第六章 ブフスの館
第45話
さて、亜竜の話が出たので、そっちの方はどうなったかと言うと……
いろんな場所で、突如、現れたかと思うと、さんざん暴れて消えて行くそうな。
どこの怪獣映画だよ、という感じ。
ウ〇トラマンでも出てきて退治してくれないかなあ。
「普段は人間の姿で出歩いているんだろうね」
「そこで肩がぶつかりでもして、激怒して変身すんのかね」
「そういう時は、魔法少年が飛んできて解決するのが定番なんだけど、この世界には居ないしね」
それは、どこの世界にもいないと思うぞ。
「千年後の未来では男でも魔法を使える奴が居るのか」
「やだなあ、妄想に決まっているじゃな~い」
そして現れた魔法少年は怪獣に捕まり、あんな事や、そんな事をされて、アヘェって感じになるんだよ、と仰る。
「薄い本やないけ」
「そうそう、ってなんで先生が知っているの?」
「ああいや、そんな気がしただけだ」
そんな事より、亜竜だよ。
本当に亜竜は手なずけられると思うか?
「冗談で言った事を本気にしないでよ~、亜竜なんて歩く火薬庫だよ。たとえ手なずけられたとしても、ほんのちょっとのすれ違いでドカン」
王国や帝国が滅ぶのはまあ、仕方ないとしても、人類の半分を消滅させる亜竜災害だけは起こしてはならない。
「特に先生はよく死にそうになるんだから、亜竜になど、近づかないのが一番だって」
「そりゃそうだな」
「一番やばいのは亜竜に懐かれた後に先生が死ぬ事だからね」
そうなるとオレを蘇らせようとして邪神と手を組む。
エルフが完全撤退した今、邪神パワーを得た亜竜を止める手段はないかもしれない。
スリフィが言う通り、オレは亜竜に近づかない様が良いだろう。
「ところでさあ、ボクたちってこれからどこに連れて行かれるんだろうね」
「ほんとにな」
ゴトゴトと揺れる馬車の中、そこに並べられた木製の牢屋の一つに入れられたオレとスリフィは、二人してため息を吐くのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
事の発端はヴィン王国の第四王女、アールエル・ヴィンが王都に招聘されるという話から始まった。
「アール様、今、ヴィン王国は非常にきな臭い状況になっています、この招聘は断るべきです」
アールエル王女の部下の一人がそう進言する。
「断るのは無理よ、王印付きよコレ。ブッチしたら反逆者とみなされるわよ、ただでさえ、帝国との内通で処分くらってるんだから」
「なら、影武者を立てましょう、ほらここに、アール様とそっくりな女性を連れて来て居ます」
「…………あんた達ねえ、慕ってくれるのは嬉しいわよ? でも人の道を踏み外すような事はしないでね」
「しかし、」
この話は終わり、私が王都に行きます。といって会話を打ち切って部屋を出て行くアールエル王女。
ヴィン王国は早くから帝国へ侵攻した分、結構な領地を帝国から奪っている。
まあその分、帝国から恨まれても居る訳だ。
あのまま多国籍軍が帝国討伐に成功していれば、一番の功労者になっていただろう。
だが、現在は帝国が勢力を盛り返して来ている。
何より痛いのが、エルフの戦力が撤退したことだ。
聖地への扉が封鎖された事に動揺したエルフたちは、人間たちとの接触を拒否し始めた。
このまま人間たちと一緒に暮らしていれば、永遠に聖地に戻れないと危機感を覚えた模様。
それは多国籍軍に味方していたエルフとて同様。
さてそうなると、困るのがエルフの戦力を当てにしていた多国籍軍。
大規模転移魔法によるメテオ攻撃が使えなくなる、どころか、帝国はその魔法を使えるレベルに発展している。
戦力が一気に逆転した訳だ。
まあ、人の魔力だけで同じ事をするのは、あまり現実的ではないのだが、それが、いざとなれば使えるというのは大きい。
前世の核戦力だって、使う使わないは別として、持っているだけで、持っていない国に対する脅しとしてはかなりの効力を発揮していた。
さて、そこで帝国から恨みを買っているヴィン王国。
今更、許して、と言って通用する訳がない。
「エルフの撤退さえなければ、もう少しマシな落としどころを探れたのだろうけど……運が悪かったわね」
「他人事みたいに言っているけど、ここが帝国の領土になればファニスはこの村に居られなくなるよ」
「むむ~……それは困るわね」
帝国による多国籍軍に対する調略も進んでいる。
すでに3割ほどの国は帝国へ寝返っている。
帝国内部がまとまれば、その勢いはもっと増してくる。
「ヴィン王国は帝国と和睦を結ぶ算段を付けています」
王都に潜入していたという、諜報員の女性がそう言ってくる。
多国籍軍の重要な位置を占めているヴィン王国。
そのヴィン王国が寝返るのであれば、多国籍軍に大きな打撃を与えられる。
今ならまだ和睦が可能ではないか。
というより、今を逃せば、確実に帝国は族滅を図って来る。
「随分と足元は見られるでしょうけど、帝国もさっさと停戦して国内を纏めたいでしょうからね」
このまま戦争を続けても多国籍軍に勝ち目は薄い。
少々、無理難題を言われても国として残れるのなら、受け入れる事もありうる。
問題はどんな無理難題を帝国が突き付けてくるか、だ。
「ここが王国が生き残るかどうかの分水嶺ではないかと」
「それと今回のアールエル王女の招聘がつながって来るのか?」
「帝国が聖女である第四王女を差し出せと言ってきているのかしらね」
「いえ、それはないでしょう」
なにせ、我らの諜報活動のおかげで、未だヴィン王国の第四王女は他国はおろか自国でさえも、無能の人と思われている。と仰る。
そっか~。
アール様が無能だと思われているのは君たちのせいだったのか~。
まあ、聖女だとバレて政治の道具にされるよりはマシなんだろうけど。
アール様も、まさか自分が無能だと思われてる原因が、部下のせいだとは思いもよるまい。
「そこでシフ様にご相談があります」
「なに?」
「アール様だけですと、とても不安ですので、シフ様も一緒に王都に向かってもらえませんでしょうか?」
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