第2章 無邪気な軍師と可憐な公女
2—1 天才軍師登場
スチアたちが倒した山賊の数は、きっと100人に上るだろう。
ここまでして、俺たちはようやく妨害されることなくサウスキアへ向かえるようになった。
そうして俺たちは一日中馬を走らせ続けたが、二日が経ち、山の麓にこぢんまりと佇む村を発見して、俺は馬を止める。
「ちょっと待ってくれ。そこの村に用があるんだ」
少し突然だったかもしれない俺の言葉に、ロミーとスチアは首をかしげた。
「寄り道ですか? 先を急ぐのでは?」
「速さこそが勝負を決めると言ったのは誰だったか」
「サウスキアの未来を決定づけるかもしれない、大事な用があるんだよ」
決して過言ではない。これは滅亡イベントを避けるために必要な行動なんだ。
村に近づくと、道端には簡素な槍や剣、農具を手にした体格のいい男たちが。彼らは村を囲み、村の外に警戒の視線を向け、俺たちをも睨みつけた。
ロミーはピリッとした口調で言う。
「武装した農兵がたくさんいます」
「山賊の襲撃に備えているのだろう」
スチアの言う通り。道中にあれだけ山賊がいたのだから、村が警戒するのは当然だ。
村の入り口に到着すると、村人の一人は怪訝そうな顔をした。
「この村に何用だ? 見たところ、山賊ではなく騎士か何かのようだが」
俺たちを敵視はしていないが、味方とも思っていない視線。俺はロミーに耳打ちする。
「ロミー、村の人に尋ねてくれ。フヅキ=シラカワに会いたい、ってな」
「フヅキ=シラカワ? ご友人ですか?」
「いや、優秀な英雄だ」
俺の答えに目を丸くしたロミーは、俺の言葉をそのまま村人に伝えてくれた。
「すみません、私はサウスキア辺境伯領の者です。フヅキ=シラカワさんという方に会いたいのですが、よろしいですか?」
「シラカワに会いたい……そうか……」
尋ねられて、村人は他の村人と顔を合わせ困り顔をした。
彼らは数分ほどひそひそ話を繰り広げ、言い放つ。
「しばらく待っていてくれ」
そうして村人は村の奥に消えてしまった。
村人の背中を眺めて、ロミーは顎に手を当てる。
「ライナー様がサウスキア辺境伯であること、気づいていないのでしょうか」
「どうだかな」
できれば気づかれたくないのが本音だ。面倒事は避けたいからな。
入り口で待てと言われて十数分。思いのほか俺たちは長く待たされている。
暇を持て余したロミーは俺に質問するのだった。
「フヅキさんって、どんな方なんですか?」
「天才軍師と呼ばれるほどの才能を持った英雄の一人だよ。彼女がいれば、厳しい戦況すらも容易にひっくり返せると言われている」
「本当ですか!?」
「ああ。LA4プレイ――民衆たちの間でも人気が高いしな」
「へ~、存じ上げませんでした。早く会ってみたいです!」
簡単な説明を聞いて、ロミーの瞳がキラキラ輝く。
フヅキについてより詳しく言うと、彼女はサウスキア近郊の村、つまりこの村の生まれで、サウスキア滅亡後にイズミア伯ムスタフに仕えた人物だ。
彼女はあらゆる策を繰り出し対魔物戦線で大活躍、天才軍師として出世する。ところがムスタフは彼女を警戒し、部下の讒言を受け入れフヅキを追放してしまう。結果、翌年には対魔物戦線が崩壊しムスタフは求心力を削がれる。というイベントがある。
ムスタフ死後にフヅキは復権し、さらなる活躍を――と、これは数十年後の話だから今は必要ないか。
大人っぽさと可愛さが同居した顔グラと強すぎる戦法、そしてイベントが豊富なフヅキは、LA4においてライナーの妹のシャルに次ぐ人気女性英雄キャラだ。
俺はなんとしてでもフヅキを――なんて考えているうち、村人が戻ってきた。
「お待たせいたしました。どうぞこちらへ」
なんかこの村人、いきなり態度を変えてきたな。まあ、ぶっきらぼうにされるよりはマシか。
村人の案内に従い、俺たちは藁の屋根をかぶった石造りの小さな家の前へ。どうやらこの家にフヅキがいるらしい。
俺は小さな家の玄関をくぐるなり、大河ドラマの主役を気取って挨拶した。
「失礼する。フヅキ=シラカワに会いに来た」
だが、魔法石の仄かな光に照らされた部屋は静まり返ったまま。
続けてロミーも声を張り上げる。
「フヅキさん? いらっしゃらないのですか?」
けれどもやっぱり返答はない。
代わりにロミーは、部屋の真ん中に置かれていた木の棒を見つけた。
「これは――」
何気なく木の棒を手に取るロミー。直後、かわいらしい声が部屋に響き渡った。
「クハハハ! ついに勇者の剣を手にする者が現れたようだな!」
ふと声のした方向に目を向ければ、そこにはツインテールと手作りマントを揺らした、にっこり笑顔の女の子が一人。
女の子は木の棒を持ったロミーに駆け寄ると、楽しそうに続けた。
「君は今日から選ばれし勇者だ! さあ! 魔界に行って魔物を倒すのだ!」
「え?」
「でも魔物は強い! だからまずは修行をしないとな! さあ、ここにあるボールを、あのカゴに投げ入れるのだ!」
どこからか取り出したボールをロミーに差し出し、庭に置かれたカゴを指さす女の子。
対してロミーは、ボールを持ちながら呆然としてしまっていた。
微妙な空気が流れて、女の子は言う。
「あれ~? お姉ちゃんは勇者ごっこ、あんまり好きじゃないの~?」
「好きじゃないわけではありませんが……その……ちょっと唐突だったので……」
「じゃあじゃあ! 唐突じゃなきゃ、一緒に勇者ごっこしてくれるの~?」
「う~ん、それならオッケーかもです」
「やった~! よ~し、まずは勇者ごっこについて教えてあげるね!」
「はい! お願いします!」
瞳をキラキラさせるロミーと女の子。俺は思わずツッコミを入れてしまった。
「おいおいロミー、勇者ごっこに呑み込まれるな」
「はっ! 危うく童心に戻るところでした!」
正気に戻ったロミーは、ボールを返しながら女の子に尋ねる。
「あの、フヅキさんはどこにいらっしゃいますか?」
「はいは~い! ここにいるよ~!」
「うん?」
「だから~、ここにいるよ~!」
勢いよく手を挙げて、女の子はぴょんぴょんと飛び跳ねている。まさか――
「君がフヅキ=シラカワ!?」
「フフン! その通り!」
胸を張った女の子――フヅキはなぜか鼻高々だ。
――なんか思ってたより子供だぞ。
想定外の事態である。ただ、よく考えればフヅキが活躍するのは数年後だ。年代を考えれば、今のフヅキが子供なのは当然である。まったく、何歳だろうとゲームの顔グラが変わらないLA4の仕様に騙されたな。
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