第21話 司令官は君だ!
巣の味方に敵や獲物の場所を教える死の舞踏だ。
――ゴゴォオオオオオオオオオオオ!
心の中で絶叫しながら俺はみんなに指示を飛ばした。
「こうなったら作戦変更だ! 全員、ゴゴーを救出するんだ!」
イチゴーたちがわらわらと駆け出す中、ただ一人、ヨンゴーだけが立ち止まって振り返った。
『ところでマスター。ゴゴーをきゅうしゅつするのはいいが、あいつらをたおしてしまってもかまわないっすか?』
「え? お前そんな英霊並みにカッコイイ台詞どこで覚えたんだ?」
俺の返事も聞かず、ヨンゴーは駆け出した。
情けない話だけど、俺は木の陰に隠れながら、みんなの無事を祈った。
巣の中から出てくる無数のマーダー・ホーネット。
対するこちらはゴゴーを含めて五人。
けれど、戦力差は数だけでは決まらない。
「おぉー」
イチゴーの拳が、マーダー・ホーネットの甲殻を砕いた。
ニゴーのラリアットが、マーダー・ホーネットのオオアゴを払い飛ばした。
サンゴーのボディプレスが、マーダー・ホーネットを地面に叩き落とした。
ヨンゴーにマーダー・ホーネットの針が直撃するも、逆に針のほうが曲がった。
数とはうらはらに、かなり善戦している。
むしろ、楽勝ムードすら漂っていた。
俺の装備品扱いであるゴーレムにはレベルが無いからわかりにくいけど、みんなのスペックは俺よりも高い。
特に、レア素材を集中しているイチゴーは、王立学園高等部一年生のスペックを明らかに超えている。
――ハチも結構強いはずだけど、この分なら勝てそうだな。
淡い期待に俺が胸を躍らせた時、ゴゴーが華麗に空を飛んだ。
背中には、マーダー・ホーネットが張り付いている。
「いやさらわれている!?」
『そうなのだぁ』
サンゴーがのんびりと同意しながら、見上げている。
――こいつもマイペースだな。
と思ったけど足元にはマーダー・ホーネットの死体が転がっている。
——やることはやっているんだな。
『わーい、とんでるー』
呑気に喜ぶゴゴーを助けるため、ヨンゴーが動いた。
『ニゴー、じぶんをふみだいにするっす』
『りょうかい』
ヨンゴーがジャンプ。
さらにニゴーが大ジャンプして、ヨンゴーの頭を踏み台にして二段ジャンプ。
マーダー・ホーネットの背中に飛び乗ると、左右の複眼を叩き潰した。
「■■」
声に代わってギチギチという甲殻が軋む音と羽音を鳴らして墜落。
ゴゴーも地面にぽてんと落ちた。
『ゴゴーだいじょうぶー?』
『たのしかったー』
イチゴーとゴゴーが、ぽよんとお腹を打ち合わせた。緊張感が無いにも程がある。
その間も、ニゴーはまさに一騎当千、獅子奮迅の働きでマーダー・ホーネットたちを駆逐していた。
ただし、数体倒すごとに俺のことをチラ見してくる。
まるで、運動会で親の目を気にする子供のようだ。かわいい。
『ふふふ、流石はニゴー。圧倒的じゃないか、我が軍はっす』
ヨンゴーは全身をかじられていた。
ヨンゴーに群がるマーダー・ホーネットを、サンゴーがどつきまわす。
――いやヨンゴー、お前も同じスペックだろ。
などと俺がツッコむ間にも、リザルト画面が止まらない。
マーダー・ホーネットは絶命した個体から順に俺のストレージに入るので、現場は実に綺麗なものだった。
それでも、ストレージの素材量を確認すれば、討伐数は一目瞭然だ。
イチゴーたちだけで、もう一〇〇体以上のマーダー・ホーネットを駆逐している。
おかげで、俺のレベルも一つ上がった。
「なんか楽勝ペースだな」
それがフラグだったのか、俺が緊張の糸を緩めた瞬間、巣がざわめいた。
みしみしと音を鳴らしながら、中で何かが這いずるような、不気味な音が漏れ出てくる。
それでまさかと、俺は最悪の事態を想定した。
マーダー・ホーネットはハチ型魔獣だ。
その生態は、ハチに限りなく酷似している。
イチゴーたちが倒しているのは働きバチ。
ならいるはずだ。
こいつら全員を統率している、こいつらの何倍も大きなクイーンが。
「■■■■!」
巣穴を引き裂くように木片が飛び散った。
中から現れたのは、大型犬どころかクマのように巨大なハチ型の魔獣だった。
六本の足の先には五指を思わせるような鋭利なカギヅメが輝き、四枚の翅を左右に広げる姿は悪魔を彷彿とさせた。
クイーンが巣立ち、弾丸のように飛んできた。
巨大なアゴが地面を穿ち、轟音と共に土砂を撥ね上げる。
間一髪、難を逃れたイチゴーたちが、ころころと地面を転がった。
「ッ」
反射的に木の陰から飛び出そうとして、踏みとどまる。
――俺に何ができる?
俺の役割は前線で戦うことじゃない。
俺はその場の状況を分析して、イチゴーたちに出すべき指示を模索した。
クイーンは地面から顔を引き抜き、兵隊たちを駆逐した憎き外敵を睨みつけた。
一切の感情を排した、昆虫の複眼故の威圧感に、俺は心臓が固く締め付けられるような感覚を味わった。
『ひかない』
ニゴーが果敢に立ち向かい、拳を振るった。
けれど、クイーンは避けるどころか、むしろ頭を突き出してきた。
ニゴーの拳がクイーンの額にクリティカルヒット。
なのに、クイーンは微動だにせずニゴーの体が浮かされた。
『ばかな』
クイーンが前足を振り下ろした。
カギヅメがニゴーを弾き飛ばす。
ニゴーは着地もできずに地面を二度跳ねてから止まるも、その体に五本の削り跡が刻まれていた。
「ニゴー!」
『ふかく』
『みんな、ますたーをまもるよ』
声を出してしまったせいだろう。
俺の存在に気づいたクイーンの視線がこちらを捉えた。
それをさせまいと、イチゴーたちは横一列になって立ちふさがる。
なんてけなげな子たちだろう。
イチゴーたちの献身が俺の頭を冷やし、冷静になれた。
――一対一じゃ勝てない。多人数の利を活かせ。それにハチの弱点は……よし!
俺は慌てず的確に素早く作戦を完成させて声を張り上げた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
司令官は君だ。昔スーパーロボット大戦スクランブルコマンダーのCMで流れたセリフですね。いいですね。私はスクランブルコマンダー好きですよ。第08MS小隊とエヴァが両方出る貴重な作品です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます