第二章 第4王女

第11話

 おいスリフィ、これのどこがロマンチックなストーリーなんだ?

 拉致されているんですけど?


「ヘッヘッヘ、言われた通り連れてきやしたぜ」

「アール様、あたい共も味見して良いっすかね」


 そう言って舌なめずりをしながらオレの方を見る、野盗の様な女性達。


「良くやったお前たち、コレをやるからどこか飲みにでも行ってろ」


 そう言って、盗賊達に袋を投げつける。

 盗賊達は、ヒャッハーと言いながら、袋から零れた銀貨を拾い集める。

 それを持って部屋を出ていく。


 部屋の中にはミノムシの様になったオレと、王女様だけが取り残される。


 16歳、にしては多少発育不足であるが、美しい金色の髪と、幼さの中にも凛とした表情を持つ。

 その王女様がオレの頭を踏みつける。


「生意気な奴め、ここまでされてもその目を止めないか……」


 いや、王女様。

 スカートの中が丸見えっすよ?

 さすがに王族ともなれば、パンツは履いているか。


 王女様は足をのけると剣を一振りする。


 すると、スッパリとオレを覆っていた袋が切れる。

 結構な腕前でございますね。

 でも、怖いんで止めてほしいっス。


 ちょっとちびった。


 王女様はオレの髪を掴むと、グイッと顔を自分の方へ向ける。

 なんか怒っています?

 オレ、何かしたっけかなあ。


「こんな目にあわされても、変わらずか……相変わらず、図太い神経をしているな」

「そんなに褒められても」

「褒めておらんわ」


 お前はいつもそうだ。


 踏まれても蹴られても、ヘラヘラと笑い、唾を吐きかけられても平気な顔をしている。

 どうしてそこまで我慢が出来るのだ。

 お前を見ていると、姉達に虐められている自分を見ている様で腹が立つ。


 などと仰る。


 いやまあ、踏まれたり蹴られたりする度に、スカートの中が丸見えなんですよ?

 しかも、ほとんどの人が履いてない。

 なんだが、こっちが悪い気がしてくるほど。


 それに美少女の唾なんてご褒美、とまでは言わないが、それほど気にする事でもない。


「これまでどこに行っていた?」

「え、えっと、出稼ぎ……?」

「金がほしいのか?」


 ええ、そりゃ、あればあるほど良い物ですし。

 王女様は机に向かい、またしても袋を取り出す。

 そしてそれをオレに投げつけて来た。


「その金をやる、平民なら一生くいっぱぐれないだろう、だからお前は働く必要はない」


 などと仰る。


 オレはその袋を開ける。

 …………金貨がギッシリ入っている。

 だが、この金貨――――――見たことのない図柄なんですが?


 エルフのルーリアの所で金貨ぐらいは見た事がある。

 そこで見た金貨と図柄が違っている。

 もしかしてコレ…………


「心配するな、今は使えないが、もうすぐ使えるようになる」


 ヒェッ。


 おいスリフィ、どいう事だコレ?

 たぶんコレ――――――帝国金貨だろ。

 もうすでに第4王女と帝国はずっぽりって事じゃねえか!


 あと5年あるんじゃなかったんかよ。


 そういやアイツ、歴史が苦手とか、たぶん、とか言っていたな。

 千年のうちの数年など誤差程度かも知れないが、今の数年の誤差は致命的だぞ。

 お空の向こうにテヘッとか言っているスリフィの顔が思い浮かぶ。


 テヘッじゃ済まねぇええんだよぉおお!


「どうしてこのような大金をくれるのですか?」

「…………そうだな、お前は今日から、うちの騎士団の飯焚き係だ」


 まるで今考えたかのようなそぶりで、そう言ってくる。

 働かなくても良いんじゃなかったの?

 あと、騎士団なんて持っていましたっけ?


 第4王女が騎士団を引連れていた時など見た事がない。


 近くに居るのは、先ほどの様な盗賊みたいなゴロツキばかり。

 ん? …………まさか、先ほどのゴロツキが?

 いや、まさかな、この世界で騎士と言えば誰もが憧れる花形の職業だ。


 それがあんな盗賊まがいな事をするはずが……


「そうだ、アレが私の騎士団だ」

「うっそでしょう?」

「残念だが本当の話だ」


 自分はいつも、上の姉たちの要らないモノばかりを押し付けられる。


 騎士だって同じだ。

 どこかで問題を起こした奴。

 騎士としては品性に問題がある奴。


 元はゴロツキだが、武功を上げたせいでしかたなく騎士に任命せざるを得なかった奴。


「男、子供を攫って来いと言えば、嬉々として行い、さらに味見を迫って来るクソの様な連中。それが私の親衛隊だ」


 まさか、本当に攫ってくるとは思わなかった、とつぶやいている。

 背の低い王女様が、さらに小さくなっていじけている。

 このお方も苦労されているご様子。


「まあ、嫌なら構わん、その金貨は慰謝料だ、とっておけ」


 とっておけ、と言われましても、こんな危ない代物、持っていたくないんですが。


 とりあえずその金貨が入っている袋を拾い上げて立ち上がる。

 なにやらおなかのあたりがズキッとする。

 かなり乱暴に運ばれたからなあ。


「どうした、もしかして、奴らに乱暴でもされたのか?」


 オレがおなかをさすっていると、心配そうな表情でそう聞いてくる。

 この人も、悪い人ではなさそうだな。

 環境が彼女を悪者に仕立て上げている。


 そんな気がする。


「いえ、運ばれてる時にお腹が肩にあたっていたものでして」


 俵の様に担がれていたからな。


 アイツ等は紳士の扱い方も知らんのか?

 まあ、知らんのだろうなあ。

 中には本当に盗賊だった奴も居るしなあ……


 とブツブツ呟きながらオレのお腹に手を当てる。


『パーフェクト・ヒール』


 王女様が呪文を唱え終わると同時、手を当てた部分だけでなく、オレの全身が光る。


 フオッ!?

 パーフェクト・ヒールって、回復魔法の最上級じゃないか?

 確か、これを使えるのは国でも数人しかいないと聞いた。


 その一人が、この王女様だったのか!?

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