第7話 命の恩人に対するお礼
「今日は大変だったな」
今日は大変だった。
昨日のことがかなりバズっていたようで、クラスメイト──特に甲斐、紀伊、京の三人組から質問攻めにあったし、どこから電話番号を入手したのか、わからないが攻略者団体やダンジョン配信事務所からスマホにひっきりなしにメッセージが届いた。
それに加え、昨日地上に出てからずっとザキが「一人だけ逃げてごめん」と言ってずっと謝り続けてくるのだ。
義理堅い性格が災いして、気にするなと言っても「いや、それでは俺の気がすまないから」と言って聞かないからな。
謝れられるこちらとしては気疲れしてしょうがない。
『天野善斗
年齢:15
レベル350
HP:1922700
MP:214500
攻撃:1922700
防御;1922700
気力;♾️
早さ:214500
賢さ:1922700
スキル
ロボット召喚 LV100』
しかもステータスが爆増している。
見る限りスキルレベルが前回の二倍に伸びているのがステータスが増えた原因ぽいが。
スキルの解除はできないということで家に置いてきたバビロンが一体何をしているのか、気になってしょうがない。
俺の家を機甲要塞に改造したりしてないよな。
「お前の好きなラーメンか、銭湯奢ってやるよ」
「うるせーな。今日のお前とは行きたくない。ダンジョン攻略部の見学はいいのかよ」
「部活見学は1週間あるから1日くらい大丈夫だ。それに所属しても大会があるまではパーティー組んで経験値が分散しないように基本ソロだからな。正直所属しなくても大した変わらない。 うん、なんだあれ?」
ザキの誘いを断っていると、校門の前にリムジンが止まっているのが見えた。
俺らが確認するとリムジンの方でも動きがあり、執事のような人たちが車から出てきて後部座席のドアを開け始めた。
見慣れぬ光景に足を止めて見入っていると、サングラスをかけたハリウッド俳優みたいなスーツ姿の男の人と、キャスケット帽を被った女子高生が現れた。
「先日は娘が助けてもらったようでお礼がしたくてね。電話は繋がらなかったから一応メッセージで旨を送ったんだが見てもらえたかな」
サングラスを取るとこちらに向けてそう語りかけてくる。
ナイスミドルで所作が洗練されているから映画のワンシーンみたいだな。
「あ、昨日のダンジョンの件か。俺は邪魔そうだな。じゃあ、また明日」
「いや君にも用があるんだ。そのまま居てくれるかな」
「え」
ザキも関わるとはなんだろうか。
胡散臭いな。
娘さんとも見た感じ、昨日いた人々の中で見たような気がしないし。
実はこの人、特撮映画監督で巨大ロボ役にバビロンを使った超低予算映画をイケメンザキを主役にやりたいとでも思っているのだろうか。
「あの、すいません。助けてもらったていう娘さんなんですけど、昨日あった人でいた覚えがないんですけど」
嘘をつかれるのもあまりいい気がしないのでナイスミドルに突っ込む。
「ああ、配信の姿しか見てなかったね。そういえば。シラメ改めて自己紹介して差し上げろ」
苦笑するとナイスミドルは娘さんにそう語りかけ、娘さんが帽子を脱ぐ。
ネコミミ……。
まさか。
「改めまして、天野さん、稀崎さん。シャムにゃんこと神薙学園二年の猫屋敷白夢です」
「シャムにゃん……?」
名乗られはしたし、トレードマークのネコミミもあるがにわかに信じられない。
俺の知っているシャムにゃんといえば、年頃は二十代後半の大人の色気を放出するケバい色ボケ猫お姉さんである。
こんな深窓の令嬢にネコミミをつけただけのような清楚なネコミミ美少女ではない。
違和感が半端ないが、女の人に年齢のことを尋ねるのもなあ。
本人だったら間接的に年増呼ばわりするってことだし。
「いやシャムにゃんさんは三十代前半のはずだからおかしいんじゃないですか?」
おいバカ!
