第15話
それから数日後、今度は正式にお客様として騎士団に御呼ばれされる。
どうしたのだろうか?
もしかして、本気で飯焚き係に任命するつもりなのだろうか?
ルーリアさんは行かなくても良い、とは行ったが、相手は一応、王族だから無視もできまい。
「アイツ等ってほんと、閉鎖的よね。何回、聞いても知らないって言うのよ」
騎士団に着くなりそう愚痴るアールエル王女。
どうやら本当にエルフに凸った模様。
人体の構造についてエルフに教えを請いに行ったが、袖にされたらしい。
しかし、ルーリアさんには聞かなかったのですね。
「えっと、ほら、なんて言うかさ、あんな事を言われると照れくさくてね」
ちょっと赤い顔をしてソッポを向く。
それにしてもこの王女様、なんだかちょっと、雰囲気が変わったな。
トゲトゲしていた部分が取れた感じ。
口調も変わっているし。
「ねえ、あなたの知っている部分で良いから、私に教えてもらえないかしら?」
「良いですよ」
どうせだったら、スリフィも連れてきたら良かったかも。
アイツの方が詳し……いや、どうかなあ。
前世でも成績は良くなさそうだし。
それから何日かかけて騎士団に通いながら、知っている事を話す。
スリフィにも知恵を出してもらって紙などに書き起こして持って行く。
一緒に行こうぜ、と言っても、
「ヤだよ~、あそこ怖い人で一杯じゃな~い」
そう言って、柱にしがみついて離れそうにない。
学園ももうすぐ始まるらしいんだが、コイツ、本当に大丈夫か?
ルーリアさんがちょっとずつ人に慣らそうと、あちこち連れまわしてはいるそうだが。
「そもそも、人体の事を知りたいなら、解剖するしかないと思うんだけどね」
「解剖学かあ、この時代じゃなかなか難しそうだな」
「だったらさ、治すという発想を止めて、コピーしたらどうかな?」
例えば、腕を生やそうとするのなら、自分の腕を見て、同じものをそこへ複写する。
「つまるところ、人体なんて、一つ皮をむきゃ、中身はほとんど変わらないんだから」
「そいつぁ暴論だが、コピーはいい線をいっているかもな」
とりあえず解剖学の説明をして、次に人体を複写する事を提案してみる。
「エルフと言うのは恐ろしい奴らね、そんな事までしているから、他所には言えない訳ね」
何やらもっと誤解が深まったが……まあ、良しとしよう。
エルフさんはもっと頑張ってください。
そんなある日の事だった、いよいよ始めるので付き合って欲しいと言われる。
何を始められるので?
オレはアールエル王女に連れられて、とある場所へ向かう。
そこでは腕や足をなくした多くの人がベッドの上に横たわっていた。
ここに居るのはどうやら傷痍軍人、要は戦争による怪我で普通の暮らしを送れなくなった人たちの様だ。
「ルーリアが言っていた、幼い頃の私が犯した過ち、その負の遺産がココに集められているのよ」
助かる見込みのない人に回復魔法をかけ、強制的に命を長らえらせた。
中には殺してくれと懇願された人も居た。
社会復帰が困難な状況で生き残るというのが、どれほど負担になるかを考えなかった私の過ちだ。
「過ちなんかじゃ無いですよ、立派な行いです」
「いや、私はただ、彼らの苦しみを長引かせたに過ぎない」
「誰にだって苦しい時はあります、でもその先にはきっと楽しい事がありますよ」
そのために今日はここへ来たんですよね。と言って、ソッと手を取る。
なるほど、必死で勉強していたのはこのためだったか。
王女が、たかが平民にまで頭を下げて教えを乞う。
国の為に戦ってくれた人達を癒したいと本気で考えている。
ここに居る人は、確かに国の予算を食いつぶすだけの無駄飯ぐらいだと言われればそれまでだ。
彼女はそう言われながらも見捨てる事ができなかった。
戦場に呼ばれなくなったのも、それが原因なのだろう。
彼女が戦場に出れば、こういった人たちが増える。
アールエル王女はベッドに横たわっている者の中でも、もっとも酷い状況の人の場所へ向かう。
顔は潰れて、両足も無い。
目は当然見えていないし、耳も聞こえていないだろう。
こんな状況でも生かしてしまう回復魔法を、彼女は持っていた。
それは今までは確かに、負の遺産だったかもしれない。
だが、これからは違う。
きっと、彼女の最高の資産になるに違いない。
そんな願いを込めて、魔法を唱える彼女を応援する。
「アール様は一体、何をしようとしているんだ」
「いよいよ、処分する決心がついたんじゃねえか。遅すぎるほどだぜ」
「いや待て、オイオイオイ、アイツ、目が、目が開いてやがる!?」
額に脂汗を滲ませながら、魔法を使い続けるアールエル王女。
小さなその体から溢れる、どうしても助けたいんだという想い。
その想いが届いたのか、少しずつ、本当に少しずつ、失ったモノが蘇り始める。
おい、そこで見ている女たち。
あんた達はいったい何をしているんだ?
お前たちの主が必死になって行動しているのに、ただ見ているだけしかできないのか?
「そ、そんな事を言われても、一体、俺たちに何ができるって言うんだよ?」
「なんでもできるだろう? 水を用意したり、汗を拭いたり、応援するだけでも良い」
あんたらは何もできないのではない。
何もしようとしていないだけだ。
王女様は一歩を踏み出したぜ、おめえらはどうするんだ。
「あ、アール様、俺の、俺の魔力を使えませんか!?」
親衛隊の一人がそう言って前に出てくる。
すると、次々と自分も自分もと名乗り上げてくる。
「今はまだ良いわ、私が倒れそうになったらお願いするわよ」
「アール様……」
「あ、アール様、わ、私、目が、目が少しだけ見える……そんな、私、あんなひどい言葉をあなた様に投げかけたと言うのに」
良いのよ、と言って、女神の様にほほ笑む、アールエル王女。
あなたの言った事は正しかったのよ。
私には覚悟が足りていなかった。
だから、言われて当然の事だったのだから。
「そ、そんな事はないです、うっ、グスッ、本当はアール様に手を差し伸べられた時、とっても嬉しかったんです!」
周囲のベッドからもすすり泣きが聞こえる。
自分たちはバカだった、自分の不幸を幼いアール様にぶつけてしまっていた。
不幸どころかアール様に拾われて、幸運だったはずなのに。
もう一度、もう一度、起き上がる事ができるのなら、この命はアール様に捧げるようにして生きたい。
「もう大丈夫よ、私があなた達を治してあげる、何度でも、完璧に」
「「アール様……!」」
良いか皆、奇跡は起きるものじゃない、起こすものなのだ。
そしてその奇跡を起こした者こそ、ここにいる、アールエル・ヴィンなのだ。
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