第27話

 フォンさんはファニス皇女を、スリフィはリューリンちゃんを、ラクサスさんがオレとコウセイ君を担いで空を目指す。


「ねえ、私がファニス皇女を抱えた方が良くない?」

「馬鹿を言うな、お前に皇女殿下を任せられるか!」

「大丈夫、いくら私でも皇女殿下にセクハラしない」


 そんな事が信用できるかっ、って言って飛び立つフォンさん。


「本来ならボクがそっちの方が良かったけど……」


 リューリンちゃんがブルブルと首を振る。

 うん、この人、普通に陛下のお子様にセクハラしてたわ。

 やっぱ信用ならないね。


 スリフィも魔法を唱えて宙に浮かび上がる。


 最後にラクサスさんも飛び立つ。

 と、同時に全員の姿が掻き消える。

 姿隠しの魔法を使った模様。


 街の中央に巨大なドラゴンが暴れているのが見える。

 一体、あの巨体をどうやって運んで来たんだ?

 秘密裏に動かせられるようなブツでもないだろうに。


「あんな巨体をどうやって隠せたのかなあ。やっぱ地下?」

「亜竜は人の姿に化ける事ができると言われています。たぶん、普通の旅人に扮装して潜入されたのでしょう」

「そうなのか……」


 スリフィが亜竜まで虜にしたと聞いて首をひねっていたのだが、人の姿を取れるとなるとそういう情緒もあるのかもしれない。


 空から見た帝都はボロボロだった。

 各地にクレーターが出来上がっている。

 エルフは完全に街を破壊するつもりなのだろう。


 確実にやり過ぎだと思う。


 こんな事をすれば、必ず禍根が残る。

 それはエルフがモンスターであると判明するよりもっと深いものになる。

 エルフの今のリーダーは何を思ってこんな事をやったのか。


「もう、モンスターがどうこうという話じゃないわね」


 完全に、戦争状態に突入だ。

 少なくとも、エルフと帝国は。

 ここまでされた帝国は、決してエルフを許さないだろう。


 帝国は人類国家の中で最もプライドが高い。


 いくら、相手にメテオクラスの魔法があろうとも、それで身を慎むような国じゃない。

 きっと、これから熾烈な報復が待っている。

 そしてそれは…………帝国だけに収まらないかもしれない。


 帝都には帝国臣民以外の人たちも居ただろう。


「これを許可したエルフの上層部は、愚か者の集まりだわ」

「無能な上司が居れば、困るのは下々の者達なんですよ」

「コウセイ君の上司も無茶ぶりがひどかったからね」


 そんな話をしながらオレ達は上空に残っている魔法陣へと飛び込む。

 そしてその魔方陣の先にあったものは……

 こんなにもエルフが居たのか、と思うぐらい、地面をエルフが埋め尽くしていた。


 崖の一部を魔法で切り離し、魔方陣まで運ぶ。


 それを魔方陣の上に落とすと、その岩はさらに上空にある魔方陣から現れる。

 それがまた別の魔方陣の上に落ちて行き、を繰り返して加速を付けているようだ。

 最後に、王都のある街の上に出現する訳か。


 そりゃ威力があるはずだ。


 姿隠しの魔法は順調に効力を発揮しているようで、エルフたちからの攻撃は今のところない。

 長居は無用とばかり、すぐにその場を離れる。

 エルフたちが見えなくなるまで距離をとってから今後の事を相談する。


「これからどこへ向かいます?」

「近くの村や町はエルフが潜んでいる可能性があります」

「そうよね、目指すとすればある程度防衛力のある場所、国境あたりの軍備がある場所が良いわね」


「グランドム侯爵の領地へ向かってよ」


 護衛の二人、フォンとラクサスが向かう場所を話し合っていたところ、ファニス皇女が横から口を出す。

 ファニス皇女の言う事には、グランドム侯爵は皇帝陛下への忠義も厚く、その息子は自分の婚約者でもある。

 きっと力になってくれるだろうと。


「しかし、グランドム侯爵はそれほど大きな戦力を有していません」

「陛下の跡継ぎたる私がそこへ行くのよ、他の領主達も立ち上がり集まって来るに違いないわ」

「………………」


 しかし、護衛の二人はあまり良い顔をしない。

 帝都が陥落したこの状況、各地の貴族がどのように動くのか、まったくもって読めない。

 陛下の人望が厚ければ、一致団結して弔い合戦だ、となろうが、どうもそうなりそうな予感がしない。


 なにせ、人から奪うのが大好きだ、って言っていた陛下だ。


 国内の貴族からも不興をかっている可能性大。

 最悪は、ここぞとばかりに下剋上を狙ってくるかもしれない。

 そんな所へおいしいエサ(王位継承者)をぶら下げてみろ、何も起こらない訳がない。


(その、グランドム侯爵は信用できそうなのですか?)

(いまさら取り繕っても仕方がないから言うけど、はっきり言って、どこの誰も信用できないわ)

(こんな事を故人に対して言う様な事ではないが、恨みを買っていない相手など、ほとんど居ないわね)


 良くそれで国が持っていたな。

 よほどうまく立ち回らない限り、ファニス皇女が皇帝になるのは厳しそうだ。


(ただ、グランドム侯爵の元へ行くのはそれほど悪い案でないと思う)

(そう? 着いた瞬間に殺されないかしら)

(侯爵はそれほど大きな戦力を有していない、他の貴族と戦争になれば勝ち目がない)


 ならば、攻められないようにする口実を手元に置いておこうとするのではないか。


 正当な王位継承者がそこに居れば、他の貴族もおいそれと襲えない。

 襲うならそれなりの理由が必要になる。

 傀儡の様な扱いになるかもしれないが、命だけは保証される。


(今の皇女の体では、傀儡ぐらいにしか役に立たない)

(逆にそれが相手の油断を誘う口実にもなるわね)


 この二人も、あまり皇女様に良い感情を抱いていない模様。

 まあな、分からない事もない。

 給金が皇女から出る訳でもないし、命懸けで尽くす理由もない。


 この状況でもファニス皇女は、二人の事を召使いぐらいにしか思っていない訳だし。


「何をグズグズしているのあなた達、すぐさま私をグランドム侯爵の元へ送り届けなさい!」


 彼女は分かっているのだろうか、今、この二人に見捨てらたら終わりだって事を。

 この二人が彼女に尽くしているのは亡き皇帝陛下に対する義理立てのようなもの。

 あまりご無体な事を言っていると、見捨てられるぞ。


「そもそもあなた達は母上の護衛だったのでしょう、護衛役が生き残って、母上が亡くなるっていったいどういう事かしら?」


 フォンさんが何かを言おうとしたところを、ラクサスさんが押さえる。


(グランドム侯爵に預けてそれで終わり、あとはまた二人で気軽に生きて行きましょ)


 振り向いたフォンにそう言って首をふるラクサス。

 するとフォンさんは嫌そうな顔をして、


「お前と二人っきりというのもイヤなんだが」


 などと仰る。


「えっ、ひどい……」

「まあ、一緒に寝ようとしたり、風呂やトイレに付いて来ないと言うのならかまわないが」

「そんな、ひどい……」


 そっちはひどくないと思います。

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