第24話
突然現れたと思うと、問答無用で殴りかかって来たらしい。
どうしてそんな事をしたの?
と聞いたところ、
「気にいらない奴を殴って何が悪いの? まだ、殺されないだけマシじゃない」
などと、何が悪いのかまったく分からないという表情で聞いて来る。
ああ、お母さま。
お子様の教育に失敗してございますよ。
あの陛下の事だ、気にいらない奴を目の間で消し炭にした事も数えきれないだろう。
それを見て育った我が子が同じ事をしようとするのも道理。
「先生、危ない!」
スリフィがそう叫ぶと同時にオレの前に出て手を突き出す。
肌がチリッとした瞬間、目の間で爆発が起こる。
えっ、なんで?
あの親にして、この子ありなのか?
「どうして邪魔するの? あなたも死にたいのかしら」
親御さんと同じような事を言いながらスリフィを睨む。
忌々しそうに歩きながらオレ達に近寄って来る。
オレはスリフィと抱き合って震える。
またしても命の危機ですよ、旦那さん。
短い平和だったなあ。
その少女が近寄って手を突き出そうとしたとき、遠くから男性が走り寄って来る。
そしてその少女へ耳打ちする。
「殿下、さすがに陛下のお持物に傷を付けられるのはまずいですよ」
「持ち物? コイツが?」
「はい、候補ではありますが、一応、側夫の一員でございます」
ふ~ん、と言って、ジロジロとこっちを見てくる。
「でもコイツ、私を前にして無礼を働いたよ、普通は処刑じゃないの」
どんな無礼を働いたって言うんだよ?
えっ、許可を取らずに話しかけたから?
たったそんだけで処刑されるのかよ。
いや、絶対王政の時代なら、それもありうるのか。
「ここで何をしている、ファニス」
そこへ皇帝陛下が現れる。
傍には息を切らしたコウセイ君が。
どうやら、皇帝陛下にチクってくれた模様。
皇帝陛下を見たとたんに不機嫌そうな表情をみせるその少女――――――帝国皇女ファニス。
「母上こそ、どうしてこのようなあばら屋にいらっしゃるのですか、私の部屋には全然来ようともしないのに」
「ん、ああ、まあな……もう、そういう歳でもあるまい」
「私が小さかった頃もほとんど来てくれませんでしたよね」
「お前はこの先、この国をしょって立つ女だぞ、それがそんな雄々しい事を言ってどうする」
こっちの世界じゃ女々しいは雄々しいになるのですね。
ちょっと脳がバグるわ。
一瞬、雄々しいなら良いじゃないと思ったわ。
「やはり後宮などと言う物があるからダメなのですわ!」
「何をいうハーレムは女の夢だぞ」
「父上はいつも嘆いていますわ!」
何やら始まる親子喧嘩。
多少、お母さんの方が劣勢な模様。
さすがの陛下も跡継ぎの我が子には手を出せないか。
お前も大人になれば分かる、と言う母親に対し、そんな物は分かりたくもない、とごねる娘さん。
まあ、ハーレムは、異性に受けが悪いのは当然として、子供にも受けが悪いわな。
みんな子供の頃は純情なんだ。
それが大人になるにつれて少しずつ擦れていく。
一部、子供の頃からアレな奴もいるけど。
「なに? ボクの顔になにかついてる?」
「目と鼻と口が付いてるな」
「それって普通じゃな~い」
普通じゃない性癖も付いているがな。
その日はとりあえず、皇帝陛下が連れ帰ってくれたけれど、翌日から怒涛の嫌がらせが始まった。
リューリンには目が合うとすぐに殴りかかってくるし、オレが作った料理に虫を混入させたりする。
履物には石を詰め込むわ、衣服はズタボロに切り裂かれている。
ただ、特注品のオレの下着だけはスリフィが確保してくれていたので無事だった。
「いった~い! どうしてさ?」
「どうしてもこうしても、その下着で一体、何をしているんだよ」
「そりゃま、けつお・・コホン、切り裂かれないように大事にしまっていたんじゃないか、感謝してよ~」
コイツ今、何を言おうとした?
絶対に妙な性癖に目覚めているだろ。
オレの下着、このまま履いて大丈夫だろうか?
捨てた方が良いんじゃ……
しかしあのお嬢様、まるで悪役令嬢だな。
いや、貞操観念が逆転しているこの世界だと違うかもしれん。
前世でいえば、ただの意地悪な王子様?
それとも悪役令息と言ったところか。
まあ、気持ちは分からない事はない。
後宮の子供はあくまで他人だ。
皇帝も、そう公言している。
にもかかわらず、実子である自分より、他人であるはずの子供を可愛がっている。
気持ちは分からない事もないのだが、暴力はあかんだろ。
あの凶暴さは絶対に母親譲りだな。
何かと言うとすぐに手がでる。
側近のお方も困っているご様子。
側近の男性にお話を聞いていみると、彼女は王宮でも浮いているご様子。
ちょうど、反抗期でもあるのだろう。
あの母親――――皇帝陛下とうまくいっていないのは、分からない事もないが、他の大人たちともうまくいっていないそうだ。
わがまま放題ばかりな皇女様に、みなさん辟易している模様。
はっきり言って王宮に彼女の味方は居ない。
周りに当たり散らかすような意地悪な皇女様が居て、誰がそんな子供を大切に思う。
ましてや貞操観念が逆転している世界。
女だからと言って大目にみてもらえる訳でもない。
むしろ、女だからこそ厳しい目で見られる。
自業自得とはいえ、かわいそうなものだ。
そして最近は、父親の機嫌も良くなく、たった一人の味方すら居ない状況、捻くれるのも仕方がない。
そんな事を考えながら空を見上げた時だった。
なにやら上空に巨大な魔方陣が描かれている。
なんだろな、と眺めていると、そこから真っ赤に熱した岩の様な物が現れる。
ふむ…………あれ、こっちに向かって落ちてくるんじゃ。
えっ、もしかして、この後宮、狙われている……!?
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