第31話

「シフ!? 無事だったのね!」


 そう言って抱き着いて来るヴィン王国第四王女――――――アールエル・ヴィン。

 そう、オレ達はようやく帰って来る事ができたのだった。

 と、言いたいところなのだが……


 実はまだ、帝国の国内であったりする。


 スリフィのビーコン魔法を頼りに進んでいると、何やら遠くに旗をいっぱい立てている集団に出くわす。

 近寄ってみてみると、その旗印はなんと、ヴィン王国のものであった。

 どうやら帝国の混乱に乗じて攻め込んできた模様。


 大丈夫かヴィン王国?


 帝都が落ちたと言えども、帝国の軍事力は衰えてはいない。

 なにせ、帝都に居た軍隊など知れている。

 そのほとんどは国境に配置されているからだ。


 今は内ゲバで荒れていようが、外威があれば、まとまりもする。

 返す刀で王国が滅ぼされる可能性だってあろう。

 よくもまあ、進軍を許可したものだ。


「さすがは傾国、やっぱ歴史は変わらないんやね」


 などと、スリフィが言ってきたが、さすがに今回はオレのせいじゃないだろ?


 進軍の邪魔にならないよう、横に避けて通り過ぎるのを待っていた所、軍列から凄い勢いで駆け込んできた人たちが居た。

 えっ、もしかして討伐されるの?

 と、慌てて逃げようとしたところ、どうも見知った顔の様な気がする。


 あの、チンピラの様な騎士。


 一目見て騎士とは絶対に分からないような、盗賊の風情をした兵士。

 ああ、多分アレ、アールエル王女の親衛隊だわ。

 その人たちが近寄って来たと思ったら、サッとオレを担いて行こうとする。


 さすがの手際、人さらいのプロだと言われても納得してしまうぜ。


「ちょっ、ちょっとシフをどこへ連れて行こうとするのよ!」


 慌ててファニスがそう怒鳴る。


「ああ、大丈夫だよ、この人たちはヴィン王国の騎士なんだよ」

「はぁ……? どう見ても、騎士に見えないんだけど?」

「見えないけど、騎士団なんだよ、たぶん」


「ウス、私はヴィン王国の騎士っス。シフのアニキ、アール様がすっげ~心配してたっすよ」


 そりゃそうだろうなあ。


「とにかくアニキ! 今、そこにアール様も来ています、是非、会ってやってくだせえ!」

「という事で、ちょっと行ってくるわ」

「あっ……その……」


 ファニスが、俺から離れた手を見て名残惜しそうな顔をする。


「どうやら、ボーナスタイムも終了のようだねファニスく~ん」

「なによぉ、私にそんな口をきいて良いとでも思っているの?」

「なんでさ? ここに居るのは貴族でも皇女でもない、ただのファニスくんだよねぇ~」


 クッ、むぎぎぎ、と歯ぎしりをしてスリフィを睨むファニス。


「ファニスばっかりくっついてずるいよ、ボクだって先生の腕に抱かれたいし、胸に頬ずりだってしたい!」

「なっ、なにを言っているのよ、そそそ、そんな事たぁ、してないからっ!」

「姉様はシフ様が寝静まった後に……」


「ちょっ、ちょっとリューリン! 見てたの……!?」


 寝静まった後に、何をされていたのでしょうか?


「ほ、ほら、呼んでるんだったら、早く行きなさいよ! でもすぐに帰って来てよ」


 ツンデレかな?

 とりあえず、アールエル王女の騎士たちに抱えられて、豪華な馬車に放り込まれる。

 君たち、もうちょっとさあ、丁寧に扱ってもらえないものか。


 オレは物じゃないんだからさ。


「えっ、何? なんで人を放り込んでくるの……? って、シフ……!?」


 そして、冒頭に戻るという訳だ。


「いい加減、ちゃんと躾ができんのか、お前の騎士たちには」


 さらにそこには、アールエル王女ともう一人、すごい美人さんが寛いでいた。


 なんて言うか、すごく、大きいです、はい。

 スタイルも良く、背も高い、そして、どことなくアールエル王女に似ている。

 もしかして……


「ああ、彼女は私の姉の第一王女――――――イニス・ヴィンよ」

「私にもあんたの抱いているソレを紹介してもらえないかしら?」

「はい。彼こそが、私が探し求めていた、シフ・ソウランと言う少年です」


「ふ~ん……」


 イニス様はオレの事を上から下までジロジロと見つめる。


「あんたが帝国皇帝と取り合っていると聞いたから期待していたけど…………たいした事ないじゃない」


 どんな美男子かと思って期待して損したわ、と、のたまわれる。

 ええ、どうせ、美男子じゃありませんよ。

 と言うか、アールエル王女と帝国皇帝がオレを取り合っている?


 まさかな……


「進軍に賛成して損したわね」


 えっ、もしかして、この進軍はオレのせい……?

 そんな、まさかまだ、歴史は変わっていないのか?

 歴史の修正力さん、強すぎだろ。


「まあ、良かったな。これでお前の用事も済んだんだろ、さっさと帰れ」

「それでは、そうさせて頂きます」

「お前は癒す必要のないやつまで癒そうとする、そのせいで進軍が大幅に遅れる」


 どうやら、アールエル王女は無理を言って遠征に付いて来ていたようだ。

 だから、第一王女イニスからは良く思われていなかったご様子。

 目的が済んだのならすぐにでも帰れと言われる。


 アールエル王女はそれに反論一つせず、オレと共にその豪華な馬車から立ち去る。


「ご姉妹には、回復魔法の事は伝えていないのですか?」

「伝えてはいるわ、でも、本気にしていないうえに、一人ずつそこまで面倒をみていたら、戦争なぞ出来んぞと言われたわ」

「目の前で実演してやれば良いのに……」


「良いのよ。私が癒したいのは王侯貴族じゃないのだから、誤解させておいた方がマシなぐらいよ」


 さすが男前、いやこの世界じゃ女前ですな。


「ところで……早速なんですか、アールエル様に癒していただきたい方がいるのですが」

「いいわよ、誰?」

「帝国の皇帝陛下のご息女なのですが……」


「えっ、なんて?」


 鳩が豆鉄砲を食ったような顔をするアールエル様。

 オレはもう一度、ゆっくりと、帝国皇帝の忘れ形見ですと伝える。

 いやいや嘘よね、と聞いてくるが、いいえ本当の事です、としか答えようがない。


「と、とにかく、会ってみるわ」


 そんな奴、回復しねえ、と言わないのがアールエル王女の良い所ですよね。


「えっ、そ、そう、エヘヘ……」


 チョロイわこの王女様。

 ちょっと褒めておけば敵国の兵士だろうがホイホイ回復しそう。

 それが良いか悪いかは別として。

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