第23話
ついでにリューリンちゃんも一緒に勉強する。
「眠気も消えて軽い運動でスッキリしています、きっとこれまで以上に物覚えが良くなっていますよ」
何事もただ、がむしゃらに行うだけでは身に付かない。
命懸けで、ひたすら体に鞭打ちながら勉強をするより、最高のコンディションでメリハリをつけて勉強したほうが覚えが良い。
時間をかけて百回、同じ事をするより、1回で覚えられるような環境と方法を模索した方が良い。
特に前者はそれ単体にしか役に立たないが、後者は他の事でも役に立つ。
命懸けで何かをするよりも、己の能力を最大限に引き出して行動する事が大事だ。
それができる人間が、いわゆる勉強をしなくても成績が良いやつなのだろう。
世の中に天才と呼ばれる人種はほとんど居ない。
なのに差がつくというのは、他の人と同じ努力をしようとせずに、最初にどんな努力をすればよいかを考える。
特に勉強は頭を使う作業だ。
眠かったら100回読んでも覚えないし、忘れる。
しかし、スッキリした気分で読むと、たったの1回で覚えられる。
勉強だってお仕事の一部。
だとしたら、事前準備で差が付くのも当然の事。
勉強するなら万全の体調で。
さらにそこへ魔法の言葉を添えてあげる。
今なら出来る、あなたなら出来る。
物事を覚えるなんて気持ちの問題だ。
出来ないと思ったら出来ないし、出来ると思ったら出来る。
人の性能(記憶力)って言うのはそんなに差があるものじゃない。
なのに差が出るのは、その違いもあるのじゃないかと、そう思っている。
まあ、実際の所、そこが一番に難しい点でもある訳だが。
「命を懸ける事は誰にだってできる、だが、持てる力を出し切って行動できる者はそうそう居ない――――か」
どうやらツボに入ったようで、その言葉をつぶやく皇帝陛下。
「どうリューリン、前より物覚えが良くなった気がしないか?」
「うん!」
「あのいつも泣きながら勉強していたリューリンが……」
なにやら皇帝陛下が少し目頭を押さえている。
「とんだ拾い物だったな、昨日は感情の赴くまま殺さなくてよかったわ」
まあ、先生は、殺したって死なないだろうから……たとえ世界が滅んでも一人だけ生き残りそうな勢い、などとスリフィがつぶやいている。
だからそれは別の世界線のシフ・ソウランさんだから。
たぶんオレは普通に死ぬと……思うんだがなあ。
なんだかんだで、いつもギリギリのところで生き残っているから、なんとなく不安になってきた。
それからしばらくは平和な日々が続いた。
「クソッ、とれねえ――――いつまでオ〇ニー禁止なの!? このままじゃ死んじゃうよぉ……」
ごく一部、禁欲生活のせいで発狂しそうな人が居ますが。
「せっかく後宮に来ているのに、これじゃ蛇の生殺しだよっ!」
「そう言いながらもお前、他の奴の所へ行こうとしないじゃないか?」
「だって、なんか怖いんだもん」
せっかく後宮に来ても、人見知りだと台無しだな。
「でもさすがに後宮、そういう設備は充実している」
と言ってガラス張りの浴場を指差す。
まあ後宮って、いわゆる愛人付きのラブホテルだからな。
そういう設備もある訳ですよ。
ただ、風呂に入る時「うぉおお! 先生のはだかっ、先生の裸かぁああ」と言いながら必死であそこをかきむしっているコイツがだいぶ怖いんだが。
ただそれも数日すると落ち着いてきた。
禁欲生活が続いて壊れて来たか?
と思って聞いてみたのだが。
「先生、女は後ろでも感じるって事を知りましたよ、ボカァ」
などと危ない事を言い始める。
このままではまずい、いい加減、ここを脱出する方法を考えねば。
そう言えば、リューリンちゃんもいずれここを追い出されると聞いたが、それについて行く事はできないであろうか?
まあ、追い出される気配はないのだけれども。
最近、皇帝陛下は足繫くここへ通ってくる。
リューリンちゃんとも笑顔で会話をする事が多くなった。
ただ、最近のリューリンちゃんはスリフィの事を蔑んだ瞳で見る事が多くなった。
気持ちは分からない事はない。
人の目がない事を良い事に、オレにさんざんセクハラをかまして来る。
後宮と言う閉鎖環境にはっちゃけて、もう堂々と覗きや体をまさぐって来る。
お子様の教育には決して良くない行動だ。
そんなスリフィに、真面目なリューリンちゃんが反発心を抱き始めている模様。
最初の頃は抱き合って震えていたほど仲が良かったのにね。
仕方がないよね。
スリフィだし。
むしろ、スリフィに影響されて同じ人種になったら天国のお父様に申し訳が立たない。
そんなある日の事だった。
なにやら激しく誰かを罵っている声が聞こえる。
慌ててその場に駆け付けると、リューリンに誰かが馬乗りになって殴りかかっていた。
「何をしている!!」
オレが声を上げると、押さえつける力が弱まったのか、上に載っている人物を跳ね除けてオレの方へ駆け寄って来る。
が、手で顔を隠したかと思うと、急に進路を変えて護衛のラクサスさんの方へ向かう。
ラクサスさんは、泣かなかったのですね~、偉いですね~、とナデナデしながら言って回復魔法を掛ける。
「護衛なのにどうして殴られるまで放置していたのですか?」
「相手が相手ですからね~、私では触れる事すら許されませんよ~」
そう言って加害者へ視線を促す。
そこに居たのは、スリフィと同じぐらいの年齢をした、皇帝陛下と同じ、真っ赤で綺麗な瞳をした少女が立っていた。
ただ、その少女は陛下と違って、髪まで真っ赤だった。
服装も赤色をふんだんに使い、まるで燃え盛る炎のごとく。
その少女は両手を腰にやって、ふんぞり返っている。
もしかして、どっか他の側夫の子供なのだろうか?
そういや最近、陛下がオレの所にばかり来るもんだから、他の側夫から不興を買っていたんだよなあ。
ん? アレ? とある国の女帝さんが後宮に居る一人の男性の所へ入り浸りになり、正夫はおろか他の夫からも不満がたまり、国の亡びる一因になったと、誰かから聞いた気がする。
そしてその正夫は凄く荒れていたとも言っていた。
まさか、シフ・ソウラン伝説はまだ、続ていたとか……いや、まさかな。
ラクサスさんがそっとオレに耳打ちする「彼女は唯一人、皇帝の子だと言い張れる人物ですよ」と。
時代の修正力か……親が荒れているという事は、子も荒れていてもおかしくない訳だ。
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