「グアあああ! 目がああああ!」
俺が内心でザキに突っ込むと、恐ろしく早い目潰しがザキを襲った。
このキレ様。
間違いない本人だ。
「と、とりあえずここで話すのもあれだし、家に送りがてら話そうか」
娘が学校の門前で生徒を〆たのに焦ったのか、ナイスミドル──猫屋敷さんはそう切り出してくる。
まあ確かに部活に行ってる生徒が多いとはいえ、周りから見られているし、ザキの悲鳴で若干集まってきてる感があるからな。
「そうすね」
俺が返事をして不服そうな顔をしたシラメさんと猫屋敷さん、目が回復しきってないザキが執事さんに介護されつつ乗るとリムジンが出発する。
中は広く、四人が同じ空間にいるが窮屈感を感じない。
これが生まれながらの勝ち組しか乗ることが許されない車か。
ただ乗せてもらってるだけなのに全能感が半端ない。
このままフカフカのクッションに体ごと埋まりそうだ。
「本題に入ろうか。君へのお礼の件だが、私が運営する神薙学園に学費全額免除で入学か、一億の入金かにしようと迷っていてね。君の意見が聞きたかったんだ」
「カミナギガクエン?か一億?」
「神薙学園は国内初のダンジョン攻略者育成機関で、学力もすげえところだ。ダンジョン攻略者目指していくならこれ以上ない場所だし、配信者事務所とも提携してて配信者志望でも最高。しかも学力でも東大目指せるレベルだって言われてる。うちの底辺高と比べったら月とスッポンだ」
俺が疑問符を浮かべると、ダンジョン関連ということでザキが事情通だったようで耳打ちしてきた。
聞く限り、学園入学も悪くないけど一億があるからな。
未来の稼げるお金はおそらく入学した後の方が高そうだが、今すぐに一億の方が楽そうだからな。
「学園入学を選んだ場合は君の攻略者志望の友人も学園に無償で入学させよう。おまけに二人の生活費も全額私が負担するよ」
俺が一億を選ぼうかと思うと思うと、猫屋敷さんはそう提案してきた。
ザキの夢を人質にとってくるとは。
お礼は実質入学一択だけじゃないかこれ。
これが大人のやり方か。
「俺のことは気にしなくてもいいぞ。元々これは昨日の件のことが発端だし、俺は昨日の件では逃げたからな。それに学園選んだら勉強嫌いのお前の選択肢は攻略者か配信者だけになっちまう。お前がそれでいいならいいが。そうじゃなかったら俺のせいでお前の未来の可能性潰しちまう。それに元々学園に通わずに攻略者になるつもりだったしな」
ザキが心配させまいとしているのか、そう耳打ちしてくる。
そう言われてもこいつがどれだけダンジョンに情熱注いでるか知ってるからな。
中学の時に母子家庭で進路も地元の公立しか選べないって笑いながら言っていたが、実際はこのおあつらえの学園に行きたかったのを我慢してそうだし。
まあ勉強頑張れば攻略者以外の進路確保できるって話だし、攻略者がいやになったら勉強ガチればいいか。
「やり方がやらしいですね。嫌なら断ってくれていいですよ」
「ああ、大丈夫です。一億より攻略者目指した方が稼げそうですから。まあウチの親、猫屋敷さんが説得できたらって話ですけど」
「じゃあ決定だね」
シラメさんが助け船を出してくれたが、俺の中ではもう答えは出ていたのでそのままOKを出した。
デメリットもないからな。
どうせ今の高校通ってても誰でも就職できるような適当なとこに就職するか、攻略者になるくらいだし。
「ありがとう。君たちの選択を後悔させないように私も尽力させてもらうよ」
まあ先ほど闇を見たが猫屋敷さんも悪い人ではなさそうだしな。
実の娘からゴミを見るような目で見られているが。
それからザキの家と俺の家に行き、溢れ出る上級国民オーラで両親たちに「お好きにお使い下さい」と言わしめると4月半ばの入学式から神薙学園に入学することに決まった。
家に居たバビロンにスキルレベルが上がった件について聞くと母親に家事を仕込まれたら上がったらしい。
何やってんだババア。
それにしても家事仕込まれたら上がるスキルレベルってなんだ?
俺は学園に入ったらスキルレベルのことについて聞いた方がいいかもしれない。
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