3—4 サウスキアの戦い前哨戦:反撃
ここからは攻撃のターンである。俺はシャルの部隊の戦法ゲージが光でいっぱいになると同時、指示を飛ばした。
「今だ! シャル、戦法『希望の光』を発動!」
《……はい、兄上!》
瞬間、前線で戦っていたシャル隊から青白い光の塊が浮かぶ。光の塊は破裂し、無数の光の破片がサウスキア軍全体に覆い被さった。
光の破片をかぶった戦人形たちは、胸に仕込まれた魔鉱石を強く輝かせる。
シャルの戦法『希望の光』は、味方部隊のステータスを大幅アップさせるというものだ。彼女の戦法によって、サウスキア軍は強化されたのだ。
事実、先ほどまで戦列を歪ませていた前線部隊は、一切の歪みもなく防御陣形を組み、敵軍の突撃に耐えた。
「シャル様と将軍様たちの部隊、敵軍の攻勢を受け止めました!」
ロミーの明るい報告。シャルも同じように明るい声で続けた。
《敵軍、わたくしたちの防御力を前に立て直しを図るようですの》
盤面上の赤い駒も、双眼鏡の向こうにいる敵の騎馬人形たちも、シャルの言う通り後退中。
ならばと俺は叫んだ。
「次の手だ! フヅキ!」
《戦法『謀略の霧』の出番だね! いっくよ~!》
まるでボール遊びでもはじめるかのようなフヅキの言葉と共に、赤紫色の霧がフヅキ隊の頭上に現れた。霧は崖の上から谷へと流れ、イズミア軍に絡みつく。
霧に絡みつかれたイズミア軍の戦人形たちは、目的を失った動物の群れのように、一切のまとまりもなく右往左往しはじめた。もはや英雄たちの指示は届いていない。
その様を見て、ロミーは言う。
「やりました! 敵軍が混乱しています!」
彼女の言う通り、敵軍は混乱し基本的な戦闘行動すらもままならない状態に陥った。
これこそがフヅキの戦法『謀略の霧』の威力である。LA4でもお世話になったこの戦法欲しさに、俺はフヅキを仲間に加えたのだ。
敵軍が混乱したおかげで、前線部隊が激しい攻撃に晒されることはなくなった。
だからこそ俺は、盤面上の青い駒を操作し、水晶に向かって叫ぶ。
「まだまだ! 前線部隊! 騎馬人形のために道を開けろ!」
俺は反撃のチャンスを作るために敵軍を混乱させたんだ。
今こそ反撃の時。俺の指示を受けて、敵軍の攻撃を防ぎ続けていた前線部隊が谷間の端に動いた。
おかげで谷間の道がひらけ、スチア率いる騎馬人形隊が敵軍に向かって走り出す。
俺は続け様に叫んだ。
「行けスチア! 戦法『銀の鉄槌』で突撃、混乱中の敵軍をかき乱してやれ!」
まさにこの時のために用意していた部隊の投入だ。
指示に対して、スチアからの返答はなかった。けれども盤面上のスチア隊は混乱中の敵軍に向かって一直線に突撃をはじめる。
見晴らし台から双眼鏡をのぞけば、スチアと彼女が率いる騎馬人形たちは銀色の光に包まれていた。彼女らは槍を鋭く突き出し、敵軍以外には何も見えていないかのような勢いで駆けていく。
十数秒後、スチア隊が敵軍に衝突した。未だ混乱中の敵軍は槍に貫かれ、馬に吹き飛ばされ、蹄鉄に踏み潰され、散々にかき乱されていった。
スチアが発動した『銀の鉄槌』――個軍のステータスを強化し強制的な突撃を敢行、敵軍に大ダメージを与える戦法――を前にして、混乱中の敵軍は何らの反撃もできない。
表情ひとつ変えず自らも槍を振るい大暴れしながら敵軍に突っ込んでいくスチア。シャルとスチアの戦法によってステータスが大幅強化され、容赦無く突撃するサウスキアの騎馬人形たち。
イズミア軍の戦人形たちは瞬時にバラバラにされ、谷間には残骸が散らばっていく。まさに敵軍にとっての地獄の完成だ。
遠く離れた指揮馬車からでも苛烈な光景である。それを間近で見るシャルたちは声を震わせていた。
《す、凄まじい勢いですわ……》
《鬼気迫る突撃だ。まるで魔物だ》
《スチ姉、すごい!》
どうやらフヅキだけは楽しそうに戦場を眺めているらしい。
さて、シャルとフヅキの戦法、スチアの突撃で形成は逆転した。盤面を眺めていたロミーは盤面に乗り出し言う。
「もう少しです! もう少しで敵軍の統制が崩壊します!」
赤い駒の上に浮かぶ統制ゲージの光は、今にもカラになろうとしていた。
ここまでは全て俺の思惑通りだ。ゲームの勝ちパターンを、完全に再現できていた。
だが、赤い駒が戦列を立て直しはじめたのを確認して、ロミーは悔しそうに唇を噛む。
「あ! 敵軍の混乱状態が解けてしまいました!」
「『謀略の霧』は効果時間が短いからな。敵軍はこれを機会に後退をはじめるはず」
「ライナー様の仰る通りです! 敵軍、前線部隊を囮にして後退を開始! そろそろミンリーの『闇夜の罠』が発動される頃ですから、このままでは逃げられてしまいます!」
ロミーの見立ては正確だ。実際、盤面上でも現実でも敵軍は少数の部隊を残して撤退の動きを見せているし、ミンリーの戦法ゲージは光に満たされている。
それでも、まだ俺の思惑通りの展開であることに変わりはない。
「俺たちの勝利は負けないこと。だから敵軍が逃げ出せば目的は達したと言える。だが次の戦いを考えれば、可能な限り相手の戦意を削りたい。だから――」
まだこちらが使える戦法は残されているんだ。
「ただじゃ返さないぞ! ライナーの、俺の戦法『須臾の光』だ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます