第17話

 モンスター、そうこの世界には、ゴブリンやオークなどのファンタジーにありふれたモンスターが存在している。


 ただ、この世界のモンスターの発生条件はありふれたファンタジーとは少しだけ違う。

 まず、モンスターはモンスターを生む事が出来ない。

 そう、子を成して繁殖しないのだ。


 だったら、どうやってモンスターが発生するのか、と言えば。


 魔素が濃くなった場所に自動発生、という訳でもない。

 それに近いのだが、もう一つ条件が付く。

 モンスターには魂が必要なのだ。


 人や獣、そう動物はおろか植物まで、それらの死体、その死体に残留する魂、それらが混ざり合って、近場の物を取りこみ、モンスターに変異するのだ。


 この世界では死体は火葬しなければならない。

 土の下に埋めると、モンスターになる可能性があるからだ。

 そしてモンスターに変異した時に、見た目も変わる。


 ほとんどは醜い怪物になるが、ごく一部、見た目が良くなる場合もある。


 さらに生前の記憶を持ったままで蘇る場合もある。

 それがリッチやヴァンパイアと呼ばれる種族。

 シフ・ソウランは邪神に蘇らせてもらった時にアンデッドとなったと伝えられている。


 だが、それ以前にすでにアンデッドとなっていた可能性だってある。


 そしてオレがモンスターになる際に、好きな見た目を選べるのならば、前世の記憶の中からモンタージュして、最高の見た目を作り上げる。

 当然そうするだろう、君だってそうするはずだ。

 それであれば、スリフィの言っている歴史にも辻褄があう。


「だから先生が殺害されない限り、これから先の歴史も起こらない、と思うんだけど、どう?」

「ふ~ん……それって本来の歴史だと、私がシフを守り切れなかったって事かしら?」

「事実、先生はルーリアさんの目を盗んで、ボクの村までやって来ているじゃな~い」


 苦虫を嚙みつぶしたような顔でスリフィを睨む。


「こわっ、そんなに睨まないでよ、ボクは何も悪くないからね」

「まっ、良いわ、兎に角、シフの命さえ守り切れば良いって訳ね」

「そうなるね」


 と、言う事でさ、とスリフィは続ける。


「お風呂の中までボクが護衛しようと思います」

「調子にのるな」

「いった~」


 またしてもゲンコツをもらっているスリフィ。


 その時、何者かかルーリアさんの家のドアをたたく音がする。

 どうやらお客さんが来られた模様。

 扉を開いたその先には、随分とゴージャスなお姉さんが立っていた。


 艶やかな黒髪とルビーの様な真っ赤な瞳が良いコントラストを引き出している。


 出ることは出て、引っ込むとこは引っ込み、ナイスバディなその体に視線が吸い寄せられる

 この世界は前世と違って、男が女性の体をジロジロ見ても不審がられないから良いよね。

 いや、良くはないか。


「ヴァルキシア帝国皇帝、オーシュ・ヴァルキシア」


 その人を見て、ルーリアさんが絞り出すような声でそう言う。

 え……?

 今、なんて?


「ほう、さすがはエルフ、どっかの無能な第4王女とは違うな」


 左右に居た、護衛の女性たちが動き出そうとするのを手で制止しながらそう答える。

 目の前に居る、このゴージャスな女性が――――――帝国皇帝!?

 どうしてこんな場所に、帝国皇帝が……!?


「あの無能な第4王女がいつ気づくかそれによって、この国の命運を決めようと思ってな」


 いまだに私の事を唯の仲介屋だと思っている、あの無能がな。

 アレをこの国の王としたら面白いと思って近づいた。

 そうすれば勝手にこの国は自滅するだろうと。


「クックック、私が皇帝だと知ったら、アイツはどんな顔をするか見ものだと思わないかい?」


 この陛下、性格はあまりよろしくないご様子。

 まあ、性格の良い美人になんて出会った事はないんだけども。

 特に、この世界では。


 その皇帝陛下がオレの方へ目を向ける。


「その無能の目が今日は違っていてな、騎士団の連中も雰囲気が違ったわ」


 ほんの数か月で、こうまで人が変わるモノかと不思議がるほどの違いだ。

 せっかく楽しみにしていたものが、これでは台無しだ。

 アレをこの国の王とすれば、やっかいな相手になりそうだ。


 聞けば、とある男の影響を受けたと言う。


 まったく困った事をしでかしてくれたものだ。

 しかし、あの無能がここまで化けるとは思わなんだ。

 そこまで人を変える男と言うのを一目見てみたくてなってなぁ。


 と言って、オレに問いかけてくる。


「お前が、シフ・ソウランか?」


 ルーリアさんがオレを背中にかばう様に前に出る。

 次の瞬間、皇帝が「制圧せよ」と短く呟いたと思うと、両側の女性が消える。

 気が付けば、ルーリアさんは倒れ込み、きゅ~って目を回したスリフィが女性に抱えられていた。


「二度は問わんぞ?」

「オレがシフ・ソウランです」

「ふ~む……」


 上から下までジロジロと観察される。


 黒目、黒髪は珍しいが、どうしても欲しいという訳ではないか。

 とはいえ、今を逃すと次は難しいかもしれんしな。

 あの第4王女が無能なままなら、もう少し実ってからでも良かったのだが。


 と、ブツブツ呟いている。


「私はな、世界中の美男・美男子を集めてハーレムを作るのが夢なのだよ!」


 突然、両手を広げてそんな事を言う。

 うゎぁ、権力を手にしたらあかんタイプや。

 さらに続ける。


「特に、人のモノを奪うのが好きでなあ」


 そう言って舌なめずりをする。

 ツーアウトですよ、奥さん。

 こんな人が世界最大級の帝国のトップに居るんだ、そりゃ世界も荒れるわ。


 スリフィの語った歴史で、絶世の美男であるシフ・ソウランを取り合って戦争したってのも頷ける。


 まさかそっちの予想が当たるとはなあ。

 世も末です。

 で、オレはこれから、どうなるのでしょう?

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