第四章 傾国
第25話
最初に落ちて来た大岩は、もろに後宮を狙っていたが、王城からの魔法で見事に粉々に打ち砕かれた。
上空の魔法陣も破壊され、胸をなでおろした所、それは起こった。
後宮だけはない、王城、いや、街のいたる所で上空に魔法陣が発生する。
そして、そこからも巨大な大岩が姿を見せる。
各地で岩を砕こうと魔法が放たれるが、狙いが分散してしまい、うまく岩を壊せない。
ついに地面に激突する、大岩たち。
各地で轟音が鳴り響き、地面が揺れるほどの衝撃がまき起こる。
「先生、こっちに地下道があるそうだから早くこっち来て!」
スリフィがあばら家の中からそう叫ぶ。
オレは近くにひっくり返っていたコウセイ君を抱えて家に向かって駆け出す。
中では暴れるリューリンを抱えたラクサスさんが床に空いた穴に潜り込もうとしているところだった。
「母様が! お城が!!」
「大丈夫ですよリューリン様、陛下がこれしきの事で後れをとる訳がありません」
王城にはひときわ巨大な大岩が突っ込んでいた。
後宮を守る事に力を使い過ぎたのが、反撃の魔法も威力がなかった。
そのせいで王城はひと際、ひどい有様になっていた。
生きてる人が居たら、いいなあ……というありさま。
「それにしてもこんな地下道の入り口なんてあったんですね」
「あのあばら屋は緊急時の脱出口が設けられていたのよ。だからわざと誰も住みたがらないようなあばら屋にしてた訳」
「なるほど~」
他の人たちに知らせなくてよかったのかな。
と思ったのだが、そんな余裕もない上に、たぶんオレの言う事は信用しないだろう。
事実、スリフィの声が聞こえていたはずの人たちも、誰一人ここに入ってこようとしない。
地下道をしばらく走ると、前方に人影が見える。
それは血まみれになった、皇帝陛下のもう一人の護衛の人。
そして彼女は、彼女よりももっとひどい状況になっている少女を抱いていた。
その少女――――――皇帝陛下のお子様、帝国皇女ファニス。
体の半分は、炎に焼かれたのかひどく損傷している。
端正だった顔も半分以上が醜く焼けただれている。
片目はすでに焼き切れたのが眼孔から存在しない。
左腕と左足も炭の様になっており、たぶん、回復魔法でも治らないだろう。
「いったい何が……」
「おい、こっちにくるなよラクサス」
「何を言っているの、すぐに回復魔法を」
「回復魔法ならすでに掛けている、そんな事よりお前、同性愛者だったんだってな」
ジリジリと後ずさる、皇帝陛下のもう一人の護衛――――――フォン。
幼少の頃からな~んかおかしいとは思っていたんだ。
風呂には必ずと言っていいほど一緒に入ろうとするし、寝る時だってくっついてくる。
夜中に隣でハアハアやってた時は、まあ、女だからたまる物もあるし仕方ない。
とは思っていたが……お前、まさか私をおかずにしてなかったよな。
などと問いかけてくる。
すると、ラクサスさんの瞳が泳ぎまくる。
あっ、コレは黒だな。
「な、何を言っているのよ、私たち親友じゃない! いつどんな時だって決して互いを見捨てない、と誓ったじゃない」
「ああ、私は女同士の友情だと思ってそう誓った、だがお前は違ったんだろう?」
「そそそ、そんなこたぁ、ないわよぉ~」
またしても目が泳いでいるラクサスさん。
いやいや、今はそんな漫才をやっている状況じゃないでしょ。
いったい何があったんですか!?
「エルフだ、エルフが攻めて来た」
えっ…………オレの背中につめた~い汗が流れる。
隣でスリフィが「やっちゃいましたね、さすが傾国」とつぶやいている。
いやいや待って、まだそうと決まった訳じゃないでしょ?
ヴィン王国だって滅んでないし。
「分からないよ~、もしかしたら、もうすでに滅んでいたりして」
「オレのせいじゃないよね?」
「先生、現実から目を背けたらダメなんだよ」
大丈夫、どんな先生だって、ボクは受け入れてあげるから、と言って天使の様にほほ笑む。
ああ、スリフィさん、あんたが天使やったんやあ。
思わず、彼女に寄りかかりそうになる。
良し、これで先生はボクのモノ、めくるめく桃色の世界が待ってるゼ、とつぶやくスリフィ。
そういう所が残念天使だって言うんだよ。
「シフ様、皇帝陛下からの伝言です」
その時、フォンさんがオレに皇帝陛下からの伝言を伝えてくれる。
「あなたに責はない、情報の取り扱いを誤った余の誤算であったわ、と」
その後、エルフの攻撃を受けて……
「そんな陛下が……」
「母様、ああ……、どうして」
それを聞いてショックを受けたのか、リューリンとラクサスが項垂れる。
フォンさんが瞳に強い思いを込めて、陛下に教えた情報とは何かと問われる。
しかし、それを聞くと、エルフに命を狙われるようになる。
「今更ですよ、エルフどもはここに居る者、誰一人生きて逃すつもりはないようです」
この先の脱出路にも見えない壁があって先に進めないそうだ。
おそらく、この帝都全体を囲む様に結界で覆っているのだろう。
それこそ、ネズミ一匹逃さないように。
「あのエルフがそこまでする情報、どんなモノか知りたいですね」
「私も、母様が亡くなった理由をしりたい、です」
「これは帝国だけの問題に留まらない、下手をすれば種族間の全面戦争ですよ」
そうだな、もはや隠しておいても仕方がない。
ここまでされた以上、この人たちは知る権利を持っている。
「エルフはモンスターだ、人ではなく、モンスターの一種がエルフなのです」
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