第三章 帝都後宮

第18話

「なんでボクがこんな鋼鉄のパンツを履かなきゃならないのサ!」

「ガキと言えども女は女、後宮の男どもに万が一があったらまずいだろ」


 それをしている事で身の潔白を証明する事にもなるんだから、文句を言わずに履け。

 と言われながら、下を脱がされているスリフィ。

 アレから目隠しをされ、どこかへ運ばれた。


 またしても誘拐ですよ?


 よくよく人が攫われる世界だなあ。

 ほんと、この世界の女性は男性をモノのように扱う。

 まあ、圧倒的な力の差があるから、抵抗のしようがないからなあ。


 そして攫われた先はなんと、帝国の首都。


 そこにある王城に併設されている後宮の前であった。

 いったい、どうやってこの短期間に移動ができたのやら。

 あれかな? 転移魔法か何かなのだろうか。


 そしてそこにはオレだけではなく、スリフィも一緒に連れられて来ていた。

 何でも人質役らしい。

 オレかスリフィ、どちらか片方が脱走すれば、もう片方は斬首だとか。


 だったら同時に脱走すれば良いんじゃないか、とは思ったが、一人より、二人で脱出する方が難しいと言う。


 まあ、この世界は魔法があるからね。

 数が多い方が見つけやすいのかもしれない。

 ただ、スリフィは女の子だ、基本女人禁制の後宮に入る事はできない。


 だが、例外もある。


 前世の古代中国の後宮がそうであったように、男手が必要な場合に備え、後宮に入れる人たちが居た。

 そう、あそこをちょん切った人たち。

 女の場合は、ちょん切る物がないので、鍵付きの貞操帯を履かされる。


「こんなんじゃ、オ〇ニーが出来ないじゃな~い」

「ガキがオ〇ニーとか言ってんじゃねえよ」


 そんな知識もないだろ、と言っているが、ソイツは持っているぞ。


「せんせ~」

「いつまでもスカートをめくりあげておくな、さすがに引くぞ」


 綺麗なね~ちゃんなら、目の肥やしなんだがなあ。

 さすがに、8歳のスリフィに欲情したりはしない。


「そうだ、先生も貞操帯を履こうよ、ほらほら」

「止めろ、オレのズボンを降ろそうとするな」

「とんだエロガキだね~、あんちゃんも苦労してるんやね」


 なぜか案内役の女性に同情された。


「それにしても、こんな遠い場所なのに一瞬で来られるなんて、帝国は凄いよね~」

「ああ、なんでも大金を出してエルフの大規模転移魔法陣を買ったそうだぞ」

「へ~、エルフってそう言うの売らないと思ったんだけど」


 まっ、本当の事はわかりゃしないけどね。と言って女性は止まる。


「うちが案内出来るのはここまでだ、まっ、精々、長生きするこったね」


 お城の中に門がある。


 その門を開くと庭園が広がっていた。

 その庭園の先に、いくつかの洋風の小さな建物が存在する。

 どこも庭付き一戸建て。


 規模は小さいが、建物には工夫をこらされており、庭には色とりどりの花が咲いている。


 そんな風景がずっと続いている。

 これだけの敷地を用意するだけけでも、かなりのものだろう。

 無数の建物や庭園、いったい、この後宮にどんだけお金をつぎ込んでいるのだろう、あの陛下。


 もはや、趣味につぎ込むレベルじゃねえ。


「は、初めまして、案内役をさせていただきます、コウセイ、と申します」


 眺めに圧倒されている所へ、小さな男の子が挨拶してくる。


「こちらこそよろしく。オレの名はシフ、こっちのちんまいのはスリフィ」


 スリフィのやつは、人見知りを発揮してオレの後ろに隠れている。

 こんなちっちゃな子までダメなのかお前。

 あと、どさくさに紛れて尻を撫でるんじゃありません。


「ねえ、ボクの履いているパンツって一生外れないって事はないよね?」


 成長したらサイズが合わんだろ。

 えっ、なんか履いた時にサイズが自動で変わった気がするって?

 まさか魔道具なんかソレ。


 まあちょん切られるよりマシだろ。


「良くないよ~、一生オ〇ニーなしの生活なんて、おかずなしの白米だけで生きて行くようなもんだよ~」


 せっかく男の人と触れ合える時代に転生したというのに、こんなモノをつけられちゃ意味がない。

 先生だって将来の嫁さんが、こんなのをつけていたらがっかりだよね?

 ああ……今世こそ、ヤれる、男とヤれる、と期待していたのにぃいい!


 などと言ってぐずる残念天使を連れて、コウセイ君に案内される事、数十分。


 広い、広い後宮の隅、草ぼうぼうの敷地の中に蜘蛛の巣だらけのあばら家が見える。

 もしかしてあそこがオレ達の住処なのだろうか?

 他のお方達と差がありすぎません?


 コウセイ君は申し訳なさそうに言う。


「何分、急な事でしたので、後ほど掃除夫は向かわせますので」

「待てコウセイ、ソイツが今日、ヴィン王国から来たと言う新たな我らの仲間か?」

「えっ、あっ、ハイ、まだ候補でしかありませんが……シフ様と申されるそうです」


 その、あばら家の近くによると、何名かの豪華な服装を纏った男性たちが現れる。


「良く来られましたなシフ殿、そんなあばら家では窮屈であろう、実はこないだ空きができた宮があってな」

「うむ、そこならば掃除も行き届いておる、このような場所より何倍も良かろう」

「コウセイ、案内してやれ、ブラウンフォールの宮だ」


「えっ…………」


 何やらコウセイ君が真っ青な顔をされます。

 あれ?

 もしかして、さっそくイビリなのでしょうか?


 後宮のドロドロとした関係。


 貞操観念が逆転した世界でも変わらないのですかねえ。

 良いよ別に、倉庫でも押し入れでも。

 どこにでも連れて行きたまえ。


 村で居た時は馬小屋よりひどい場所で居たのだ、そこに比べれば、まともな床があるだけまだマシだろう。


 期待せずに向かった先に待っていた物は……

 えっ、ほんとにココであっているの?

 さすがにココはないんじゃないか?


 だってココ――――――後宮で一番立派な建物じゃないか。

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