第3話 疑惑の目

友人Aと女子Aの距離が遠のいて後のこと。俺は友人Aと飲んだ帰り、彼のアパートに泊まることになった。友人Aがシャワーを浴びている時、俺はデスクの上の本立てに、何冊ものノートが並んでいるのが目についた。一冊を適当に手に取って、開いてみた。


パラパラとページを流していると、何ページかに一ページ程の割合で最上部に「年上のお姉さんに手ほどきされて」「女上司に認められた夜に」などの一文。パラパラを止めて本文を飛び飛びに眺めると、「ふいに二人っきりになって」「たまたま点けたTVでは大人のシーンが流れていて」や二人の人間が抱き合うような絵、あちこちをつなぐ矢印などなど。それらを見た俺はピンときた、アダルトビデオのシナリオだ。


俺は、興味が有ったわけではないものの、友人Aの部屋を探ってみた。


(友人Aは、部屋を探られて怒るタイプではないし、探られてまずいものがあるなら、俺を一人にしてシャワーを浴びないタイプと思う。もちろん、勝手に他人の部屋を探るのは良くないけど。)


クローゼットを開けた時に、段ボール箱を見つけた。蓋はガムテープ等で閉じられていないため中を覗くと、大量のエロDVDだった。パッケージを見ると、「女上司もの」や「お姉さんもの」「社長の奥さんもの」等、当時大学生である友人Aにとって年上女性ものが多かった。


もしかして。女子Aが友人Aを嫌った理由は、エロ小説を作っていることもさることながら、年上女性へ憧れていると知ったため?


そう納得してまたデスクに着いた俺だが、アダルトシナリオと思しきノートの隣にHPの作り方やネットビジネスに関する書籍もちらほらと有ることに気が付いた。友人Aは東アジア史を専攻していたし、俺が思うに自身の興味がないと動かない性格だ。よって、友人Aにとって、ネットやビジネス等に興味を持つ何かが有ったはずだ。この時、その理由までは分からなかった。




大学を卒業した友人Aは、大学院に通うことに。専攻は商学だ。俺も同じく大学院に進学した。大学院在学中の俺は、研究者になるんだという志を前面に出して、努力した。成果を認められることも有り、予想とは違う実験結果のために予定していた論文を取りやめる憂き目も有り、国家資格の取得に励んだ時間有りなどなど、六年間はあっと言う間に過ぎた。そして、某Fラン大学での講師の地位を手に。同時に、友人Aも、同じ大学で講師になった。その大学は経営拡大の方針からさまざま学部で教員を増員していたので、進路の一致しやすさは有ったかもしれない。


講師になって後、友人Aと交流を続けつつ一年間程経つ現在。その間、講師Aの研究テーマは「個人自営業とインターネットメディアの戦略」ということも知った。


俺の推測だが、友人Aは自身の書いたエロ小説で収益を得るためにあれこれ情報収集や試行錯誤等している内に、エロ小説を個人でネット販売するに至りさらに成功、そしてその実績やノウハウをもとに商学の論文を作成、実践も強味の一つに大学講師に採用されたりしたのではないか?ただす、「エロ小説の販売方法」なんて論文を書くわけにはいかずに、「個人自営業とネットメディア」等オブラートな表現を用いたのでは?


もっと言うと、現在もエロ小説を書いて売っていると思う。良い循環だからね。好きなエロ小説を作成する→ネットを通じてエロ小説を売る→商学の講師として良いデータを得られるため研究も調子良い→エロ小説を作成→…。




ここまで考えた俺は、改めて目の前のパソコンに目を移す。画面に表示されているのは、「情事専門探偵Aの気まぐれ日記」というサイトだ(上に述べたように友人AのPCのwordを起動してアダルトシナリオと思しき一文をコピぺしてネット検索した)。


オリジナルエロ小説、おすすめエロ動画、風俗店の口コミまとめ、浮気の多い職業やら男女でどんな風に恋愛観は違うのかとった眉唾の論説文などなどを掲載するサイト。


適当に短編エロ小説を読んでみると、マニアックなエロシーン満載のものだ。文末に、アクセス意欲を高める一文とともに以上のような性向の風俗店を紹介するページへのリンクが張ってある。アクセスすると、そこからは有料だった。他にも、有料エロ小説や本文途中のアフィリエイトリンクなどなど収益の仕掛けはさまざま有った。


やはり友人Aはエロ小説を販売していた。おそらくは「個人自営業とインターネットメディアの戦略」はエロ小説によるノウハウだ。学生たちは、エロ小説ノウハウを学んでいるようだ、「エロ小説」の部分は覆われた上で。日常に潜む、或る意味で怖い話と言えるかもしれない。


俺は、クリックを繰り返してサイトから離れると、インターネット検索履歴を削除してwordアプリを閉じて、パソコンをシャットダウンする。画面が真っ暗になったことを確認。その画面に映る俺の顔を見ながら、俺自身を顧みた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る