第22話

 さて、翌日の朝はもう少し簡単な物を、昨日の残りの生地をワンタンみたいな形にしてスープに浮かべる。

 あとは肉団子を少々放り込み、野菜を加える。

 それを食べた後は、皆で草むしりだ。


 お昼はどうすっかなあ。


 スープばかりじゃ水腹になるだろうし。

 焼きそばでも作るか。

 まあ、麺が麺なので焼きうどんに近くなるだろうが。


 そうしてお昼時、なぜかそこには皇帝陛下が。


「何か変わった物を作っていると聞いてな、ご相伴に預かりに来たわ」


 それと、と言って、とある人物を紹介してくる。


「さっそくエルフに鑑定せてみると、すぐ傍にそういう奴がおってな」


 その人は、陛下の護衛をしていた二人の女性のうちの一人。

 どうやら同性愛者であった模様。

 この人を今後、ここにつけるそうだ。


「今日からお付き合いさせて頂くラクサスと申します。ウフッ、自分でも、もしかしたら、とは思っていたのよねえ。特に、小さい子供が好きだって言われちゃってね」


 と言ってギラついた瞳でスリフィとリューリンちゃんを見やる。

 二人は抱き合って震えている。

 とはいえ、さすがに皇帝の御子様には手を出さないだろう。


 スリフィは知らないが。


「さて、それがお前が作った料理なのか?」

「ええ、まあ……お口に合うかどうかは分かりませんが」


 とはいえ…………取り皿を持って来てないんですが。


 巨大な大皿に、盛に盛った焼きそばもどき。

 たくさんの野菜とお肉を混ぜて、山盛りでござい。

 皆で突きながら食べれば良いや、と思っていたんだけど。


「構わん、行軍中は礼儀など気にしておれんから、慣れておる」


 そう言いながら、焼きそばをごっそり口の中に入れる。


「味付けはまあまあだな。プチプチとつぶれる食感は良い、のど越しも良く子供が喜びそうな料理だな」

「そうですね。お手軽に作れてバリエーションも多い。なんにでも合うし、おなかもふくれる。唯一の心配が食べ過ぎによる栄養の偏りぐらい」

「お手軽? 麺にするのは手間だろう」


 そこは手が空いている時に大量に作って置いて、乾燥させときゃ良いんですよ。

 必要な時、水に浸けて沸かすだけ。

 なんだったらスープも粉末状にしておけば、そのまま食べられる。


 インスタントラーメンの出来上がりですな。


「ほほう……? 良し、それを作って我に献上せよ」

「乾燥させるには魔法が必要ですけど……」

「そこに一匹おるだろう」


 そう言ってスリフィの方へあごをしゃくる。


 まあ、実際に村で作っていた時はスリフィの魔法で乾燥させていた。

 その、匹扱いされたスリフィさんは、遠くで指をくわえて見ている。

 と思ったら、コウセイ君が取り皿を持って来てくれたので、それを持って、そっと焼きそばを自分の皿に移し始めた。


 こっちで一緒に食べれば良いのに。


 皇帝陛下と同じ皿で食べられるなど、貴重な体験だぞ。

 そう言うと、スリフィもコウセイ君もブンブンと首を振って拒絶される。

 リューリンちゃんは大丈夫だよね。


 と見ると、ガクブルで震えながら食べていた。


 皇帝陛下の方をチラチラ見ながら陛下が咀嚼している時を狙って皿から麺を口に放り込んでいる。

 自分の子供にまでここまで恐れられているとは、きっと日頃の行いなんだろうねえ。

 とはいえ、どこか嬉しそうな雰囲気もある。


 こうやって親子で料理を突いて食べるなど、今までなかっただろうから。


「さて、おなかが起きると眠くなりますよね、でも、食べてすぐ寝ると体に悪いと言われています」


 食事をすると、胃や腸が普段より活発に働かれます。

 その分、脳に回るエネルギーが減って、休眠しようとするのですよね。

 そういった時は軽い運動をするのも良いですけどね。


「が、横になってみなさん寝ましょう」


 そう提案してみる。

 陛下が、食ってすぐ寝ると体に悪いのだろう? と聞いて来る。


 そうですね、仰る通り『ぐっすり』寝てしまうと、疲れが取れないし太りやすくもなる。

 しか~し!

 睡眠のとり方によっては、まったく逆の効果があります。


 ほんの少し、そう30分以内なら、頭もスッキリするし、実は痩せ体質が作れるとも言われている。


「寝るのは30分だけです、そして起きたら軽い運動をして勉強しましょう」


 特にリューリンちゃんはまだまだ幼い。

 寝る子は育つ、とも言いますし、無理して動くこともない。

 それから30分後、皆を叩き起こし、とある物を手渡す。


「なにこれ?」


 丸いボールみたいなのを手にして首をかしげるリューリンちゃん。

 はい、お手製のボールでございます。

 布を丸めて糸でグルグル巻きにして縛った物。


 それでキャッチボールをする。


 キャッチボールは体の全身をゆっくりと動かすので、寝起きにはちょうど良い。

 ボールを狙ったところへ飛ばすと言うので集中力も同時に養える。

 二人で運動することにより、孤独感もなく、さらにボールで会話が楽しめる。


「ふんっ!」

「ピャッ!」


 ただし、やるなら男女別で行いましょう。


 身体能力が違い過ぎるからね。

 仕方がないよね。

 陛下が放つボールを必死で避けているスリフィ。


 布のボールなのに地面にめり込んでいるや。


「ちゃんとキャッチせんか」

「無茶ですよぉ……」


 涙目のスリフィさんです。

 もうキャッチボールじゃねえな。

 ドッチボールみたいになっているゼ。


 リューリンちゃんはそれを見て、果敢に陛下のボールを受けようと挑戦される。


「どうだい、楽しいかい?」

「はい……ありがとうございます、こんな気持ちになったのは初めてです」


 はにかみながらそう答えるリューリンちゃん。

 しかし陛下、こんなとこで遊んでいて大丈夫なのかな?

 なんだかんだ言って、リューリンちゃんの事が心配だったのかもしれない。


 興味のないそぶりをしても、愛する男性との子供をなんとも思わない訳がない。

 こうやって親子で遊ぶ時間をとってあげていれば、リューリンちゃんも寂しくない。

 昨日の今日だと言うのに、すっかり元気を取り戻している。


「さて、運動が終わってスッキリしたら次はお勉強です」


 コウセイ君が運んで来てくれた教材を並べてお勉強をする。

 自分、スリフィの家庭教師ですから。

 ご両親からも給金をいただいているので、どこであろうともお仕事はしないとね。


「先生って、そういうとこは真面目だよねえ。真面目なのにエロい……ヂュフフフ」


 何を想像しているのやら。

 そしていい加減、ヂュフフフは止めろ。

 リューリンちゃんも、ちょっと引いているぞ。

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