第22話 ゴーレムと水遊び
――一対一じゃ勝てない。多人数の利を活かせ。それにハチの弱点は……よし!
俺は慌てず的確に素早く作戦を完成させて声を張り上げた。
「円陣を組んでクイーンを囲め! 全方位から一斉に飛び掛かるんだ!」
『わかったー』
イチゴーたちは横一列をやめて、ぐるりとクイーンを取り囲むや否や、同時に飛び掛かった。
案の定、六本の足とオオアゴが三人のゴーレムを弾き飛ばす。
それでも背後の二人はクイーンの背中に張り付けた。
「二人で同じ翅を攻撃だ!」
虫の弱点である薄くて脆い翅に、二人がかりで攻撃する。
たまらず、クイーンは体を揺すって振り落とそうとするもゴーレムたちは離れない。
前足は空をかくばかりだった。
当然だが、ほとんどの昆虫の足は背中には届かない。
そして背中に気を取られている間に、ヨンゴーがサンゴーを持ち上げた。
『くらうっす! サンゴーロケット!』
『なのだぁ』
ヨンゴーがサンゴーをぶん投げた。
サンゴーは丸い体をさらに丸めて文字通り、ロケット弾となりクイーンの顔面、それも右の複眼に直撃した。
「■■!」
たまらずクイーンはよろめき、高度ががくんと落ちた。
その隙を見逃さず、弾かれた三人がクイーンに襲い掛かる。
仕方なく、クイーンは羽ばたき空へ逃げようとするも無理だった。
四枚の翅のうちの一枚に二人のゴーレムが攻撃している。
まともに動かせず高度が上がらない。
その間に三人のゴーレムが一人、また一人と背中によじ登り、ついにクイーンは墜落。
五人のゴーレムがクイーンの背中をメッタ打ちにしていく。
ここまで来れば、あとは単なる消化試合だ。
地面でもがくクイーンの反応が徐々に弱くなり、やがて動かなくなり、ついには消滅。
ストレージにクイーンの素材が入った。
「よっしゃぁ!」
思わず、俺はガッツポーズを取っていた。
イチゴーたちも、くるくるころころと可愛く勝利のダンスを踊っている。
その姿は、レトロゲームのボス戦後を思わせてくれた。
「みんなよくやったぞ! そうだニゴー。確かケガしたんだよな?」
慌ててニゴーを探すと、ニゴーは平然と胸を張った。
『けいしょう』
「それでもケガはケガだろ?」
俺はゴーレム生成スキルで、ニゴーのボディを生成しなおした。
神託スキルやストレージスキルとは違い、ゴーレム生成スキルには魔力を使う。
生成と同じで復元にも結構な魔力を使うけれど惜しくはない。
『かんしゃ』
誇らしげに復元された体をみんなに見せつけるニゴーの姿に胸をなで下ろしてから、俺はマーダー・ホーネットの巣に近づいた。
せっかくなので、巣をまるごとストレージに入れておく。
すると、大量の蜂蜜が手に入った。
きっと、アルラウネから搾り取ったものだろう。
生前のネット情報だけど、花の蜜と蜂蜜は別物らしい。
ハチが花の蜜を吸い、体内の酵素を加えて吐き出したものが蜂蜜とのこと。
さっそく、ストレージからちょっとだけ手に取りなめてみると、極上の甘味だった。
――これはこれで高く売れそうだな。でも今は。
手に入れた素材一覧をあらためて確認した。
そして落胆する。
新スキルを使用可能にする素材である証の【!】マークがついていない。
どうやら、マーダー・ホーネットは再構築スキルに必要な素材ではなかったようだ。
自然と肩が落ちた。
「空振りかぁ……」
神託スキルの性能では、巣作りが上手な魔獣以上のことはわからない。
ハチがダメなら、一体何が正解なのか、首をひねって悩んだ。
――待てよ。そもそも都合よくこんな近場に素材が揃っているかどうかもわからないよな。
もしかして派生スキルを全て使用可能にするには、世界中を旅して回らないといけないのか。
そんな予感にますます気が重くなってうつむいた。
視界を下げたおかげで、イチゴーたちの格好に気が付いた。
みんな、今の戦いで土砂まみれ、草まみれだ。
体の色もあいまって、泥遊びをしたねずみのようだ。
「一度体を洗うか。イチゴー、一番近くの水場まで案内してくれ」
『わかったー』
イチゴーを先頭に、ニゴーたちもちょこちょこと後を追った。
さらにそのうしろを、俺がすたすたとついていく。
こうしていると、まるで海へ遊びに行く子供たちの保護者気分だ。
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ちっちゃくで丸いゴーレムたちがよちよちもちもち自分の周りを歩いている。早くそんな生活がしたいです。
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