3—6 楽観と悲観を超えて
追撃戦での残党狩りも終わり、俺たちはヤーウッドへの帰路についた。
指揮馬車に揺られながら、俺は青い駒だけが綺麗に整列した盤面を眺める。
一方のロミーは、外に連なる雄大な山の景色を見つめていた。
そんなときだ。ロミーが何かを見つけたらしい。
「うん? あれはスチアさんと……フヅキさん!?」
俺もふと外に目を向けると、たしかにシルバーの長い髪をなびかせ馬を走らせるスチアの姿が視界に映った。
けれどもフヅキはどこにいるのだろう。
少し目を凝らしてみると、スチアが何かを脇に抱えている。まさかと思ったが、そのまさかだったらしい。指揮馬車のすぐ後ろにまでやってきたスチアは、楽しそうな顔をしたフヅキを脇に抱えていた。
それだけでも充分に驚いたのだけど、本当に驚いたのはここから。
指揮馬車のそばまでやってきたスチアは、フヅキをポイッと投げた。投げられ、宙を舞ったフヅキは、指揮馬車に乗るロミー目掛けて大はしゃぎ。
「うおぉ~!」
「あわわわわわ!」
焦りに焦った様子のロミーは、飛んできたフヅキをなんとかキャッチした。キャッチはしたものの、バランスを崩して倒れそうになる。そんな彼女を俺が支える。
ロミーは俺の両腕に支えられながら、自分の腕の中にいるフヅキに声をかけた。
「フヅキさん!? け、怪我はありませんか!?」
「大丈夫! どこも痛くないよ~! それよりもロミ姉! 今の見た~? わたし、スチ姉のおかげで、びゅーんって空飛んだよ~!」
「はい、見ましたよ! なかなかめちゃくちゃな光景でした!」
なぜか楽しそうに笑い合う2人。
俺がほっと一息ついていると、笑顔のままのフヅキは俺の隣にちょこんと座り、キラキラの瞳を俺に向けて言い放った。
「ライ兄! わたし、これからもずっと、ライ兄の部下だからね!」
「ど、どうした急に?」
首を傾げる俺に対し、フヅキは両手を広げながら答えた。
「わたしね、たぶん人よりすごい力をもってるんだ!」
「だな。知力100だし、チート戦法使えるし、スキル大量に持ってるし」
「せっかくのすごい力だもん! この力がね、いっぱい活躍できる場所を探してたの!」
そしてフヅキは軽快なリズムで続ける。
「わたしの力が活躍できる場所は、敵がいっぱいいて、その敵との戦力差がすごくて、人が足りなくて、もうすぐ滅亡しそうな場所!」
「まさに今の俺たちだな。というか俺たち、ホントにひどい状況なんだな」
思わず俺は苦笑い。
一方のフヅキは、俺をじっと見つめると、花を咲かせたような表情で言うのだった。
「でもね、一番大事なのは、そんな大変な状況をひっくり返せちゃいそうな人がいること! もしかしたらライ兄がその人かも、って思ってついてきてみたけど、さっきの戦いを見て確信したの! ライ兄はその人だって!」
年齢相応の無邪気な笑顔を浮かべたフヅキ。彼女はパッと立ち上がると、大きく息を吸い、胸を張るのだった。
「わたしの力、ライ兄の部下になればいっぱい発揮できる! だからわたしは、これからもずっとライ兄の部下だからね!」
まっすぐな言葉を受け取って、俺の頬は緩むばかりだ。
――まさか俺が、天才軍師にここまで評価されるなんてな。
少し前、会社員であった頃なら想像すらできなかったことである。死ぬ寸前、滅亡寸前のライナーに転生させられたのは不幸だと思っていたが、今だけは、この絶望的状況に感謝したいくらいだ。
フヅキは俺に期待してくれている。だったら、俺もその期待に応えないと。
「よしわかった! フヅキ、お前のすごい力、存分に発揮させてやる!」
「おお~! ライ兄、だいすき~!」
まぶしい笑顔で、フヅキは勢いよく俺に抱きついた。
小さな体が俺をぎゅっと抱きしめている。転生前含めて人生初のこの状況に、俺は一体どうすればいいのかわからず右往左往。
とりあえずロミーに助けを求めようとしたのだけど、なぜかロミーは頬を膨らませていた。
「ど、どうしたロミー?」
「ロミ姉、ぷっくりしてるよ~!」
「なっ、なんでもありません!」
絶対になんでもないはずはないけれど、気にしないでおこう。
フヅキに抱きつかれたままの俺は、ふと外を眺め、少し未来に目を向けた。
「さてと、本番はこれからなんだよなぁ……」
6千のイズミア軍に勝利したところで、その後方にはイズミア軍の約2万の大軍が迫ってきているんだ。しかも、ノーランの仇討ちという大義名分に乗っかった諸侯が味方すれば、大軍の数は約10万にまで膨れ上がってしまう。
イベントでは、この10万の兵に囲まれて、サウスキアは抵抗虚しく滅亡するのだ。
だが、ライナーは生き残った。フヅキはサウスキアに味方した。シャルは全魔力を戦闘に集中してくれた。魔物の流入を増やした。情報戦をはじめた。イズミア軍の先行部隊を退けた。すでにイベントの中身は狂っているのだ。
あとは、これらの狂いが本番にどう影響してくるかだ。これらの狂いは、果たして滅亡イベント回避に役立ってくれるのだろうか。
――ま、あんまり不安に思ってても仕方ないよな。やれることはやったんだ。これからも、やれることをやるだけだ。
決意を新たにした、というよりは半ばヤケクソに走った俺は、フヅキに抱きつかれたまま、頬を膨らませるロミーとともに、指揮馬車に揺られヤーウッドへと戻るのだった。
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