第15話 『点火スイッチ』
「これを押すとじゃな」
「え? 押シチゃッタ?」
ドク博士は、誰も(助手くんしかいませんが)何も言っていないのに、突然導火線の点火スイッチを押すと、平然とした顔でその指先を、床に放り出されたように『の』の字に置かれた導火線の先端を見るように促します。
助手くんは、促されるままに導火線の先端に視線を移すと、そこには命を吹き込まれた炎が、通って来た道を灰という形で遺し、ゆっくりとこちらに近づいて来る様子が見えました。
……簡単に言うと、導火線に点火された炎が線を燃やし、床に炭を残しながらタイムマシンに近づいている……と、言う事です。
「アノ導火線、博士の事だかラ、手動デ点火するモノダと思ってマシた」
助手くんの、その言葉を聞いたドク博士は、右腕を曲げ、『何を言っとる』といった感じでこう返します。
「あんな太い導火線、手動で点火出来る訳あるまい」
事実、導火線はドク博士の腰から頭のてっぺん、上半身ほどの大きさがありました。助手くんは、導火線を燃やし、少しずつタイムマシンに近づいて来る炎を見つめながら
「デも、博士なら、ヤリカねないんデスヨね〜。変な発明品トカで」
と、思いましたが声には出しませんでした。
その炎に指を差したまま、ドク博士はこう言います。
「良いか? あの炎がタイムマシン本体に到達すると、装置が作動する」
『作動する』と言う言葉を聞いた瞬間、助手くんの脳回路には、当たり前でありながら、想像し得る、最悪の映像が見えました。それは、地獄絵図と言っても良いかもしれません。
しかし、もしかしたら、それは自分の思い違いかもしれない。ドク博士の事だから、ごく普通の事は起きない。そう信じて、助手くんは口を開きました。
「アノ……博士。タイムマシンが作動スルと、一体どうなるのデスカ?」
「うむ……それは、な……」
ドク博士は、右手を口元に添え『こほん』と軽く咳払いをすると、一呼吸置き、こう叫びました。
「この、タイムマシンが大爆発するのじゃ! 粉々にな!」
「デスよね〜♪」
助手くんは、天井に向かって自信満々に右手をつきあげるドク博士から反発するように、背中を仰け反らせました。
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