを許可するわ」
「それで、これは一体、どういう事なのでしょうか?」
「帝国はねえ、和睦の条件に…………第一から第三までの王女の首を要望してきたわ」
帝国との和睦の条件。
ヴィン王国が奪った、かつて帝国領だった所領、それら全ての返還。
まあ、ここは当然の話。
しかし、その上に賠償金をと、王国は提案したのだが、帝国はそれを拒否。
賠償金の代わりに、四人いる王女のうち、上三人の命を要求してきたそうだ。
「帝国はいずれこの国を取りこむつもりよ、なにせ残るのは、あの無能のアールだけ」
アールエル王女が王になったあとは、好きに料理ができると思っている。
言いなりの属国にしても良いし、逆上させて戦争を吹っ掛けさせても良い。
帝国がまとまるまでの時間稼ぎにちょうど良い塩梅なのだそうだ。
「別に国のために死ぬのなら、この命は惜しくはないわ」
まあ実際、帝国への進軍を率先したのは自分だし、敗戦の責任を負うのであれば仕方がない。
第二・第三王女も調子にのって、帝国内で随分と暴れた訳だし、連座として首を求められるのは分からない事もない。
むしろ、現王の首を要求しないだけマシまである。
「ただねえ……真っ先に帝国へ攻め込もうと言って来たのはあの子なのよねえ……」
アールエル王女が帝国の情報など持って来なければ攻め込もうなどとは思わなかっただろう。
もちろん、それが悪い事だなどと言うつもりはない。
実際、エルフの撤退さえなければ王国の領土はかなり広がっていただろう。
情報という武器を持って来て、それを使いこなせなかったのは自分の責任。
「とはいえ……完全に納得できるかというのは別の話な訳よ」
そんな時だ。
ふと窓から見ると、楽しそうに談笑しながらこちらへ向かってくるアールエル王女を見かける。
傍には彼女が命を懸けても良いとまでいった男性が居る。
自分には……自分の婚約者はこの決定を知って、とばっちりを恐れて逃げてしまったと言うのに。
ヨッシャ、寝とってやろう。
「そう思うのも普通の事じゃない?」
いや、それはどうでしょうか?
イニス様が腕を突き出して、ツイッと人差し指を自分の方へ折り曲げる。
すると、まるで吸い寄せられるように彼女の方へ体が動く。
そのままベッド上に押し倒される。
「という事で、付き合ってもらうわよ」
オレにのしかかる様にしてそう言ってくる。
いいのかなあ……いやまあ、オレとしても役得なんですが。
美人の王女様、しかも胸がでかい。
ええ、胸が大きいのですよ。
とはいえ、
「止めませんか? イニス様も決してアールエル王女を嫌いという訳ではないのでしょう?」
そう、彼女はアール様に邪魔だからさっさと帰れと言っていたが、それは決して憎いからそう言っていたのではないだろう。
その気になれば、強制的に治療を止めさせ、必要な時だけ使う、道具の様な扱いだってできたはずだ。
それをせず、好きに回復させ、その結果、進軍が遅れる。
逆に言えば、進軍が遅れようとも、アールエル王女のしたい様にさせていた訳だ。
アール様は戦争には向いていない。
それを誰より知っている。
だからこそ、少しでも戦場から遠ざけようとした。
帝国との密通だって、本来なら死罪レベルの問題だ。
それを、帝国への進軍理由へ変えたのは、この人だ。
この人が帝国への進軍を推し進めなければ、アール様は内通者として処刑されていた可能性すらある。
もしかしたら、アール様のためにエルフに話をつけ、他の国を煽って、帝国へと攻め込んだのでは?
「…………あの子はねえ、昔から甘っちょろくてねえ、ほんと世話が焼けるのよ」
嫌いな訳ないじゃない。
バカな子ほどかわいいとも言うし、あの子の気持ちも良く分かるのよ。
救えるなら救いたい、でも戦争は綺麗事じゃ収まらない。
普通はどこかで擦り切れていくのだけど、あの子はバカだから、いつまでも素直なまま。
「そんな子を嫌えないわよ」
「だったらなぜ、このような事を?」
「――――――っよ」
え……?
「処女のまま死ぬのはイヤなのよっ!」
えっと……アレかな、貞操逆転している世界だから、童貞のまま死にたくないっていう……
いや、お気持ちは良く分かります。
でも、イニス様ならお相手はいくらでもいらっしゃるのでは?
「居ないわよ! 婚約者にも逃げられたし、そこら辺の男を手籠めにするには問題がありすぎるのよ!」
王族である以上、簡単に下男に手を出す訳にはいかない。
特に王城に勤めている男性は貴族出身の者ばかりだ。
下手に手を出せば、強請りたかりが始まりかねない。
「ねっ、いいでしょ? アールの男なら、ほら、万が一があったとしても、同じ王族である訳だし」
いや、それのどこが良いのか分からないのですが。
しかしまあ、童貞のまま死にたくないと言う気持ちは良く分かる。
仕方ないなあ、最後のお願いだしなあ。
いやあ、ほんと不本意だけど、ここは一つ、肌を脱いでさしあげましょうか。
「大丈夫、痛いのは最初だけよ、優しく私がリードしてあげるわぁ」
そう言って、服を脱がしにかかってくる。
処女なのに本当に大丈夫。
痛いのもそっちだけだと思うんだけど。
「フヘヘヘ……良いからだしてるわねえ、つっって、いっっだぁあああ・・・・」
と、突然、悲鳴を上げてお尻を抑えるイニス様。
「フッ、ケツの穴の小さい女だぜ」
どこからともなくスリフィの声が聞こえる。
「ボクなんてもう拳が入っても平気なんだぜ」
いやそれは大丈夫なのか?
ホント誰か、早くスリフィの貞操帯をとってあげて!
魔法を解いたのか、オレの目の前に、両手を組んで人差し指を突き出したスリフィが現れるのであった。
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