第35話 スター平民生徒

「テメェ……それで勝ったつもりか、口先だけの優男が……」


 貴族科生徒が、腰の剣に手をかけた。

 それを見咎めるや否や、クラウスは好機とばかりに口を開いた。


「決闘なら受けてあげてもいいけど、平民の僕に負けたら恥をかくのは君らじゃないかな?」

「なんだと!? は?」


 貴族科生徒が剣を抜いて、目を丸くした。

 剣身が無い。

 グリップだけを握りしめ、まばたきをしている。

 一方で、クラウスはクールに剣を収め終えていた。


「ごめんよ、抜くのが遅過ぎてヒマだったんだ」


 貴族科生徒が鞘を傾けると、中から切れた剣身が落ちてきた。


「う、うそだろ? 一年生がなんでこんな……」

「学年は関係ないよ。それより決闘はどうする? レベル十五で魔法剣士スキル持ちの僕に勝つ自信があるならどうぞ。いつでも挑戦を受けるよ!」


 魔法剣士。

 魔法と剣術、両方に高い技量を発揮できる、超攻撃的なレアスキルだ。

 しかも十五レベル。


 きっと、箱入り息子娘の貴族生徒と違い、学園に入学する前から野生の魔獣相手に戦い続けてきたに違いない。


 ――昨日聞いたら、ハロウィーもレベル六だったしな。


 害獣駆除で弓を引き続けてきたのはダテではない。


「ッッ、バッカじゃねぇの。オレら貴族がテメェら平民なんかと決闘すると思っているのかよ!」

「貴族の神聖な決闘を平民如きができると思うなよ!」


 あまりに情けない捨て台詞を吐いてから舌打ちをして、二人はすごすごと立ち去った。


 一部始終を見届けていた、他の平民科の生徒たちは歓声を上げ、拍手をする生徒までいた。


「すげぇ、クラウスの野郎、貴族科の生徒をやっつけちまったぜ」

「当然でしょ。クラウス君だもん」

「身分に胡坐をかいている連中とは違うよなぁ」


 一方で、カフェにいた貴族科の生徒たちは苛立ち始めている。


 ――あの平民科の生徒、八つ当たりでいじめられないかな?


 と、思った矢先、クラウスは平民科生徒と同じテーブルに座った。


「見ていたよ、君の反論。貴族相手に立派だった。良かったら友達にならないかい? とりあえず放課後、部屋でお茶でも飲みながらダンジョンの戦術議論でもしようか。一緒に強くなろうよ」

「お、おう!」


 アフターフォローも完璧だった。


 ――やっぱりクラウスってかっこいいな。


 正直、素直に憧れる。


「ふむ、見せ場を取られてしまったがいいだろう。あの少年が助かって何よりだ」


 同じ貴族科なのに、ノエルは気にした風もなかった。

 こういう良いことを良いと言える素直さが素敵だと思う。

 そしてノエルはテーブルの上のイチゴーを抱き寄せ、俺の隣の席に座った。


 ――さりげなくイチゴーをキープしている。やるな。


 次の瞬間、クラウスの視線が俺に向き直った。


「?」


 彼は席から立つと、衆人環視の前で真っ直ぐこちらに歩み寄ってきた。


 ――なんだ? ハロウィー、それともノエルに用か?


