第7話 邪竜討伐
俺の挑発をトリガーに男が向かってきた。仲間の冒険者たちを集めてくれたガノン。彼には感謝しているが、ここは負けられない。邪竜のことは置いておくにしても、このままではそのうちに冒険者がその意味をなさなくなる。ここで、だれかが彼らの意識を変えなければならない。突っ込んできたガノンを攻撃の手前で躱し、彼の横をとる。すぐさま攻撃に転じ、狙うは彼の右手。木刀を持つ手を強打することで、木刀を手放させる。
「はあ。」
俺の一撃はすんでのところで彼の木刀で合わせられる。簡単にはいかないか。その後も彼のラッシュをさばきつつ、機会をうかがう。この戦法は数相手には正直辛いが、初戦は特に慎重にいかねば。
「はあ。くそ、この。」
彼の剣戟をさばき続けるとだんだんと隙が見えてくる。彼の呼吸がズレた所と、俺の一撃が入る明確なタイミングを待つ。
「ここだ。」
俺の剣はガノンの防御をかいくぐり、彼の心臓を捉えた。
「終わりだ。」
「くそっ。まだだ。まだみんながいる。」
その後も街の冒険者たちを相手しながら俺も警察官時代の剣道の感覚を取り戻していった。この場の全員を倒したころにはもうみんなの気力がなくなっていた。
「これで全員だ。まだ俺を口先だけの男だって言いたいやつは?」
「もう、あんたが強いってことは十分わかったよ。でも、俺たちはやっぱりあの邪竜に勝てるとは思えない。悪いが、あんたと一緒には行けない。」
「それは別に構わない。今すぐついてこいなんて言わないさ。ただ、誰もが誰かに頼っている状態では、何も成し遂げられないって思っただけだ。だからこうやって、荒療治に出させてもらったんだ。俺自身も実戦の感覚を取り戻せたし良かったよ。ありがとう。」
「俺たちはお礼を言ってもらえる立場じゃ。俺たちの方こそ礼を言わなければならねぇ。今日はありがとう。俺たちも強くなるよ。」
「ああ、楽しみにしてるよ。」
冒険者たちとひと悶着あった夜、俺は宿で一人、邪竜対策を練っていた。現状、俺一人とはいえ、やはりこの好機を逃すわけにはいかない。倒せなくとも様子見くらいはしておくべきだ。さらに倒せればなお良し、最悪俺になにかあっても彼らがいる。彼らならばきっと強くなってくれる。邪竜のダメージの程は分からないが、俺の剣がどこまで通用するだろうか。カノンさんの説明によると俺の剣は短い時間に鋭い攻撃を連続で入れることに長けているらしい。そこを最大限に伸ばした戦術を軸に考えるべきか。情報不足のなかでは苦手を補うよりも得意を伸ばす方が戦いやすい。作戦を固め、明日を待つ。夜が明ければ、アイテムを購入し、さっそく邪竜討伐にでる。
朝、予定通りアイテムを仕入れ邪竜討伐へと向かう、ギルドの方には猛反対されるだろうからこれは俺の独断で行っている。昨日、冒険者たちから集めた情報で邪竜の位置は分かっている。いくら強いとはいえワンパーティーで、しかも一人を庇いながら戦って、追い込めたということからも手負いの今、俺一人でも勝算は十二分にある。邪竜がいるという洞窟に到着し、奥へと進む。道中に敵がいるものと思っていたが、中には驚くほど何もない。あれだけの強大な敵がいるというのにどういうことか。考えても答えは出ないので、ひとまず気にせず進んで行く。しばらく行くと細い道から広い空間にでた。目の前にいるのは巨大な竜。黒い体に大きな翼、太い足に鋭い爪が怪しく光る。よく見ると体のいたるところに傷がついているのがみえる。さらに竜の後ろには剣や盾、杖などが散乱している。おそらくあの武器は話にでてきた勇者たちの物だろう。見つけられたのは武器やかばんなどだけで人の気配は皆無だ。
「まあ、そうだよな。」
目の前の敵、散乱している武器、飛び込んでくる情報がここは戦場だと告げている。強力な武器を持っているとはいえ、いきなりこんな所に放り込まれたら現代人はまず固まってしまうだろうと実感する。警察官といえど、しがない交番勤務の俺もこうして覚悟を持ってこなければ何もできず、ただ殺されていただろう。
「でも、やっぱり今の内しかないよな。」
邪竜のうろこの一枚一枚が確認できるほど近づいても未だ向こうが気付く気配はない。傷の具合からして少しの攻撃でも致命傷にできるはずだ。覚悟を決め、攻撃体制をとる。勝負は一瞬で決まる。やるか、やられるか。
「いくぞ。」
街に帰ると、大騒ぎになっていた。俺が見当たらないのが気になって、冒険者たちが探し回っていたらしい。昨日の今日で、邪竜のもとへ向かっていることに気が付かれていたのだった。みんなから盛大に怒られた後、ギルドで今回の成果を伝えた。自分で言うのもなんだが事の大きさにみんな理解が追いついていない様子で、俺が話し終わってからしばらくしてやっと歓声が上がった。そう、邪竜との闘いは実にあっけなく終わった。狙いを定めた俺の連撃が全て邪竜の頭に命中し邪竜を絶命させるに至った。ギルドからの報酬で冒険者のみんなと打ち上げを行い、俺の剣は勝利の記念としてギルドに飾られることになった。再び、脅威が訪れた時に活躍してくれるときまでしばし休んでもらおう。
「おつかれだったな。ほんとうに大したものだぜ。」
「ありがとう。今度は一緒に戦おうな。」
「ああ、ぜひともよろしく頼むぜ。」
昨日はぎくしゃくしていたとは思えないほど、冒険者たちと打ち解けたものだ。異世界に飛ばされてから、事故に遭ってからの寂しさが薄れていく。色々あったがこれからは新たな仲間とともに切磋琢磨していくことだろう。これからのことに思いをはせていたその時、世界が文字通り音を立てて崩れていった。
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