第21話
「良かったの先生? わが身、可愛さにエルフの秘密を売っちゃって」
「どうせ、いつかはバレる事だろ? むしろ、そう言うのは黙っているからこそ、問題になる」
ちなみ、バレたあとのエルフとの関係はどうなったのでしょうか?
「生命の秘薬となる世界樹の葉を配りまわってね、世界樹は温厚なモンスターだから問題ありませんよ、ってロビー活動で乗り切ったよ」
「だったらまあ、大丈夫じゃない?」
「そもそも世界樹の葉とは言え、ただの葉っぱ。いくらでも採れるものだよ~、それを出し惜しみしていたエルフがよくもまあ、責められなかったものだよね」
なお、千年後の世界では、エルフと一般の人々とは完全に生活圏が分かれてしまっていたそうだ。
エルフは一般の人々と違って、魔法を機械で補うという事に忌避感を持っていたそう。
なので、機械が溢れる人の街並みから遠く離れた、自然があふれる大森林などに住んでいたそうだ。
「なんだかんだ言っても、エルフだってモンスターの一種。そしてモンスターはそれぞれに習性があり、それは変える事はできない」
と偉い人が学術的に述べていたそうだ。
さて、そんなモンスターですが、モンスターだって食事はします。
人でも獣でも、木や岩ですら食べるモンスターが居ます。
ただ、一つだけ、彼らにも嫌いなものがあります。
それは自分より上位種のモンスターの肉、あるいはその一部。
上位種のモンスターの肉を食べると拒絶反応が出て、別のモンスターになるそうです。
世界樹の葉をゴブリンに与えると、草ゴブリンになったり。
で、千年後の偉い人が学術的に述べていたように、モンスターの習性により、別のモンスターに変わる事は忌避される。
一般的には、いくら、それ食って強くなれるとしても、それを口にする事はないのですよ。
まあ人間だって、ゾンビに齧られたらゾンビになれますよ、と言われても齧られに行く奴はいないだろう。
「まっ、だからこそ、世界樹の一部である世界樹の葉をエルフは出し惜しみしていた訳だけどね」
スリフィの言う様に誰かが間違えてモンスターに与えてしまうと、世界樹がモンスターだとバレてしまう。
なので、ひっじょ~に貴重なものとして高額で取引される様に設定されている。
そんな高価な物をモンスターに与えようとは思わせないように。
皇帝陛下だって、そんな貴重モノを実験で与えられるか、と言っていたし。
その時は、それでエルフを脅せる材料が手に入るなら、安い物じゃない、と言って乗り切ったけど。
それでなんとか、皇帝陛下も矛を納めてもらった。
最後は凶悪な面でニタリと笑って出て行った。
「リューリン、あなたも女なら、その子ぐらい生き汚く生きてみな」
と言う捨て台詞を残して。
そしてオレはそのリューリン――――――皇帝陛下の御子様を連れて、例のあばら屋に向かっている。
だってもう、あそこは人が住めそうにないし。
ほんと、キれる大人はダメですよねぇ。
「じゃあ掃除の方は頼むわ」
「先生はどこに行くの?」
「ちょっくら料理を作って来る、中華なら見た目が違うからイケンじゃね?」
やった~、先生の中華は美味しいんだよね。とスリフィは喜んでいる。
という事でやってきました調理室。
小麦粉はあるな?
どんな種類かは分からないが、とりあえずなんとかなるだろう。
お水と少量の塩を混ぜて兎に角かき混ぜる。
ひたすら無心にかき混ぜる。
だまにならないように満遍なくかき混ぜる。
すると、だんだんと塊になってきた。
「し、シフさん、ありがとうございます! シフさんは命の恩人です!!」
そこへ、目を覚ましたコウセイ君が駆け込んできた。
おっ、良い所にやってきたね君。
ちょっと手伝ってくれないか?
こっから捏ねて叩いて、力仕事が待っている。
「え、パンでも焼くのですか?」
「いいや、麺を作る」
「麺……?」
こっちの世界じゃパスタと言ったほうが伝わり易いか。
兎に角、コウセイ君と一緒に生地を作る。
今は食事時ではないので、調理室に居るのはオレとコウセイ君だけだ。
そしてできた生地を平らに広げて丸めて行く。
綿棒がないから、まあ、不揃いなのは勘弁してもらおう。
さらにそれを細く均一に切っていく。
うどんよりも細く、ラーメンよりは太く。
できた麺を沸騰させた湯に付ける。
「スープの余りとかはないかな?」
「あっ、それならこっちにありますよ、下女がお腹が空いたときに食べられる様にしています」
「良し、それを少しだけもらおう」
さらにお肉も見つけたので、それを叩いてミンチにする。
うす~くした生地でそれを囲み、同じく湯に付ける。
なんちゃってゆで餃子だ。
野菜も少量頂き、スープに彩を加える。
そこへ湯がいた麺とゆで餃子を放り込む。
うん、まあ、ちょっと男飯みたいになったが良いか。
「リューリン様にお出しになられるのですよね、それでしたら良い所だけを取りましょう」
そう言って慣れた手つきで良い感じに盛り付けてくれるコウセイ君。
こんなちゃんぽん麺みたいなのは見たこともないだろうから、これなら食べてくれないかな?
そう思い、リューリンちゃんの前に置いてみる。
可愛く首をかしげているリューリンちゃん。
「うわっ、美味しそう、ボクも頂戴よ」
「お前のはこっちな、ちょっと失敗作も混じっているが」
「…………私も、そっちが良いかも?」
リューリンちゃんがなぜかそう言ってくる。
まあ、みんなで突いて食べる鍋の方が美味しく見えるのは分かるぞ。
じゃあさ、
「こっちでお代わりを食べよう、まずはそれを口にしてみて」
「…………うん」
恐る恐る、麺をフォークで持ち上げる。
そして、それを口に運ぶ。
口の中でモゴモゴと咀嚼した瞬間、目が真ん丸に見開く。
この子も、皇帝陛下と同じく綺麗な真っ赤な目をしているな。
「おいしい……」
「そうか、じゃあ、もっと食べられるよな」
「……うん、うん、グスッ」
リューリンちゃんは目に涙をためながら、オレが作って来た麺料理を口にするのであった。
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