 けれど、クラウスはノエルの横に立って、俺を見下ろしてきた。

「ラビ、明日、僕らと君のクラスでダンジョン訓練があるよね? その時、チームを組まないかい?」


 突然の申し出に、俺は唖然。

 周囲からはひそひそ話が立ち始めた。


「なんでクラウス君が元貴族なんかと?」

「いや、だからこそか?」

「でも今は平民なんでしょ?」

「もしかしてラビのやつ、強いのか?」


 誰も彼もが俺らに注目して声を潜める。

 おかげで、カフェはしんと静まり返っていた。

 俺は単刀直入に聞いた。


「なんでだ? 俺と組むメリットないだろ?」


 俺の問いかけに、クラウスは涼やかに微笑んだ。


「そんなことはないよ、それに僕は君に興味がある。それだけじゃ駄目かな?」


 声を潜めない、自信に満ちたはっきりとした声は、しんと静まり返ったカフェの生徒全員に聞こえただろう。


 平民のスター生徒が俺に興味を持っている。


 そのことに、またもカフェはざわついた。


 俺の心もざわついた。

 前世の記憶があるせいで、もしかしてクラウスも異世界転生者なのかと疑った。

 でも、それは杞憂だったらしい。


「君、強いらしいね。昨日の活躍は聞いているよ」


 ハロウィーを助けた話のことだろう。

 クラウスの耳にどう入ったのか知らないけれど、少なくともこいつは好意的に解釈してくれたらしい。


 それと、あの男子生徒五人は一週間の謹慎処分になっている。

 甘過ぎる気もするけど、俺とハロウィーが無傷だったので、未遂として処理されたらしい。


「それでどうかな? 僕としては、ゴーレム使いとしての君に興味があるんだけど?」


 正直、少し悩んだ。

 何せ断る理由が無い。


 クラウスの人柄は良さそうだ。俺を元貴族だからと差別はしないだろう。

 戦力としても申し分ない。


 それに平民科生徒の憧れであるクラウスの仲間になれば、俺やハロウィーへの風当たりも変わるはずだ。


 ハロウィーの安全を確保できるのは大きい。

 けど、すぐには返答できなかった。


「悪いけど、俺の一存じゃ決められないな。もう組んでいる仲間がいるんだ。仲間の許可も取らないと。誘ってくれてありがとう」


 そう言って、俺は残りの紅茶を飲み干して席を立った。

 ハロウィーも紅茶を飲んで席を立つ。


 ノエルも、それに続いた。

 三人とも、ゴーレムを抱えたままだった。



 俺がカフェを出て平民科校舎に入って少し歩くと、ハロウィーが声をかけてきた。


「ラビ、わたしはここにいるのにどうしてあんなこと言ったの?」


 首をかしげるハロウィーに、俺は説明した。


「あの場じゃ断りにくいだろ?」

「え?」


「本当は嫌でも、相手は平民科スター生徒のクラウスだ。断りにくいじゃないか。ましてみんなの見ている前だ。せっかくクラウス君が誘ってくれたのに生意気だ、なんて思われたらハロウィーが困ると思ったんだよ」


 ハロウィーは全てを察したようにまばたきをしてから、ほにゃっと笑ってくれた。


「ありがとう。ラビって優しいよね」

「優しいっていうか、経験値だな」

「……ラビ、変わったな」


 探偵のように鋭い視線で、ノエルが呟いた。


「変わった? あー、僕じゃなくて俺のことか?」


 前は貴族っぽく自分のことを僕なんて言っていたけれど、前世の記憶を思い出した今は、俺のほうが性に合っている。


「それもそうだし、ラビが優しく公平で側にいて癒されるのは私も同意だ」


 ――そこまでは言ってないと思うんだけど?


「だが今回のように、理論立てた感じではなかったように思う。前はもっとこう、可哀想だったからとか、感情的に動いていただろう」


 言われてみればそんな気がする。

 自律型ゴーレム生成スキルと一緒に前世の記憶を得てから、妙に理屈っぽい。


「ゴーレムが魔獣型っていうだけで追放されたおかげだよ。苦労は人を成長させるのさ」


 と、自嘲気味に誤魔化した。


 前世の記憶については、おいおい話していこうと思う。


「そうか、じゃあ私は一度寮に戻るからまた後で話そう」

「わたしも一度女子寮に戻るね」

「その前にゴーレムを置いていけ」


 二人はかわいく舌打ちをした。

 同じ舌打ちでも、さっきの貴族科生徒とは雲泥以上の差があった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

思い出

スーパーファミコンゲームのクロノトリガーに出てくるロボが可愛いです。

ダンジョンを走るときのSDデザインで走っている姿が凄くかわいい。

農作業するイベントがあるんですけど農作業の姿がひたすら可愛かった。

ロボいいよねロボ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る