第10話

 全て、とはいかないものの、スリフィが千年先の未来を知っている事、この王国がまもなく滅びそうな事を伝える。


「ふ~ん……」


 と言いながら、スリフィを値踏みするような目で見るそのエルフの女性。

 この人の名前は、ルーリア・緑。

 エルフの家名は、赤や青、緑と色を用いる。


 それは部族全体を指し、ルーリアは緑の部族の一員なのだ。


 なお、緑はエルフの中でも最大規模の部族である模様。

 何かをブツブツと呟いたかと思うと、その手に淡い光が集まる。

 それをスリフィにかざそうとした所、パキンという音と共に弾ける。


「私の鑑定魔法を拒否したわね」

「そりゃそうだよ、エルフの鑑定魔法なんて、まともに受ける奴がいるぅ?」


 まともに受けた奴がココに居るんだが、何かまずかったのか?


「ふ~ん……知っているって訳ね」

「知ってる知ってる、その時の感情はおろか、奥底に眠っている潜在的な性癖まで、ぜ~んぶ暴いちゃうんだよね」


 えっ、マジで?

 じゃあオレがこの世界の女性みたいに性欲が強い事をお見通しで?


「そこまで万能じゃないけど、それに近い事は分かるわね」


 ただ、分かっていても拒否できるような魔法じゃないんだけどね、とつぶやく。


「未来ではどこまで私たちの事がバレているのかしら?」

「千年もあれば神秘の部族もいろいろと剥がれもするってもんだよ」

「そう……」


 それ以上は言うなって目で訴えかけているようだ。

 良し、後でこっそり聞こう。

 添い寝してあげるよ、とでも言えば、簡単に口を割るに違いない。


「一番、大きな秘密はアレだね、世界樹が実はモンスターで、そのモンスターの眷属になった人間がエルフになったって件」


 だがスリフィは空気の読めない子だった。

 引きこもりだったからね。

 仕方がないね。


「あんた、命が惜しくないの?」


 ルーリアは呆れた表情でそう言う。

 そんな事を知っていると分かったら、全てのエルフから命を狙われる。と言う。

 えっ、待って、今、オレも知っちゃったんだけど!?


「未来の知識があるからね、今更だよ」

「私があなたの寝首を掻くとは考えないの?」


 ヒェっと言ってオレの後ろに隠れる。

 やっぱりコイツ、ちょっとおバカさんだよね。

 良し、オレは何も聞かなかった、うむ、好奇心は猫をも殺すと言うし、添い寝はまた今度だな。


「あっ、なんか損した気分?」

「何が? まあ良いわ、命が惜しければエルフの件は口外しない事ね」


 必死になってコクコクと頷くスリフィ。


 しかし、コレで信用はしてもらえたのかな?

 これで後顧の憂いなく、スローライフがおくれると言う物だ。

 と、思っていたのだが。


「スリフィとか言ったわね、あなた。監視が必要だから私の屋敷で暮らしなさい」


 特待生の枠もなんとかしてくれると言う。


「その代わり働いてもらうわよ、大量解雇して人手も必要になったしね」

「いやだからボクは学園には行かないって……」

「そう? それじゃ、シフだけ連れて帰るわ」


「えっ、なんて?」


 アレ?

 信じてくれたんじゃないの?

 街に戻ったらまずいんだってばよ。


「まだ5年も先の話でしょ? シフの身は私が守るわ、あなただってその話を聞いて第4王女に近づきたいとは思わないでしょ」


 そりゃ、そうだけどさ、万が一と言うのもあるし。


「第4王女とシフはどのような出会いをするか後世には残っていないの?」

「いっぱいあるよ、いっぱいありすぎて何が正しいか分からないほど」


 ただ、大抵はロマンチックな物語で、唯の平民であるシフを王女様が見初める事から始まる。

 出会い方は多数あるのだが、共通しているのは一目会った時から互いに惹かれあったと言う事らしい。

 いや、王女様とは会った事があるけど、そんな素振りは全くなかったぞ。


「シフ・ソウランが次々と国を滅ぼしていったのは、第4王女を殺した世界に復讐するためだった、なんて言う話があるぐらい」


 復讐譚かあ。

 確かにそれなら辻褄もあう。

 だが、オレが復讐のためにそこまでするかと言うと微妙な話である。


 ひたすら、生き残るためにコウモリムーブする事はあるかもしれないが。


「せめていつ会ったぐらいは残ってないの?」

「う~ん、滅亡が5年後で、戦争は2年ぐらい続いたって言ってたはずだから、結婚するのは3年後かな」

「結婚した時のシフの年齢は?」


「千年前の歴史だよ、正確なのは分からないよ。そうだね……だいたい15歳前後だと言われていたはず」


 15歳なら今から3年後だから、だいだい計算があうな。


 平民と王女様の結婚だ、そんなに長く付き合ってからゴールインと言うのはないだろうから……という事は、最低でも3年の猶予はある。

 まあ、今すぐ慌てるような話じゃないか。

 そう思い、街に戻る事に決めた。


 スリフィも嫌々ながら付いてくる事になり、暫くは学園の入学の準備とルーリアのお手伝いさんとなる。


 そして街に戻って城門をくぐった時だった。

 突然、何者かに頭の上からスッポリと袋を被される。

 そのまま、どこかへ持ち運ばられる。


 持ち運ばれた先、そこに居たのは――――――この国の第4王女、アールエル・ヴィンであった。

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